Skip to content →

04 からだ *R-18

 
 吾妻の首を絞める健一を見て、視界の端で弥生が慌てたように立ち上がる。
 
 
「弥生、いつまで人様の睦言を観てるつもりなんだ?」
 
 
 直ぐにでも駆け寄ってきそうな弥生を、吾妻の揶揄するような一声が制する。「しかし…」と躊躇うように足先を畳に擦らせる弥生を、吾妻が鼻先で笑って、睨み付けるのが見えた。
 
 
「出て行け」
 
 
 吾妻の一言は簡潔だった。小動物の首を一思いに捻り折るような寒々しい声音でもあった。弥生の身体が固まって、次の瞬間、ロボットのようなぎこちない動作で退室していく。
 
 弥生の手によって障子が閉められた途端、吾妻は嬉しくて堪らないといった風采で破顔した。ギリギリと幼い手に首を絞められたまま。
 
 
「止めさせないのか?」
「止めさせる? どうして?」
「死にたいのか?」
「死にたい訳じゃないけど、健一になら殺されたい」
「おまえ、頭おかしい。変だ」
「健一に狂ってるんだよ。惚れた弱味ってやつだね」
 
 
 絞め付けられながら、吾妻の咽喉は壊れたピエロの玩具のような笑い声を零していた。吾妻の左手は相変わらず健一の身体の上を蛞蝓のように這い回っている。舐めるような手付きに感じる気色悪さは変らないが、もうすぐ死ぬ人間ならば関係ない。そう思って放って置けば、吾妻の左手が健一の股間にやんわりと触れて、次の瞬間、力の限りに握り潰した。
 
 
「ギッ、アあぁアぁっッ!」
 
 
 醜悪な悲鳴が腹の底から迸って、健一は布団の上で悶絶した。口の端から唾液の泡がぷくりと浮かび上がって、眼球が反転して白目になる。ぴくぴくと脊髄反射のように痙攣を起していれば、頭上で吾妻が能天気な声を上げているのが意識の遠くで聞こえた。
 
 
「だけど、人一人殺すにはまだ力が足りないね」
 
 
 健一の口から零れた唾液の泡を舌先でねっとりと舐め取って、そのまま吾妻は弛緩した健一の唇へと舌を突っ込んだ。今だ白目を剥いたままの健一と唾液を捏ね合わせるようにして、前歯も奥歯も上顎も舌の裏側まで嘗め尽くしてくる。
 
 健一の目にようやく黒目が戻ってきた頃には、顎から垂れた唾液で布団までも湿っていた。どちらのものとも分からない唾液でぐちゃぐちゃに濡れそぼった健一の唇をチュと音を立てて吸って、名残惜しげに吾妻の唇が離れる。
 
 
「ごめん、痛かったね。痛いの痛いの飛んでいけしてあげる」
 
 
だが、次の瞬間、無理矢理覚醒させられた。下着を引き下ろされたかと思った瞬間、今だ疼痛を発する股間に生温く粘ついた粘膜が纏わり付いてきた。
 
 
「ヤ、ヴぁあ!」
 
 
 悲鳴を上げて視線を足元へと向ければ、吾妻がお菓子でも平らげるように健一の小さな陰茎と睾丸を咥内に頬張っているのが視界に映った。健一の両足は膝裏に吾妻の手が差し込まれて、左右に大きく割り開かれている。その右足首に下着が引っ掛かっているのが見えた。
 
 キスは知っていても、性器を咥えるなんていう行為は知らない。その異常さに、健一は恐慌状態に陥った。股間に顔を埋める吾妻の髪の毛を引っ張って、両足をばたつかせる。
 
 
「嫌、だぁ! やだあぁぁアぁ!」
 
 
 喚けば喚く程、吾妻は執拗なまでに健一の性器を嬲ってくる。口内で睾丸を転がして、陰茎をじっとりと舐め上げて、じゅるじゅると音を立てて先端を吸い上げる。
 
 陰茎を奥歯で甘噛みしながら、吾妻が「いひゃいのいひゃいのとんでいひぇー」と笑いを含んだ声で言っているのが、健一にも聞こえた。その無邪気な声にぞっとする。無邪気さはともすれば悪意であり、吾妻の愛という名の悪意に健一は抵抗する術もなく翻弄された。
 
