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22 侵入

 
 あの日、テメレアは神を見た。狭く、閉ざされた地下洞窟で、血と泥にまみれた美しい女神を。
 
 
「絨毯に血を落とすな」
 
 
 ぼんやりと霞んだ思考に、無遠慮な声が潜り込んでくる。目を伏せると、自身の下唇からぽつりと血が滴っているのが見えた。先ほど殴られた際に、咥内の粘膜を切ってしまったらしい。
 
 テメレアが手を伸ばすよりも早く、口元に布があてがわれた。ちらりと視線を横へと向けると、侍女の服を着たイヴリースが白い布をそっとテメレアの唇へと当てているのが見える。テメレアと目が合うと、イヴリースは曖昧な笑みを浮かべた。どこか奇妙な女だと思う。笑っているのに泣いているように見える。
 
 
「あとで手当致しますので…」
 
 
 まるでイヴリース自身が傷を負わせたかのように、罪悪感にまみれた声で耳元に囁かれる。そのか細い声に、テメレアは小さく首を左右に振った。
 
 
「気にせずともいい」
 
 
 小声で返す。だが、咥内が切れて腫れているせいか、自分の声は酷くくぐもって聞こえた。その鈍い声に、思わず笑いそうになる。
 
 顔は一発にしてくれとお願いしていたが、その一発が中々に強力だった。前日にも同じ箇所を殴られていたせいか、拳が右頬にぶち当たった瞬間、目の奥で火花が散るような痛みが走って、テメレアは地面を転がり回りそうになったほどだ。
 
 それに対して、テメレアを殴打した当人は、自分が付けた痣具合を確かめるように平然とした顔でテメレアを見下ろしていた。その醒めた眼差しには、欠片の罪悪感も滲んでなかった。ただ、戦場で必要な事をしただけと言わんばかりの事務的な表情だった。
 
 心底酷い人だと思う。酷いというよりも、冷酷という表現の方が正しいのかもしれない。他人を痛めつけること、他人を殺すことを躊躇わない。そもそも、彼は他人の生死や人生に興味がないのだ。もしかしたら自分自身の生死すらどうでもいいのかもしれない。
 
 彼は、きっとこの国を救うなんていう思考は持っていない。金のためだとは銘打っているが、きっと金に対しても大した執着はないのだろう。テメレアの目からすると、彼はただ自分の周りのすべてを破壊しようとしているように見える。無謀に、無秩序に、まるでゲームのようにこの世界を玩弄しようとしているのだ。
 
 人間よりも限りなく畜生に近い精神をもった相手だというのに、テメレアは初めて会った瞬間から、その男に焦がれてやまない。つい昨夜、その黄みがかった肌をまさぐった事を思い出す。テメレアの下で、悶え捻れた身体を。その体内の焼けるような熱さを。一度も組み敷かれたことなどないだろう屈強で傲慢な男を真上から刺し貫く高揚と愉悦は、なかなか忘れられそうにもない。
 
 
 扉を叩く音で、遠ざかっていた思考が戻った。先導していた兵士が目の前の扉を叩いている。
 
 開かれた扉の中は、執務室のようだった。花も挿していない壷やら毛足の長い絨毯やら、一目見ただけで金がかかった調度品が至るところに配置されている。巨大な窓の前に置かれていた白い執務机の前に、男が座っていた。一度見たことのある顔だ。
 
 油で後ろに撫でつけられたテカテカとした白髪、鼻が大きくて彫りの深い気取った顔立ち。下手な若作りのせいで、内面の浅はかさが逆に前面に出てしまっているように思える。
 
 
「やぁ、テメレア。随分と久しぶりだね」
 
 
 軽快なのに、どこかねっとりと纏わり付く声音。一度しか会ったことがないのに、馴れ馴れしく呼び捨てにしてくる無遠慮さが癪に触った。だが、それらの感情を一切出さず、テメレアは縋るような眼差しを男へと向けた。
 
