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36 狂惑

 
「ヴ、ァアアぁアぁあッ!!」
 
 
 脳天まで串刺しにされるような衝撃に、絶叫が堪えられなかった。眼球の奥で真っ赤な火花が弾ける。
 
 肺の中の空気がすべて押し上げられて、呼吸が出来なくなる。カハッカハッとただ吐き出すだけの奇妙な呼吸音が咽喉から溢れ出る。
 
 まるで内臓に焼き鏝でも突っ込まれたかのように、腹の奥が熱かった。その火箸はどくんどくんと大きく脈打って、健一の鼓動を掻き乱す。
 
 
「やめろッ!」
 
 
 保田の怒声に被さるように、吾妻の隠微な笑い声が首筋を撫でた。
 
 
「ほざくなよ。手前だって、同じ穴の狢のくせに」
 
 
 普段の調子とは違う、乱雑に吐き捨てられる吾妻の声に保田が言葉を詰まらせる。
 
 健一は、まるでコルクに貼り付けにされた蝶のように後孔を貫かれたまま息も絶え絶えになっていた。痛みはない。だが、苦しみにも似た圧迫感に内臓が押し潰されている。
 
 吾妻が背後から健一の両膝を掴んで、大きく左右に押し広げる。そうして、鎖に繋がれた保田へと優しく囁き掛けた。
 
 
「ほら、保田さんも見て下さいよ。健一の一番やらしいところ。こんなに広がって、男を呑み込んでる」
 
 
 吾妻の指先が繋がっている部分をゆるりと撫でる。限界まで開かれた縁をなぞられると、自分の意志とは別に後孔が勝手にヒクつくのが判った。咥え込んだ性器をきゅうぅと締め付けて、内臓がしゃぶり付くように蠢く。
 
 
「や…や、ァぅ……」
 
 
 咽喉が引き攣れた音を漏らす。それは泣き声のようにも聞こえた。
 
 
「健一は男の子なのに、こうやって尻を犯されるのが好きなんだよね」
 
 
 好き勝手な事を言いやがる。いつ誰がどこでこんな行為を好きだと一度でも口にした。そう喚き散らしてやりたいのに、口を開くよりも先に吾妻が健一の下顎を掴んでぐいと持ち上げた。
 
 
「ほら、保田さんにも教えてあげなよ。どうされるのが一番気持ちいいのかって」
 
 
 視線を無理矢理保田へと固定させられる。微かに潤んだ視界に、泣き出しそうに顔を歪めた保田の姿が映った。
 
 保田は真っ直ぐ健一を見つめている。健一が犯されている姿を。
 
 途端、体内が焼け付くような羞恥と屈辱に、健一は我を忘れて喚き散らした。
 
 
「見、るなっ! 見るな見るな、見るなアァ!」
 
 
 頭が滅茶苦茶になる。
 
 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、こんなのは嫌だ。見られたくない。男なのに犯される姿も、憎い男に言いように嬲られている姿も、すべてすべて屈辱的で苦しかった。
 
 健一の悲痛な叫び声に、保田がはっとしたように目蓋を固く閉じる。途端、吾妻の鋭い声が飛んだ。
 
 
「見ろ! 健一を裏切っていないなら、ちゃんと見ろ!」
 
 
 吾妻の一喝にも、保田は目を開こうとしない。ぶるぶると震えながらも、必死に健一の懇願を聞き届けようとしている。
 
 そんな保田を冷たく見据えて、吾妻がゆっくりと健一の背へと手を伸ばす。背中で固定された腕をゆるりと撫でられたと思った次の瞬間、脳天を突き抜けるような激痛に健一は絶叫していた。
 
