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20XX/04/05 目覚まし時計を叩いて止める

 
《世界が終わるまで353日》
 
ジリリリリと夏のセミのような音が聞こえた。
セミの声なんて随分前から聞いていない。
確か数年前に東京に落とされた大型爆弾で、木も草も焼け果ててしまって、セミは絶滅してしまったはずなのに。
そんな事をぼんやり考えながら目を開くと、目の前で錆びだらけの目覚まし時計が躍っていた。
床の上で小さく跳ねる目覚まし時計を叩いて止める。
起き上がって大きく伸びをすると、カイエダの声が聞こえた。
 
「十分後に出発するぞ」
「えー、まだ服も着替えてないー」
「だから、さっさと着替えろっつってんだ」
 
そう冷たく言い放つカイエダは、もう背中にバックパックを背負っている。
勿論その肩にはAKM2を掛けていた。
 
「それ置いていかない? 別にいらないじゃん」
 
もう戦争する相手もいないのに、どうしてカイエダが未だに銃を持ち続けるのかハマには解らなかった。
だけど、カイエダは一度唇を左右に引き結んだ後、ゆっくりと首を左右に振った。
 
「置いていかねぇ」
「もう撃つ相手なんて、俺しかいないよ」
「お前は撃たない」
 
はっきりと答えるカイエダの声に、少しだけ悲しくなった。
そうして、ふと思った。
カイエダが死んだら、一体自分はどうするんだろうと。
まだ布団から出ないハマの足を、カイエダが乱暴に蹴り飛ばす。
 
「早く用意しろ。今日中にアクアラインまで行くぞ」
「千葉に行くの?」
「本当は東京を突っ切って東北の方に行きてぇんだけど、東京はどこも爆撃が激しくて瓦礫の山だらけだからな。迂回して千葉の方から上がって行く」
「東北行くんなら、俺北海道に行きたいなー。ジンギスカン好きなんだよ」
 
ハマの暢気な言葉に、カイエダの表情が少しだけ緩む。
そうすると、冷徹なカイエダの顔が何とも優しく見えて、ハマは嬉しくなった。
 
「北海道は一番爆撃が少なかった土地だから、もしかしたらまだ家畜が生きてるかもな」
「そしたら、俺とカイエダで牧場やろう」
「生きてたらな」
 
それは家畜がだろうか。
それともハマとカイエダのことだろうか。
どちらのことか解らず、ただハマはにまーっと笑みを返した。
起き上がって、一番お気に入りの服に着替える。
どこかの軍営から取ってきた軍用ブーツを履いたら準備は完了だ。
 
「いってきます」
 
今まで暮らしてきた部屋にひらひらと手を振って、二人で家を出た。
夏の声をあげる目覚まし時計とさよならをして。
 
 

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Published in 世界が終わるまで365日

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