 
「ウェルダム卿…」
 
 
 媚びを含みつつも、心細げな声を意図的に上げる。顔に痣を作ったテメレアの姿を見て、ウェルダム卿は喜びを隠そうともせずにんまりと笑った。
 
 
「あぁ、可哀想に。王都での噂は耳に届いているよ。女神が現れたんだって? それも男の女神が。その顔の傷は、女神にされたのかい?」
 
 
 男の猫撫で声を聞きながら、この男の頭の中ではどんなストーリーが展開されているんだろうと想像した。男の女神によって、暴行され陵辱されるテメレアの姿でも想像しているのだろうか。暴行はともかく、陵辱したのはテメレアの方だと言うのに。
 
 内心の思いを押し込めながら、テメレアは不安げに視線を斜め下へと落とした。
 
 
「……はい。その…女神様は、あまりお優しい方ではなくて…」
 
 
 心苦しさをアピールしながらも、女神の横暴さを非難する言葉を口にする。実際、言っていることは嘘ではない。あの人は、ちっとも優しい人ではない。
 
 じわりと眼底を湿らせながら、テメレアはウェルダム卿を見つめた。
 
 
「ウェルダム卿……突然こんなことをお願いするのはご迷惑かとは思うのですが……どうか私をこの城に匿っては頂けないでしょうか……わたし、私、あのまま女神様の元にいたら殺されてしまう気がして……」
 
 
 声を詰まらせながら、テメレアは畳み掛けるように言った。ついでに、打ちひしがれたように両手で顔を覆ってやる。自分自身でも、演技がかった噴飯ものな仕草だと思った。だが、目の前の男には効果覿面だったようだ。
 
 暫く肩を震わせていると、ウェルダム卿が近付いてくる気配があった。そっと両肩を抱き締められて、耳元に生温かい息が吹き込まれる。
 
 
「可哀想なテメレア。勿論、幾らでもこの城に居てくれてかまわない。美しい君を、横暴な女神の人柱などにはさせてたまるものか」
 
 
 自分自身の発言に酔っているような、仰々しい口調で告げられた。分厚い掌に二の腕を撫でさすられて、鳥肌が浮かびそうになる。甘ったるい香水の匂いがぷんと鼻について、テメレアは思わずせき込みそうになった。鼻下を手の甲で押さえながら、鼻がかった声を上げる。
 
 
「…あ、ありがとうございます…このご恩は必ず…必ずお返ししますので…」
 
 
 恩だなんてそんなもの、とウェルダム卿がほくそ笑むように呟くのが聞こえた。その声音に、恩返しという名目を掲げて目の前の男に身体を求められるだろうことを予感した。それを想像するだけで吐き気がする。テメレアの髪の毛一本から血の一滴まで、既にあの人のものであるというのに。他の男にくれてやるものなど、もうテメレアには一つも残ってはいない。
 
 
「さぁ、まずは傷の手当てをしよう。私の部屋のとなりに君の部屋を用意するから、安心して休むといい」
 
 
 男の分厚い唇が額へと落とされる。その感触に身の毛をよだたせながら、テメレアは殊更美しく微笑んだ。
 
 
「有り難うございます。お優しいウェルダム卿…」
 
 
 
***
 
 
 
 時間ピッタリに目が覚めた。宿屋の小窓から見える空は暗い。
 
 寝起きだというのに、冷水でも浴びたように目も頭も冴えていた。戦闘直前はいつもこうだ。肉体は休んでいても、脳味噌は常に動き、要求してもないのにアドレナリンを馬鹿みたいに放出している。
 
 なめらかな動作で、まず傍らに置いていたAK47を手に取った。膝の上にAK47を置いたまま、バンダナを頭に巻き付ける。ブーツは寝るときも履いたままだった。
 
 AK47を肩に担いでいると、小さなノックの後、扉が開かれた。ゴートが顔を覗かせる。
 
 
「行きましょう」
 
 
 短い言葉に頷きを返す。灯りのない宿屋から三人揃って抜け出す。
 
 街は静かだった。空は淡く発光しているかのように、地面を微かに照らしている。月明かりのようだと思ったが、空を見上げても月はなく、信じられないほど巨大で色鮮やかな星々が浮かんでいるだけだった。
 