 
「ギャあ、ァ、あッあァアッ!」
 
 
 折れた右親指を捻られる痛みに、健一は悶絶した。吾妻はまるでつまらない玩具で遊んでいるかのような手付きで、健一の親指をあらぬ方向へとぐりぐりと捻り回している。
 
 骨をドリルで抉られるかのような痛苦に意識が朦朧する。咽喉から迸る自分の悲鳴がまるで受話器越しに聞いているかのように遠い。
 
 右親指を放された時には、健一は虫の息になっていた。肉体から解離しかけた意識の底で、吾妻の愉しげな声を聞く。
 
 
「嗚呼可哀想に、健一。痛かったでしょう」
 
 
 いけしゃあしゃあと言い放たれる台詞に、もう怒鳴る気力さえ湧いて来ない。
 
 後孔を男のモノで串刺しにされたまま、健一は虚ろな視線を宙へと彷徨わせた。目の前の光景が霞んで、まるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺らめく。
 
 全身が凍えるように寒い。それなのに、後孔に突き刺されている性器だけが熱くて、その違和感に吐き気が込み上げてくる。
 
 気持ち悪いと思った時、限界が訪れた。横隔膜が大きく痙攣した次の瞬間に、唇から吐瀉物が溢れていた。酸っぱい味が咥内いっぱいに広がって、少量の溶けた食物と胃液がコンクリートの上に撒き散らされる。
 
 
「ゲっ、ぅヴぇ…っ!」
 
 
 背骨を大きく波打たせながら、何度もえずく。上半身をコンクリートの上へと倒して、健一は胃袋ごと吐き出すような吐き気にただただ戦慄いた。
 
 もう、頭には酷く原始的な感情しか浮かばなかった。
 
 
 ――痛い。苦しい。苦しい。くるしいくるしいぃ……
 
 
 それなのに、まだ苦しめられる。震える小さな身体に、苦痛は際限なく与えられた。
 
 
「あぁ、吐いちゃった」
 
 
 哀れむわけでも、愉しむわけでもない、まるでニュースでも読み上げるかのような抑揚ない口調で吾妻が呟く。
 
 吾妻は何度かゆるゆると波打つ背を上下に撫でた後、不意に健一の後頭部の髪を鷲掴んだ。
 
 
「じゃあ、動くよ」
 
 
 その声を皮切りに悪夢が再開した。吐瀉物を避けるように上半身をコンクリートに押し付けられて、背後から後孔をキツく突き上げられる。
 
 
「ギッ、アッ!」
 
 
 甘さとはかけ離れた苦痛の叫びが咽喉から漏れ出す。
 
 内臓の奥深くを抉られる衝撃に、下腹がビクビクと狂おしく痙攣する。目の前で健一が嘔吐するのを見たはずなのに、体内に収まる吾妻の性器は萎えていない。むしろ、先ほどよりも硬度を増しているようだった。太い肉棒がゴリゴリと内臓を擦っていく感触に、全身が総毛立つ。
 
 吾妻は、健一の入口を広げるように先端でじゅぽじゅぽと抜き差しを繰り返している。
 
 
「健一のなか、熱くて気持ちいいよ…」
 
 
 うっとりと囁かれる吾妻の声音が首筋を擽る。吹きかかる熱い息に、健一は堪らない嫌悪を感じた。
 
 だが、抗うことは出来ない。苦痛に打ち震えながら、ただこの暴力が過ぎるのを耐えることしか出来なかった。
 
 
「う、ヴぅゥ…ぅえ…」
 
 
 気色悪さに身を捩ろうとすると、まるでお仕置きとでも言いたげに奥深くまでズンッと性器が埋め込まれる。
 
 
「イ、ぎァぁッ!」
 
 
 鈍い悲鳴が迸る。
 
 奥深くに埋め込まれたまま、ぐるりと粘膜を掻き回すように動かされると、もう悲鳴も出てこなかった。目を見開いて、健一は言葉も出さぬままにはくはくと唇を上下に動かした。体内の圧迫感のせいで呼吸ができない。
 
 
「やっ、やめろ! やめろッ!」
 
 
 ガチャガチャと鎖が揺らされる音と共に、保田の絶叫が聞こえてくる。
 
 
「何ですか、保田さん? 邪魔をしないで下さいよ。あんたは見て見ぬフリをするんでしょう?」
「みっ、見る、見るから…もう、健一くんに、酷いことをするな……」
「酷いこと? 例えばこんな事ですか?」
 
