Skip to content →

20XX/04/06 記念撮影

 
《世界が終わるまで352日》
 
「カイエダー、こっち向いてー」
 
間延びした声で呼びかけると、片手にランプを持っていたカイエダが面倒くさそうに振り返った。
パシャッ、と小気味よい音とともにフラッシュが焚かれる。
数メートル先も見えなかったトンネルの中が光に満ちて、一瞬でまた暗闇に呑まれた。
 
「遊んでねぇで、さっさと進め」
「いいじゃん、記念写真なんて撮ったことないしさぁ」
 
地面にたまった水たまりを踏み締めながら、カイエダへと小走りに近付く。
カイエダの手前で小さな瓦礫に躓いてつんのめった。
前のめりになったハマの身体をカイエダが咄嗟に抱き留めてくれる。
 
「このグズ」
「ごめんごめん」
 
当たり前のように、そんな短い遣り取りをする。
カイエダに片手を掴まれて、引っ張られるようにして進みながら、もう一度トンネルの奥へと向かってシャッターを切る。
途端、トンネルの中に置き去りにされた何百何千もの車が照らされた。
みんなどこかへ逃げようとして、どこにも逃げられなくて、車だけが取り残されてしまった。
この使い捨てカメラもそうだ。
車の座席に置かれていたのを、ハマが拝借させて頂いた。
トンネルのあちらこちらには微かな罅が入っていて、そこからちろちろと水が漏れ込んでいる。
カイエダが足下の水たまりをバチャッと音を立てて踏んだ。
 
「トンネルが崩壊する前に出るぞ」
「崩壊したら?」
「お陀仏」
 
お陀仏というカイエダの言い方が面白くて、ハマは声をあげて笑った。
笑い声がトンネルに反響して戻ってくる。
まるで自分が二人になったみたいだ。
 
「お陀仏するなら、やっぱり記念写真撮っておこうよ」
「何のための記念だ」
「俺とカイエダが生きてました記念」
「そんなもん見る人間がいねぇぞ」
 
この世界は滅びてしまうんだから、と言わんばかりにカイエダが肩を竦める。
 
「もしかしたら、宇宙人が拾うかも」
 
絵空事じみたハマの言葉に、カイエダがはーっと大きくため息をついた。
カイエダが地面にランプを置いた瞬間、ぐいと肩を引かれる。
もう片方の手でカメラを持った掌を掴まれた。
唇が柔い何かに触れた瞬間、シャッターに置いていた指を押された。
目も眩むようなフラッシュの後、カイエダの唇が離れる。
 
「世界最後のゲイ写真になるかもな」
 
カイエダが珍しく悪戯っぽい台詞を呟く。
 
「宇宙人にゲイとか解んのかな」
「知るか」
「そもそも、俺とカイエダってゲイなの?」
「さぁな」
 
いい加減に話を打ち切って、カイエダが再びランプを持って歩き出す。
その後ろをついて歩きながら、ハマは少しだけ上機嫌な声を上げた。
 
「カイエダ」
「何だ」
「俺はゲイじゃないけど、カイエダのことは大好きだよ」
 
短い沈黙の後、そうか、と呟くカイエダの柔らかな声が聞こえた。
掌の中にぎゅっと使い捨てカメラを握り締めたまま、ハマは小さく笑い声を漏らした。
暗闇に笑い声が反響して、すぐに聞こえなくなった。
 
 

backtopnext

Published in 世界が終わるまで365日

Top