 精通の来ていない幼い身体は、性器を嬲られる行為を快感だと中々理解出来ず、いつまでも続く甚振りに引き攣るような悲鳴をあげ続けた。それなのに、吾妻は小さな鈴口に尖らせた舌先をぐりぐりと捻じ込んで、精通を知らない子供に無理矢理射精を強いようとする。飽きもせずしゃぶり続けていれば、次第に小さな性器が勃ち上がっていく。その光景に、吾妻はうっとりと溜息をついた。
 
 
「ねぇ見て、健一のおちんちんが気持ち良いって言ってるよ」
 
 
 健一は必死で首を左右に振った。それを事実と認めたら、
 
 
 自分の存在そのものが許せなくなってしまう気がした。こんなの気持ち良くなんかない。頭の中では繰り返すのに、快楽を知った性器は、吾妻が淡い色をした先端をしゃぶるたびにピクピクといたいけに戦慄いた。
 
 吐き出す息も、引き攣った泣き声混じりなものではなく、淡い吐息に変わりかけている。
 
 
「やー…ア、ヴぅ~…!」
 
 
 自分の声に甘さが混じるのが気色悪い。排尿する部分を舐められて、どうしてこんな声が出てしまうのか理解できない。腹からマグマでも飛び出してきそうな未知の感覚に太腿がガクガクと震えて、涙が溢れた。
 
 
「ひゃッ、ヴあ、ぁ、おかし、いっ! おなかっおかしい! ヤだっ! ヤ、だアァっ!」
 
 
 悲鳴を上げた瞬間、下腹がビクビクと大きく引き攣って、自分の身体から何かが放出されるのを感じた。暫く痙攣が止まらない程に、その感覚は健一の体内に鮮烈に残り続けた。
 
 痙攣が止まってから、ようやく吾妻の頭が股間から離れる。その唇からどろりとした粘着質な白い液体が溢れているのが見えて、健一は目を剥いた。
 
 
「なに、それ…」
「健一のミルク。精液。赤ちゃんの種。ザーメン。授業で習わなかった? もしかして、これ出したの初めて?」
 
 
 健一の精液を自分の掌に垂らしながら、吾妻が優越感に満ちた笑みを頬に滲ませる。唇の端にこびり付いた精液を見せ付けるように舌先で舐め取る。その光景に健一は燃えるような羞恥を感じて視線を逸らした。
 
 視線を逸らした瞬間、着物が肌蹴て剥き出しになった自分の肩が見えた。関節が完成されていない未熟な身体。四肢は伸びやかだけれども、そこには筋肉が付いておらず、何処か棒切れのような印象が拭えなかった。吾妻の一見細身ながら、鍛えられた男性の身体とは比べ物にならないぐらいひ弱だ。抵抗一つ適わない弱い自分の身体を自覚しながら、健一は歯噛みする程の悔しさを覚えた。
 
 逸らしていた視線を吾妻へと戻し、睨み付ければ、吾妻は腕に伝った健一の精液を舐め上げている所だった。その淫靡な光景にくらりと眩暈を起しそうになる。吾妻は片頬を吊り上げるようにして嗤った。
 
 
「可愛い」
 
 
 甘さを含んだ声で耳元に囁かれると、顔面が焼けるように熱くなった。そうして、精液に汚れた吾妻の指先が双丘の狭間、その窄まりに滑らされた瞬間、健一は素っ頓狂な悲鳴を上げていた。窄まりを指の先で弄くられて、羞恥を感じるよりも先に、その訳の分からない行動に唖然とした。
 