 
 愉悦に歪んだ吾妻の声が聞こえた次の瞬間、抜き挿しの速度が増した。太い肉棒が先端まで引き抜かれて、根本まで力任せに一気に刺し込まれる。吾妻の腰が何度も健一の小さな尻に叩きつけられる。肉が打ち付けられる打擲音に、神経がガリガリと引っ掻き回される。
 
 
「ヤ、ヴァぁ、あアアぁッ!」
 
 
 まるで腹を左右に切り開かれて、内臓を手でもみくちゃにされているような感覚だった。
 
 激しい突き上げに、コンクリートに触れた額と膝が擦り剥けていく。皮膚が破れて、肉が擦り卸されて、赤い血が滲み出す。
 
 だが、そんな些末な痛みは既に感じられなかった。内臓を蹂躙される苦痛に比べれば、肉が削れる痛みなんて大したことはない。
 
 
「や、やめろ! やめっ、やめて下さいっ…!」
 
 
 とうとう保田の制止の言葉が懇願へと変わる。激しい抽挿が止まって、何とも長閑な吾妻の声が届く。
 
 
「次に目を閉じたら、貴方の目蓋を剥ぎます」
 
 
 脅迫の言葉とは思えないほど優しげな口調だった。保田が恐怖に青褪める。
 
 
「嗚呼、それとついでに健一の腕も切っちゃいましょうか。僕以外の人間に縋り付こうとする腕なんか、要らないよねぇ」
 
 
 吾妻の指先が健一の右腕の付け根をそっと撫でる。その感触に、健一はぞわりと背筋を震わせた。
 
 吾妻は、伊藤の部屋で健一が保田に縋ろうとしたのを知っているのだ。知っているからこそ、健一をここまで痛め付ける。これは保田への見せしめであり、そうして同時に健一に対する仕置きでもあるのだ。
 
 保田が怯えた表情で、唇を戦慄かせる。その額からは大量の冷汗が流れていた。
 
 
「あ、あんた、なに考えてるんだ…」
「何、って?」
「し…死んじゃうじゃないか…。あんた、健一くんを殺す気か…」
 
 
 保田の問い掛けに、吾妻が困ったように肩を竦める。だが、その口元は笑みに歪んでいる。
 
 
「そうですよ。僕は、健一を殺してやりたい」
「あんた、健一くんが好きなんじゃないのか…」
「勿論、好きですよ。世界で一番、誰よりも愛してる」
「それなら…どうして、こんなにも彼を傷つけるんですか……」
 
 
 至極当然な質問に、吾妻が苦笑いを滲ませる。何を今更とでも言いたげな表情だった。
 
 
「だって、健一は一生僕のものにはならない」
 
 
 それは、独り言のようにも子供の駄々のようにも聞こえた。吾妻が健一の肩甲骨へと唇を押し付けて、切なげに囁く。
 
 
「僕を愛してくれない」
 
 
 吾妻の孤独が触れた部分からじわりと染み込んでくるような感覚だった。心臓が音を立てて凍っていく。
 
 健一は恐れながら、ゆっくりと肩越しに吾妻を見遣った。吾妻は、健一を見つめて微笑んでいる。笑っているのか泣いているのか判別出来ない奇妙な微笑みだった。愛し方を知らない子供の顔だ。
 
 
「ねぇ、保田さん。貴方だって、本当は解ってるはずですよ」
「な、何を…」
「手に入らないものを手に入れようと思ったら、もう殺すしかないという事を。だから、貴方は上野涼太を殺した。殺すしかなかった」
 
