Skip to content →

20XX/03/25 ホットコーヒー

 
《世界が終わるまで364日》
 
赤い屋根瓦の上に座って、水筒の蓋についだホットコーヒーをちびちびとすする。
隣にはカイエダが瓦礫の下から掘り出した三十センチぐらいの正方形の缶をこじあけようとしている。
 
「あきそう?」
「開かないな」
「ガ・ン・バ!」
「うるせぇ、役立たず」
 
カイエダの口は悪い。
顔が綺麗な分だけ反比例して口が悪くなったみたいだ。
コーヒーをカイエダに渡して、受け取った缶の蓋にさっき拾った錆だらけの十円玉を挟む。
 
「テコの原理か」
「テコってだれ?」
「黙って開けろ、ボケ」
 
十円玉にぐぐっと力を込めると、ぽんっと音が鳴って蓋が外れた。
途端、缶の中から饐えた臭いがむわっと立ちのぼる。
 
「うええぇ」
「ああ、やっぱり腐ってたか」
 
のんびり呟いて、カイエダはコーヒーを一口啜った。
何をそんな余裕しゃくしゃくと。
黒いドロドロとしたヘドロみたいなものが缶の中には詰まっていた。
たぶん元はせんべいか饅頭だったんだと思う。
長い間土の中に埋まっていたせいか、完全に細胞変化を起こして液体化している。
缶を瓦礫の下に放り投げながら、鼻腔の奥に貼り付いた臭いを取りたくてカイエダからコーヒーのカップを引ったくた。
カップに残ったコーヒーを一息に飲み干すと、少しだけ落ち着いた。
 
「びっくらしたー」
「茶菓子にもならなかったな」
 
傍らに立てていたAKM2を肩に掛けながら、カイエダが立ち上がる。
屋根瓦の上に立ち尽くしたまま、ゆっくり左右を見渡す。
辺りには瓦礫しかないと解ってるのに、それでもカイエダは警戒を怠らない。
カイエダは、兵士だった時の癖がずっと抜けない。
 
「まだ探すか」
「まだまだ、何も見つけてないじゃん」
「暗くなったら帰るからな」
 
夜になっても月も星も出てこない。
ネオンを輝かせるビルもない。
この世界は、ホットコーヒーみたいな真っ暗闇に覆われる。
暗闇もホットコーヒーみたいに飲み干せたらいいのにな。
そんな事を思いながら、ハマは十円玉を瓦礫に埋もれた戦車へと向かって投げた。
 
 

backtopnext

Published in 世界が終わるまで365日

Top