 
「な、なに? 汚い、手ェ、どけろよ」
 
 
 訳が分からないままに拒絶の言葉を吐き出す。吾妻が何をしたいのか分からないけども、こんな場所を探ってくるなんて、やっぱりこいつは本当に変態だと思った。
 
 両手で吾妻の胸を押し返そうとした瞬間、窄まりに何かがグッと押し込まれる質量を感じて、健一は思わず短い悲鳴を上げた。ぐいぐいと断続的に窄まりの奥へと質量を押し込まれて、その度にくぐもった唸り声が咽喉から零れる。痛みはないけれども、腹の中に異物を詰め込まれたような圧迫感がある。
 
 息苦しさと不快感に、非難の眼差しで睨み付けると、吾妻は困ったように首を傾いだ。
 
 
「まだ指一本だから、痛くないでしょう?」
 
 
 その言葉で、窄まりに入っているものが吾妻の指だということに気付いてぞっとした。健一の着物はもう殆ど腰に絡まるような形で、服としての役割を果たしていない。健一の胸の尖りを吾妻の指先が強く摘めば、高い悲鳴と一緒に窄まりが収縮して、中に入っている指を締め付けた。
 
 
「嫌だ、きもちわるい…」
「すぐ大丈夫になる」
 
 
 何が大丈夫だ。ならお前が尻に指を突っ込まれてみれば良いんだ。呑気な返答に改めて嫌悪が滲み出す。
 
 窄まりを掻き回され、胸の尖りを指先で弄られる度に、背筋が悪寒に震える。必死に吾妻の肩を押し返していれば、吾妻の指が不意にある一点を掠めた。その瞬間、悪寒が苛烈さを持って下半身から脳髄まで走った。
 
 
「ひっ!」
 
 
 先程精液を吐き出した時と同じような感覚が電流のように下半身を通り抜けて、途端太腿がガクガクと震え出した。余りの驚愕に眼球を見開いた健一を見下ろして、吾妻がうっそりと微笑む。
 
 
「ね、大丈夫になった」
 
 
 玩ぶように吾妻の指先がその一点を行きつ戻りつ掠めて行く。説明の付かない鮮烈な感覚に下半身から脳髄まで熱が走り抜けて、額から脂汗が滲み始める。慣れていない身体に与えられる強烈過ぎる快感は苦痛と変らず、健一は布団の上で息を荒げて悶えた。
 
 
「んヴぅ…、ん、…ぁ」
 
 
 噛み締めた唇の隙間から苦痛とも快楽とも付かない嬌声が零れてくる。内太腿が痙攣しそうなぐらい引き攣っていて、その間に勃ち上がった自分の性器が見えた瞬間、健一は余り
の惨めさに泣きそうになった。
 
 気持ち良くて性器が勃つのであれば、今自分は尻に指を突っ込まれて気持ち良いと感じてることになる。だが、それを認めるのは、あんまりにも情けなくて恥ずかしい。どうして、心はこんなに苦しいのに身体は浅ましく気持ち良いと応えてしまうんだろうか。身体までも健一を裏切ってしまうことが酷く悲しかった。
 
 吾妻の指が中で柔軟に蠢いて、柔らかい粘膜をこねくり回す。その指が二本になった時、流石に痛みを感じた健一は悲鳴を上げた。
 
 
「痛ッ! いっ、畜生バカ、抜けよ! そんな所に指なんか突っ込んで何が楽しんだ変態!」
 
 
 罵声を浴びせかければ、吾妻の頬に嘲笑が浮かんだ。同時に体内に入った二本の指で一点を突き上げられて、甲高い悲鳴が迸る。芯の通った性器がビクビクと震えて、先端から透明な液体が滲み出ているのが見えた。
 
 
「ケツの穴に指突っ込まれて、チンコおっ勃ててる健一に変態なんて呼ばれたくないな。僕が変態だったら、健一はド変態だ」
「違う! こんなん違うっ!」
 
 
 浴びせかけられる言葉を否定するように必死で首を横に振る。指を三本に増やされて後腔を前後に掻き乱されれば、健一はもう打ちひしがれたように啜り泣くことしか出来なかった。下半身が自分の物ではないように気だるく麻痺している。
 
