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積み木遊び(2)

 
 女が死んで暫くして、保護者のいない子供は施設に入れられるという話を聞いた。女の子供も、おそらく施設に入ったのだろう。いずれ何処ぞの夫婦に引き取られて、温かい家庭で育って行くはずだ。それが子供にとっても幸せだろう事は解っているのに、酷く心臓がもやもやした。
 
 
 女から話を聞くことがなくなれば、きっと子供の事も忘れて行くはずだと思ったのに、胸に巣食った子供の幻想は日に日に僕の中で膨らんで行く。歯軋りするようなもどかしさを抱えたまま、僕はアパートの床を転げ回ったり、頭を掻き毟ったりした。
 
 
 子供が養子になったのを見れば、きっと気が治まると思った。だから、施設職員とセックスして、代わりのように子供の情報をもらった。空の絵が上手いことだとか、掃除機のゴミパックを引っくり返して埃まみれになった話だとか。人伝いに子供が成長していく様を聞くのは、より一層子供への愛しさをつのらせた。僕の頭の中で、小さな子供が動き回る。まるで妊婦のように、生まれていない子供を腹の中に抱きしめているような気分だった。
 
 
 
 
 
 そして、五年後、僕らの転機。子供が養子になることが決まりそうだと聞いて、僕は半狂乱になった。擦り寄る女を突き飛ばして、金切り声を上げて喚いた。気がついたら着の身着のまま走り出して、施設に飛び込んでいた。
 
 養父母と面談中だったらしい子供がびっくりした眼差しで、僕を見ている。黒い髪、黒い目、平凡な顔立ち。死んだ女が言っていたように、僕に似ているとは思えなかった。だけど、僕の子だった。僕の豊太。
 
 
「トヨタ、ボクの息子、デス!」
 
 
 自分でも笑えるぐらい、泣き出しそうな声だった。 
 
 
 
 
 
 それから、とやかく手を尽くして、僕はトヨタと家族をやれることになった。最初トヨタは、髪も目の色も違う僕を疑っていたけれども、暫くするとこの奇妙な男をひとまず父親として扱おうと決めたようだった。
 
 
 僕は僕で、ようやく手に入れた子供に夢中だった。想像していたよりも、ずっとずっとトヨタという存在は愛おしかった。野球観戦のときに肩車をすれば恥ずかしがって暴れるところも、壊滅的に料理センスのない僕に対して「さしすせそ」を必死で教えようとしてくれたところも、全てが可愛らしくてしょうがなかった。
 
 
 学校の参観日は何を置いても最優先で行ったし、水色のリボンをつけた自転車もプレゼントした。トヨタに不自由な生活をさせたくなくて、バーを辞めてストリッパーになった。お金を貰うために、女だろうが男だろうが構わず抱いた。辛いことなんか何もなかった。僕はトヨタがいるだけで途方もなく幸せで、毎日が満たされていた。
 
 

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Published in アダムとトヨタ

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