 人通りのない道を、足早に進む。人の気配が全くないのは、夜に開かれている店がないせいか。どこの家も無人のように、暗く静寂に包まれている。
 
 
「こんなに静かなものか」
 
 
 小さく呟くと、前方を進んでいたゴートが肩越しに振り返った。
 
 
「王都が焼き討ちにあってから、近隣の街では夜間外出禁止令がでています」
「政情が不安定な国がよくやることだな」
 
 
 皮肉っぽく呟くと、ゴートは少しだけ肩を竦めた。背後からリュカが潜めた声をあげる。
 
 
「民を守るためですよ」
「民を逃がさないためでもあるだろう」
 
 
 夜間外出禁止令とは、民の流出を防ぐための政策でもあるはずだ。端的に返すと、リュカは言葉を詰まらせた。だが、それ以上議論をするつもりもなかった。
 
 三人で駆け足に街並みを通り抜け、ウェルダム卿の城外壁へと辿り着く。城門の外には見張りは立っていなかった。城門の端に設置された通用門へとゴートが小石を三つ投げた。連続して三つ石が当たって数秒も立たず、通用門が開かれる。中から顔を覗かせたのは、イヴリースだった。
 
 
「どうぞこちらへ」
 
 
 開かれた通用門から素早く城内へと入る。通用門の内側に、昏倒した二人の見張り兵が縛られて転がっていた。どうやら、イヴリースが事前に処理しておいたらしい。準備が良いことに、見張り兵の制服は脱がされている。
 
 
「マルコス小隊長の位置は分かったか」
「はい。マルコス小隊長はウェルダム卿に捕らえられた後、地下独房に幽閉されていたようです。しかし、本日夕刻にウェルダム卿の第一夫人であるジゼル様の別宅へと連れて行かれました」
 
 
 新たな名前と情報に、片眉が跳ねる。視線をゴートへと向けると、注釈を入れるようにゴートが口を開いた。
 
 
「ジゼル様は、ジュエルドの上流貴族ハイデン家の三男です。確か、ハイデン家はアム・アビィの製鉄業に介入するためにジゼル様をウェルダム卿に嫁がせたはずですが」
 
 
 三男という単語に、またくらりと眩暈を覚えそうになる。第一夫人で三男。この世界の常識は、雄一郎が知る常識にまったく当てはまらない。
 
 
「なぜ、ジゼル様がマルコス小隊長を?」
 
 
 リュカが怪訝そうに呟く。それはここにいる誰もが抱いている疑問だった。夫が捕らえた軍人を、なぜ第一夫人がわざわざ別宅へと連れて行くのか。その理由は。だが、考えたところで答えが出るわけでもなかった。
 
 雄一郎は脱がされた見張り兵の制服を拾い上げると、二着あるうちの一着をイヴリースへと向かって投げた。今まで着ていた服を脱ぎ、もう一着あった見張り兵の制服を羽織りながら言い放つ。
 
 
「二組に分かれる。ゴートとリュカはジゼルの別宅に行き、マルコス小隊長が生きていれば保護しろ。俺とイヴリースは、城内でウェルダム卿を確保する。イヴリース、城内の案内はできるな」
「はい、勿論です」
 
 
 歯切れの良い返答が返ってくる。制服を着ると、最後にマント状の上着のフードを目深に被った。イヴリースも恥じらうことなく、制服を手早く着替えた。
 
 
「なるべく兵士は殺すな。恨まれると後が面倒だ」
 
 
 最後にそう言うと、ゴートは解ってると言わんばかりにニヤリと笑った。リュカとイヴリースも何も言わずに頷く。
 
 
「行くぞ」
 
 
 短く呟いて、ゴートとリュカと別れた。イヴリースの案内のもと、城内へと入っていく。
 
 城内も、街と同じように静かだった。時折廊下で数人の兵士とすれ違ったが、同じ制服を着ているというだけで誰一人として雄一郎とイヴリースに目を留めることもなく、眠たそうな顔をして通り過ぎていく。
 
