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20XX/04/07 ここから一歩踏み出せば

 
《世界が終わるまで351日》
 
アクアトンネルを抜けると、左右に海を望めるアクアブリッジへと出る。
トンネル内と同じく、置き去りにされた車が立ち並ぶ道路がまるで天まで続くように延びていた。
爆撃によって所々が寸断された橋を眺めながら、カイエダが苦虫を噛み潰したような表情で呟く。
 
「最悪だ」
 
目の前には、全長五メートルはありそうな断裂があった。
 
「さすがにジャンプじゃ届かないねー」
 
断裂から真下を覗くと、遥か下に海面が見えた。
真っ青な海面には落下したらしき車の残骸やコンクリートの破片が大量に浮かんでいる。
落ちたら瓦礫にぶつかってお陀仏、というのが可能性としては高そうだ。
 
「川崎軍と木更津軍は最後まで共同戦線張ってたから橋へは攻撃してないと思ってたが、ダメだったか」
「ほかの軍隊に落とされたか、どっちかが裏切ったか」
 
ハマが呟いた言葉に、カイエダは返事を返さなかった。
長引きすぎた戦争で、みんな最後には自分たちが誰と戦っているのかも解らなくなってしまった。
手当たり次第、生きとし生けるものはすべて、皆銃弾や砲撃を浴びて死んでしまったから。
 
「カイエダ、それ貸して」
 
カイエダの肩に掛けられたAKM2を指さす。
カイエダは一瞬ピクリと身体を戦慄かせた後、黙ってAKM2をハマへと差し出した。
背負っていたバックパックを下ろして、中からロープを引っ張り出す。
ロープにAKM2を結び付けて、橋の断裂の向こうで横倒しになっていた車へと向かって思いっきり投げ飛ばす。
ガチンと音が鳴って、AKM2は車の側面に当たって地面に落ちた。
 
「惜しい!」
 
一人で叫ぶと、カイエダが呆れたようにため息を付いた。
 
「壊すなよ」
「壊れてもいいじゃん」
 
お互いにちぐはぐなことを言いながら、もう一度AKM2を投げつけた。
今度は開いていた助手席の窓の中へと上手く入る。
ぐいっと引っ張っても抜ける気配はない。
こちら側のロープの端っこを、近くに倒れていた車のハンドルへと結び付ける。
 
「カイエダ、リュックあっちに投げて」
 
見かけによらず、ハマよりもカイエダの方がずっと力が強い。
そう言うと、カイエダは素早くハマのバックパックを両手で持った。
ぐんと右踵を支点に身体を半回転させて、バックパックを五メートル先の地面へと投げる。
カイエダが自分のバックパックも同じように放り投げるのを横目に見ながら、ぐっぐっとロープを引っ張って一気に体重を乗せた。
 
「先に行くねー」
 
気の抜けた声で宣言して、両手と両足をロープに絡めて、そのままロープを伝っていく。
暫く進んだところで首を反らして真下を見下ろした。
真っ青な海面が見える。
吹き付ける潮風は、涙みたいな透き通った匂いがした。
もし今ここでロープから手を離したら、一歩踏み出す覚悟ができれば、美しさだけを感じて死ぬことができるんじゃないかと思った。
 
「落ちるなよ」
 
カイエダの声が聞こえる。
だから、手を離せなくなった。
ロープを渡り切って、落ちていたバックパックを背負う。
五メートル離れた場所に立ち尽くすカイエダを見て、強請るように言う。
 
「早く来てよ」
 
カイエダが仕方ないなと言わんばかりにロープを掴んだ。
 
 

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Published in 世界が終わるまで365日

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