Skip to content →

20XX/03/24 どうして私だけ…

 
《世界が終わるまで365日》
 
たぶんたくさんの人が、どうして私だけと思ったとおもう。
不幸や不運や、たくさんの悲しいことをどうして味わなきゃいけないんだって思ったとおもう。
カイエダから言えば、それは単なる思い込みでしかないらしい。
個人的な感傷にしかすぎない。
だって、世界は個人の感傷なんて置き去りにして進んで行く。
どうして私だけって思った人も、思ってない人も、みんなみんな消えてしまったから。
豚汁のカップにお湯をそそぎながら、カイエダはラジオを聞く。
どこから流れてるかわからないラジオ番組だ。
昔はやっていたヒットソングをずっとループして流してる。
今流れているのは「渚のハイカラ人魚」だ。
こたつに足を突っ込んだハマが時々「イェイ、きょんきょーん」と間の手をいれて、何が面白いのかヒッヒッと声をあげて笑う。
カイエダが豚汁のカップをハマの前に置きながら、ふと思い出したように呟く。
 
「温かくなってきたな」
「そだね。そろそろ食料探しもしないと」
 
カイエダの顔が不機嫌そうにゆがむ。
カイエダは外に出るのがきらいだ。
ハマは外に出るのもすきだし、食料探しも宝探しみたいですきだ。
瓦礫の下からサバの味噌煮の缶詰をみつけた時なんかは、金ののべ棒を探りあてた以上の達成感がある。
 
「豚汁飽きてきたし」
「俺は一生豚汁でもいい」
「最近肉食べてないなあ」
「豚汁に肉が入ってるだろうが」
「お肉食べたいなあ」
「お前、人の話聞いてるのか」
 
顔を顰めるカイエダに向かって、ハマはにやーっと笑う。
 
「肉みつけてきたらあれ作ってよ」
「あれ?」
「肉をきゃべつで巻いたやつ」
「ロールキャベツ?」
「そう、それ」
「キャベツがない」
「そこはがんばって」
「がんばれねぇよバカ」
 
カイエダが面倒くさそうにため息を吐く。
缶詰に入っていない野菜なんて、もうここ二年食べてない。
あと三年で世界が終わると聞いた時、もう二度とロールキャベツが食べれないなんて考えもしなかった。
お金持ちの人は宇宙船に乗って未知の世界へ逃げ出すことを選んだ。
普通の人や貧乏人は、逃げ出すこともできず、自棄になってたくさんの人と長いあいだ争った。
銃声と爆発音と悲鳴と、それから不意に訪れた静寂。
二年間の戦争で、人類はほとんどいなくなってしまった。
長い間、ハマはカイエダ以外の人間を見ていない。
もしかしたら、二人以外にもう人間は残ってないのかもしれない。
でも、それでいいんだと思う。
たぶんもっとたくさん人が残ってたら、最後の日まできっと憎みあってしまうから。
豚汁を啜りつつ、くもった眼鏡の表面をカイエダが丁寧な手つきで拭いている。
じっと自分を見ているハマに気づくと、怪訝そうに眉を顰めた。
 
「豚汁おいしいね」
「はぁ」
「しあわせだなあ」
 
カイエダがやっぱり理解不能と言わんばかりに肩をすくめる。
電気のついていないコタツに両手を突っ込みながら、ハマはもう一度「しあわせだなあ」と繰り返す。
どうしてカイエダとハマだけ生き残ったんだろう、と時々考える。
答えはでない。
たぶん、最後の一日になっても答えはでないままなんだろうと思う。
明日はやっぱり食料を探しに出かけよう。
ロールキャベツはもう二度と食べれなくても構わないから、世界が終わる前にカイエダに豚汁以外に美味しいものを食べさせてあげたいなと思った。
 
 

< back ┃ topnext

Published in 世界が終わるまで365日

Top