 吾妻は三本の指で健一を翻弄しつつ、健一の小さな胸の尖りに赤ん坊のように吸い付いた。その胸の尖りもぷっくりと赤く腫れ上がっている。
 
 吾妻の指がずるりと後腔から引き抜かれれば、健一の身体は小さく跳ねるような反応を返した。膝裏に手を差し入れられ、胸にくっ付きそうなぐらい畳まれる自分の両脚を朦朧とした視界で眺める。
 
 
「…な、にしてん、の」
 
 
 掠れた声で問い掛けるのと同時に、柔らかく解された後腔に熱く硬い塊が押し付けられる。しかし、それが何なのか健一には理解出来ず、ひくりと後腔が窄まっただけだった。両脚を持ち上げられた体勢が苦しくて、不平を言うようにむずがれば、近付いた吾妻の表情が柔らかく綻んだ。
 
 
「健一の中に入るんだよ」
「なに…? 中にはいる、って、何」
「セックスだよ」
 
 
 事もなげに放たれた単語に、健一は大きく目を見開いた。具体的にセックスというものが何をするのかは知らない。けれども、それが男女間で行われる卑猥な行為だという認識はあって、それをたった今目の前の男と自分が行っているというのが信じられなかった。
 
 
「うそだ。だって、だって、オレ男だ。あんただって男なのに、せっくすなんかできるわけない」
「男同士でもできるんだよ。愛情があればね」
「オレはお前なんかすきじゃない!」
 
 
 ヒステリックな金切り声で否定の言葉を眼前の男に叩き付ける。恐怖と憤怒が入り混じった瞳で吾妻を睨み付ければ、吾妻は無表情に「そう」と呟いただけだった。
 
 
「じゃあ、これはセックスじゃなくて強姦だ」
「ごうかん?」
「無理矢理セックスさせられること。健一は今から僕に強姦される」
「そんなん嫌だ!」
 
 
 理解させられた現実に、健一は素っ頓狂な悲鳴を上げた。シーツを掻き毟って、必死で吾妻から離れようとする。だが、腰を吾妻に掴まれた状態で動ける訳もなく、反対に引き寄せられる。そうして、次の瞬間、ミシッという音が身体の奥から聞こえてきた。
 
 
「ひっ、やあアアぁあヴアぁあぁあぁァア!」
 
 
 熱い塊が硬く狭まる肉を無理矢理捻じ伏せ、体内の奥深くへと潜り込んで来る。身体を焼き鏝でズブズブと貫かれているようだ。身体が引き裂かれていく強烈な痛みに、涙腺が崩壊する。眼球の裏でチカチカと極彩色が瞬いて、鈍器で殴られたように頭がぐらぐらした。下半身から駆け上ってくる激痛に全身が大きく跳ねて、四肢が痛みから逃れようと滅茶苦茶に暴れ回る。その手足が吾妻の胸や足に当たるが、吾妻の動きが止まる様子はない。
 
 
「いだあぁぁ! 痛いぃ! いだいぃい!」
 
 
 無我夢中で暴れ狂って、叫んで、喚いて、鼻水だらけで泣いても、痛みは遠ざからず、むしろ鮮烈になっていく。熱い塊がずっずっと体内に押し込まれる度に、身体中の体液が沸騰するような熱と痛みを感じた。
 
 
「やだああ! やめで、やめて、おねがい、おねがい、やめで……!」
 
 
 阿呆のように同じ懇願を繰り返しながら、恥も外聞もなく健一は泣き喚いた。震える両手は助けを求めるように吾妻の胸倉を握り締めていた。細い腰を指先が食い込みそうなほど強く鷲掴んだまま、吾妻は苦しそうに眉を顰めている。
 
 
「健一、力、抜いて」
「やああぁ、もうやだあぁ」
 
 
 吾妻の声が夢現に聞こえるが、今の状態で力の抜き方なんてものは分かるわけもない。健一は容量以上のものを咥え込んだ後腔から発される痛みに、悲鳴を上げることしか出来なかった。
 