 
「たるんでるな」
 
 
 ぽつりと呟くと、イヴリースが小声で答えた。
 
 
「アム・アビィは、未だかつて敵からの襲撃に合ったことがないのです」
「鉄鉱の産地なんて、戦争じゃ一番に狙われてもおかしくない場所だがな」
「だからこそ、狙われないように敵国に銃器を流していたのかと」
 
 
 言われてみればそうかと合点がいった。ある一種、敵国への賄賂は、この街の生存術だったのかもしれない。だが、戦時中ではそれを許すわけにはいかない。裏切り者を罰しなくては、一度でも舐められれば次々と同じような輩が出てきてしまう。
 
 城の最上階まで上る。真っ白な扉の前で、イヴリースが立ち止まった。
 
 
「こちらがウェルダム卿の部屋です」
 
 
 イヴリースが言い終わると同時に、ゴトンと何かが落ちる音が聞こえた。続いて、人同士がもみ合うような物音と押し殺した声が聞こえてくる。それは目の前の部屋ではなく、隣の部屋から聞こえてくるようだった。
 
 
「隣は」
「テメレア様がいらっしゃる部屋です」
 
 
 イヴリースが戸惑ったように言う。その言葉を最後まで聞き終わる前に、雄一郎は隣室の扉へと大股に近付いていた。躊躇いもなく、扉を大きく開け放つ。途端、ベッドの上でもみ合うテメレアと見知らぬ男の姿が視界に入った。髪の毛を後ろに撫でつけた、キザったらしい顔立ちをした男だ。
 
 
「どうなさいましたかッ」
 
 
 わざとらしく切迫した声をあげながら、ベッドへと駆け寄る。雄一郎の姿を見ると、見知らぬ男は一瞬唖然とした後、やや裏返った声をあげた。
 
 
「何だお前は! 私の許可もなく入ってくるな!」
 
 
 居丈高な物言いに、目の前の男がウェルダム卿だということをほぼ確信する。ちらりとテメレアへと視線を向けると、ウェルダム卿に押し倒されたままテメレアは目線だけで頷いた。
 
 
「争うような声が聞こえまして……何をしてらっしゃるのですか」
「見てわからないか、この馬鹿者が! 私の愉しみを邪魔するんじゃない、早く出て行け!」
 
 
 癇癪を起こした子供のように言い放つウェルダム卿の姿に、思わず笑いが込み上げそうになった。ウェルダム卿は鼻息も荒く、眼下のテメレアを見下ろした。テメレアの髪へと指先を滑らせながら、ウェルダム卿が打って変わった猫なで声で囁く。
 
 
「邪魔が入ってしまったね。きみが抵抗するから悪いんだよ。きみだって解っているだろう? 私にその清らかな身を捧げなくては、きみは女神の餌食になってしまうと…」
「もう清らかじゃねぇよ」
「え?」
 
 
 ウェルダム卿が振り返る前に、その首へと右腕を回していた。ウェルダム卿の首を右腕で絞めていく。ウェルダム卿は暫く声もなくバタバタと藻掻いていたが、結局一分も経たずに気を失った。ウェルダム卿をベッドの上へと放り投げながら、雄一郎は投げやりな口調で呟いた。
 
 
「それとも、汚れているのは俺だけか?」
「あなたは美しいです」
 
 
 間髪入れずに答えてくるテメレアに、思わず苦笑が滲んだ。汚れていないではなく、美しいと言うのか。首を緩く傾けながら、テメレアへと視線を向ける。
 
 
「問題はないか」
「問題ありません」
「襲われていたように見えたが?」
「予想の範疇内です。そんなことはどうでもいいですから、さっさと縛りましょう」
 
 
 先ほどまで押し倒されていたはずなのに、テメレアは平然とした様子でてきぱきと動いた。扉の影から抜け目なくウェルダム卿へと銃口を合わせていたイヴリースを呼び寄せて、移動を手伝わせる。ベッドに俯せに倒れたウェルダム卿を後ろから担ぎ上げて、無駄に豪奢な椅子へと雑に座らせる。裂いたシーツの切れ端で、イヴリースがウェルダム卿の手足を椅子へと縛り付けた。最後に丸めた布をその口へと突っ込む。
 
