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20XX/04/11 喉

 
《世界が終わるまで347日》
 
あぁあぁ、と喉を振り絞るような声が聞こえた。
隣に立つハマが両手で顔を覆って、唇から呻き声を漏らしている。
その悲痛な声に、こんなところに来るんじゃなかった、と今更ながらに後悔が押し寄せてきた。
村の端っこにあった小さな一軒家。
倒壊しておらず、荒らされた形跡もないから、すっかり油断していた。
 
「ハマ、出てろ」
 
短く命じるが、ハマは首を小刻みに左右に振った。
ハマがゆっくりと目元から手を外す。
視線の先には、宙に吊り下げられた三人分の遺体があった。
かなり月日が経っているのか、腐敗後に一部がミイラ化している。
腐敗臭がないのは、和室から庭にかけての窓が開かれて、風通しが良かったおかげだろう。
おそらくは成人している男女が一人ずつ、後は子供の遺体だった。
三人とも首に太いロープが巻き付けられている。
 
「…家族かな」
 
ハマが酷くか細い声で囁いた。
 
「心中だろうな」
 
そう返すと、ハマはゆっくりと俯いた。
倒れていた椅子を起こして、ハマがその上に立つ。
ポケットから折り畳みナイフを取り出して、死体の喉に食い込んでいるロープをきりきりとナイフで切っていく。
カイエダは黙って、床に落ちないよう死体を支えた。
ロープが切れると、子供を真ん中にして三人の死体を畳の上に並べていく。
椅子から降りながら、ハマが言う。
 
「ありがとう、カイエダ」
「全員にはできないからな」
「うん、わかってる」
 
釘をさすカイエダの言葉に、ハマは従順に頷いた。
 
「死んでまで、吊られっぱなしなんて辛すぎるから」
「死んだら、辛いも何も感じねぇだろ」
「死んだ人じゃなくて、生きてる人が辛い」
「お前は感傷的すぎる」
「うん、ごめん」
 
カイエダは、少し言葉に詰まった。
唇を僅かに引き攣らせて、ようやく一言返す。
 
「怒ってはない」
 
ハマは、また小さな声で、うん、とだけ呟いた。
 
「使える物がないか探すから、お前は外に出てろ」
「ううん、俺も探すよ。もう大丈夫だから」
 
ハマは、もう三人の遺体を見なかった。
しっかりとした足取りで、隣室へと向かって歩いていく。
その背を眺めながら、カイエダは無意識に自身の喉をさすった。
 
 

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Published in 世界が終わるまで365日

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