 
「健一、けんいち、息吐いて。大丈夫、そしたら楽になるよ。ほら、ゆっくり、ハーッて」
 
 
 たとえ悪魔であろうと、今甘い言葉を掛けられれば何であろうと縋り付いてしまうだろう。健一はひっひっと泣きじゃくりながら、必死に息を吐き出した。その瞬間、ほんの少しだけ身体の力が抜けた。その一瞬を狙って体内の奥まで熱い塊が一気に押し進められて、健一は再び絶叫した。
 
 
「ぎッ、あ、うそ、づきっ、うそづぎいぃぃ!! ばか、ばかあぁあぁ!!」
 
 
 駄々を捏ねる園児のような悪態を吐き散らかしながら、自分の上で大きく吐息を吐き出す吾妻を盛大に罵る。自分の尻と吾妻の腰がぴったりくっ付いている状態のまま、体内に存在する圧迫感と痛みに必死で耐えながら、健一は鼻水を啜った。
 
 
「健一のナカ、溶けちゃいそうなぐらい気持ち良い」
 
 
 吐息と一緒に吐き出される吾妻の台詞に、頭が沸騰して死にたくなる。自分はこんなに苦しくて痛くて仕方ないのに、自分の身体で目の前の男は快楽を貪っているのかと思うと、悔しくて堪らなかった。
 
 くしゃりと顔を歪めれば、涙と鼻水だらけの顔にキスをされる。締まりなく開いた唇を吸われて舌を突っ込まれても、その舌に噛み付くだけの力もなかった。腹の中から、どくんどくんと熱い鼓動が響いてくるのが気持ち悪くて仕方ない。
 
 
「いだい、抜い――」
 
 
 涙声の懇願が終る前に、後腔に突き立てられていたモノが粘膜を擦りながら、ゆっくりと引き抜かれるのを感じた。ずるずると抜け落ちていく感覚に、短い悲鳴が漏れる。そうして、もう少しで全部抜けるというところで、唐突に再び奥まで叩きこまれた。その衝撃に、思わず健一は吾妻の肩に爪を立てていた。
 
 
「ギャぁっ、やぁ、やだあぁ、なんで、なんでっ!!」
 
 
 やっと終ったと思ったのに、何でまだこんな痛くて酷い事をするのか。
 
 細い腰をガクガクと前後に乱暴に揺さ振られながら、やわらかい肉をゴリゴリと硬い物でこねくり回されて、健一は顔面を歪めて泣き叫んだ。体内でどんどん膨れ上がっていく塊がおぞましくて堪らない。
 
 声変わりもまだな高い悲鳴に混じって、後腔からぐちゃぐちゃという粘着質な音が響き渡る。
 
 もう下半身には完全に力が入らず、全身は糸の切れたマリオネットのように突き上げに反応して跳ねるだけだった。
 
 そうして、健一は自分が肉になったような錯覚に陥った。人間でもなく、単なる肉の塊。もし本当に自分が肉の塊であれば、こんな痛みなんて感じずにいられたんだろうか。こんな酷い目に合わなくてすんだんだろうか。分からず、肉の塊は涙をぽとぽとと自分の胸に落として、悲しみに咽喉を震わせた。
 
 
「たずけ、たずけて、たすけでぇ……お…と、さんっ、…おか、…ぁさん…」
 
 
 泣きじゃくりながら、虚ろな意識の中で必死で両親を呼び求める。何度も何度も繰り返し呼んでも、お父さんとお母さんは助けに来てはくれない。誰も助けてくれない。
そうして、痛みに虚ろになった脳味噌の端で想う。あぁ、そうか、皆死んでしまったんだった。今自分を蹂躙している男に炭にされてしまった。こんな痛くて辛い目にあうぐらいだったら、自分もいっそ家族と一緒に炭になってしまえば良かったのに。どうして、自分ひとりだけが生き残ってるんだろう――
 
 
「――おねえちゃん」
 
 
 殆ど意識のなくなった状態で小さく呟く。そうして、身体を揺さ振られながら、健一の意識は再び暗闇へと呑まれていった。
 
 暗闇の奥から自分の微かな鼓動の音が聞こえて、肉の塊にこの音はいらないなと思った。肉の塊でも天国に行けたらいいんだけど。
 
 

backtopnext

Published in catch1

Top