 ウェルダム卿を拘束し終わると、テメレアは部屋の奥側に据え付けられた扉へと向かった。扉は隣室へと続いているようだ。
 
 
「雄一郎様、こちらへ」
 
 
 促されるままに、足早に隣室へと向かう。
 
 
「ウェルダム卿の私室はこの部屋だけのようです。裏切りの証拠があるのなら、この部屋の可能性が高いかと」
 
 
 テメレアの言葉に頷きを返して、部屋の探索を開始した。執務机の引き出しを下から順番にあけていく。雄一郎はこの世界の文字を読めないため、書類の確認はテメレアとイヴリースに任せた。
 
 
「特に、おかしい書類はありませんね」
 
 
 イヴリースが呟く。だが、テメレアはイヴリースの言葉に耳を傾けることなく、素早く書類に目を通している。
 
 ふと壁へと視線を向けた時に違和感を感じた。真っ白な壁紙には、銀色の文様が彫り込まれている。その模様のつなぎ目が一カ所歪んでいるのが目に留まった。壁へと近付いて、軽く拳で壁を叩く。その壁紙が歪んでいる部分だけ僅かにだけ違う音が返ってきた。
 
 爪先で壁紙を辿ると、僅かにだけ指先が引っかかる箇所があった。壁を引っ張ると、ぽこりと三十センチ角程度の板が外れた。壁の中に銀色の箱が埋め込まれている。一切読めないが、文字による錠のようなものも見える。近付いてきたテメレアが言う。
 
 
「隠し金庫です」
「開けられるか?」
「ウェルダム卿を尋問して番号を聞き出せば」
「面倒くせぇな」
 
 
 溜息混じりに呟くと、雄一郎はイヴリースを呼び寄せた。枕を持ってきて、金庫の錠前部分に押し当てる。
 
 
「イヴリース、錠の部分を撃ち抜け」
 
 
 命じると、イヴリースははいと短く答えて、肩に担いでいたボルトライフルアクションによく似た銃の銃口を枕へと押し付けた。雄一郎が片耳を掌で塞いだ瞬間、鈍くくぐもった銃声が響いた。連続して、更に二発。枕に吸い込まれて、銃声は子供が地団駄を踏む音のように聞こえた。
 
 硝煙をくゆらせる銃口が離されると同時に、羽毛をまき散らす枕を放り捨てる。上手い具合に錠が吹き飛んでいるのを見て、雄一郎は口元を緩めた。反動もあるだろうに、連続した射撃を同じ箇所に当てるとは中々の腕前だ。
 
 
「良い腕だ」
 
 
 賞賛の言葉に、イヴリースは一瞬照れたように顔を伏せた。
 
 錠がなくなった金庫の扉を開くと、中には銃弾のせいでズタズタになった書類が幾つか目に入った。まだ読めそうな書類の束を選んで、テメレアへと渡す。書類に目を通してから数分も経たずに、テメレアが口を開いた。
 
 
「裏帳簿です。隣国ゴルダールだけでなく、ノア様の兄上様がたにも融通した武器が一覧で載っています。あぁ…出来の良い武器の方を敵に渡して、正規軍である我々に不出来なものを渡していたことまで懇切丁寧に書かれていますね…。これだけの証拠があれば、ウェルダム卿の裏切りを証明できるかと」
 
 
 雄一郎は万歳の代わりに、両手を軽くあげてひらひらと適当に振った。雄一郎のおどけた仕草に、テメレアは一瞬だけ目を大きくした後、その口元に淡い笑みを浮かべた。
 
 
「じゃあ、後は裏切り者の処遇についてだな」
「銃殺でいいかと」
「いいえ、法で裁くべきです」
 
 
 テメレアとイヴリースで意見が分かれた。テメレアが冷めた眼差しでイヴリースを見遣る。イヴリースは、萎縮したように肩を縮こませた。
 
 

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Published in 37歳のオッサンが戦場で女神と呼ばれる世界

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