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参観日(1)

 
 僕は、参観日が嫌いだ。
 
 
 その日の僕は、きっと世界の終わりの日よりも酷い顔をしている。一週間前から胃の辺りがムカムカしてきて、前日には胃の痛みが最高潮にまで達して一睡もできなくなる。当日は、朝から水一滴も咽喉を通らず、殆ど落ち武者のようなよろけた足取りで学校へと向かう。大きな姿見の前で「トヨタ、ぱぱ、キョウノ服、コレでイイ? カッコイイ?」などと嬉しげに一人ファッションショーをしている父をねめつけても、その日から逃れられるわけでもない。
 
 
 はっきり言い切ってしまおう。僕が参観日を嫌いなのは、父のせいだ。
 
 
 現役のストリッパーをしている僕の父は、途方もなく美しい。金髪巻き毛に、とろけるような深いスカイブルーの瞳、まるで壁画に描かれた天使のような神々しい美貌なのだ。名前まで、アダムという何とも神秘的なものである。
 
 それに対して、息子の僕といえば、何の変哲もない黒髪に黒目。日本人の平均値を3D化にしたかのような凡庸な姿をしている。しかも、名前はトヨタだ。「え、車作ってるの?」と半笑いで問い掛けられること幾万回。僕は声を大にして言いたい。
 
 
 何だそりゃ! 神様不公平にもほどがある!
 
 
 美しさは罪だとか何とか言うが、はっきり言って、その被害を被っているのは父ではなく息子である僕の方だ。父の容姿のせいで、小学生の頃から僕は酷い目にばかりあってきた。勿論中学生の時に無理心中女に刺されたのもその内に含まれるが、僕はそれ以上に【将を射んとすれば、まず馬を射よ】な無数のアプローチに心底辟易している。
 
 ストリッパーの客なんか、まだ可愛いものだ。彼女達は、ちゃんと父の振る舞いがビジネスだと知っている。お金の対価として父と遊んでいる自覚もある。だけど、他の女はそうじゃない。
 
 授業参観に来た母親なんか最低だ。自分の子供ではなく、父を見るのに必死になっている。夫がいるのも忘れて父に群がり、父が片親なのを知ると露骨に目を輝かせる。時には、哀れな未亡人のフリをして父の気を惹こうとする。自分の子供を僕と仲良くさせて、父に近付こうとした女もいた。僕の家に、何故だか母子そろって遊びに来るのだ。意味わかんねー! ちなみにその時の女は、僕とその子がゲームで遊んでいる間、寝室で眠っている父を襲うという暴挙に出た。確かに生まれたままの姿で眠っている父は、枯れかけた中年女にしてみれば垂涎ものだろう。だけど、いきなり襲い掛かるだなんて獣以下だ。人間の理性は何処だ! 僕は、そのとき人間も動物なんだなとしみじみと感じたのだ。
 
 他には、担任の先生が父に惚れ込んでしまった時もあった。それまではクラスの中で放置気味だった僕を異様に構うようになって、馴れ馴れしく「トヨタくんは、お母さんが欲しいとは思わない?」なんて訊ねてきたりもした。そんな目をギラギラ輝かせたお母さんはいりません。ちなみにその時の先生は、結局ストーカー化して、父のパンツを盗んでいるところを警察に捕まって何処か遠いところへと飛ばされてしまったらしい。嗚呼、諸行無常。南無阿弥陀仏。
 
 そして、今日は僕が高校生になって初めての参観日なのだ。保護者や先生だけでなく、マセた女子高生達までも父に群がることが想像できる。父へと近付くための踏み台にされる自分のことを考えると、頭が痛くなってくる。しくしくと痛み始めたコメカミを掌で押さえて、大きく溜息を付く。
 
 
 神様がいるなら、どうか父の顔を今日だけでも不細工に整形して下さい!
 
 

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Published in アダムとトヨタ

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