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20XX/03/31 心機一転

 
《世界が終わるまで358日》
 
終わりゆく世界で最も必要なことは、気持ちを切り替えるということかもしれない。
よく言えば心機一転。
悪く言えば感情の麻痺。
カイエダは、その切り替えが上手い。
まるで、背中にON/OFFのスイッチが付いているかのように、感情をあらわにしたり、感情を殺したりすることが出来る。
それに比べて、ハマは、その切り替えがとんでもなく下手糞だ。
だから、今もぐずぐずと鼻を鳴らして泣いている。
 
「いつまで泣いてんだよ」
 
素っ気なく言いながらも、カイエダはハマの背中を撫でてくれている。
瓦礫の上に座り込んだまま、ハマは膝に顔を埋めて泣いていた。
何てことはない。
ただ、寝ぐらへの帰り道で骨を見つけただけだ。
崩れかけた体育館の中を覗き込んで、折り重なった大量の白骨死体を見付けた。
ただ、それだけのこと。
三年前の世界が終わる宣言の後に、集団自殺が一世風靡したことは知っている。
まるで世間のトレンドに乗るかのように、人々は集まっては自分から命を断った。
世界の残酷さや生きることの虚無から顔を背けて、永遠に目を閉じた。
 
「泣いたって仕方ねぇだろうが」
「わかってる」
「なら、もう泣くな」
「涙がとまんない」
 
鼻水でぐじゅぐじゅになりながら、涙声で必死に答える。
人が死ぬのは特別なことじゃない。
だけど、大勢の人が一斉に死ぬのは当たり前のことじゃない。
それは、悲しいことだ。
それは、苦しいことだ。
カイエダがぐいとハマの腕を引っ張る。
泣き止まないハマを、微かな憤怒を持って見下ろしている。
 
「立て、ハマ」
「かいえだ」
「暗くなる前に、寝ぐらに戻る」
「かいえだ」
「黙って立て!」
 
大声で怒鳴りつけられて、ハマは涙をぼろぼろと零したまま立ち上がった。
そのまま連行される罪人のように腕を掴まれて歩かされる。
 
「かいえだ」
「五月蝿い」
「聞いてよ、おねがいだから聞いて」
「お前の泣き言は聞きたくない」
「おれは、ひとごろしだ」
 
カイエダの足がピタリと止まる。
振り返ったカイエダは、吃驚するぐらいの無表情でハマを見据えた。
 
「俺だって人殺しだ」
「カイエダは兵士だった。でも、おれは…」
 
カイエダがハマの手を振り払った。
体勢を崩してよろめくハマを尻目に、カイエダは一人ですたすたと歩いて行ってしまう。
ハマは、去っていく背中をぼんやりと眺めた。
涙が頬を伝って、瓦礫の上にぽたぽたと落ちた。
 
 

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Published in 世界が終わるまで365日

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