 
 まるで同族を哀れむかのような声音だった。
 
 保田が息を呑む。吾妻が保田を見つめて、小さく頷く。肯定するかのように。
 
 
「貴方は僕と同じだ」
 
 
 それは酷く切ない一言だった。その声に呼応するように、保田の皮膚が小さく戦慄く。
 
 
「ぼ、僕はちがう…」
「違わない。ほら、ちゃんと見て下さい。これが貴方がしたかったことですよ」
 
 
 緩やかに抽挿が繰り返される。粘膜が焦れったく擦られる感触に、健一は鈍い声を漏らした。
 
 
「ぐ、ぅヴっ…」
「けんいち、くん…」
 
 
 保田の涙声が遠く聞こえる。応える事は出来なかった。
 
 緩やかだった律動が次第に激しさを増していく。体内の一番深い部分を突き上げられる衝撃に、健一は掠れた悲鳴をあげた。
 
 
「や、アぅ、あぁぁ…!」
 
 
 遠慮なく突き上げられる感触に、性器を包み込む内臓が痙攣を繰り返す。ぶちゅぶちゅと下品な音が体内から漏れ出す。
 
 
「健一も、気持ちよくなって…」
 
 
 荒い息の合間に、吾妻が囁く。
 
 健一の腰を掴んでいた片手を外すと、その掌で健一の小さな性器を包み込んで弄り始める。後ろからの突き上げに合わせるようにして性器を上下に扱かれると、脳味噌をぐちゃぐちゃに潰されるような混沌が訪れた。
 
 痛い、苦しい、気持ちいい、三つの感覚が無理矢理ミキサーの中に入れられてミックスされていく。相反する感覚が無理矢理混ぜ合わされる感覚に、健一は自分の脳味噌の何処かが音を立てて千切れるのを感じた。錯乱と狂乱が健一の理性を喰い尽くす。
 
 
「ヒっ、ぅうゥ…!」
 
 
 身体は、苦痛の中に与えられた微かな快楽にしがみつこうと必死だ。擦られる性器が勃ち上がって、先走りを漏らし始めるのに大して時間は掛からなかった。
 
 健一は、その事実に絶望しなかった。絶望するだけの考える力が今の健一からは失われていた。
 
 吐き出す呼吸が荒くなって、緩んだ口元からだらしなく涎が垂れる。先ほどまで全身に満ちていた苦痛が快楽へと変換されていく。
憎い男に陵辱される屈辱も、殺意も、今は何も考えられない。ただ、粘膜と性器を擦られる感触だけがすべてになっていく。
 
 
「んっ、んっ……んぁっ…ぁ…!」
 
 
 鼻がかった甘ったるい声をあげているのが自分だということも、もう健一には解らなかった。先端から溢れる先走りはもう滴るほどに。粘着質な滴がコンクリートに淫猥な染みを作っている。
 
 健一と吾妻が繋がる後孔も、ローションとも吾妻の先走りともつかないものでぐちゃぐちゃに濡れそぼっている。吾妻が奥を突き上げる度に、体内から粘液がぐちゅんと溢れ出す音が聞こえた。
 
 
「もう、やめて…」
 
 
 薄れていく意識の中、誰かが啜り泣く声が聞こえた。それが誰の声なのか解らなくて、健一は薄く目蓋を開いた。
 
 保田が泣きじゃくりながら健一を見詰めている。保田の目は痛々しいほどに赤く染まっていた。救うはずだった子供を目の前で犯されているという現実から目を逸らすことも出来ずに。
 
 
「…や、すだ…さ…」
 
 
 保田に助けを求めているのではなかった。ただ、どうして保田が泣いているのかすら今の健一には解らなくて、反射的に名前を呼ぼうとしただけだ。
 
 だが、名前を呼び終わる前に、濡れそぼった性器を滅茶苦茶に揉みしだかれて健一は嬌声を張り上げた。
 
 
「ッあ、アァっ!」
「他の男の名前を、呼ばないで」
 
 
 嫉妬深い女のように吾妻が健一の耳元へと囁く。それなのに、続く言葉はまるっきり子供のようだった。
 
 
「僕のことだけ考えてよ…」
 
 
 健一の首筋へと鼻先を擦り付けて、吾妻が哀願する。
 
 突き上げは激しさを増すばかりで、健一は咽喉を嗄して喘ぐことしか出来なかった。限界が近いのか、吾妻の指先が腰骨にキツく食い込む。
 
 
「ひッ、ァ、んんっ……」
「健一、好きだよ。だいすき」
 
 
 哀れなほど幼い声で、無意味な愛の告白が繰り返される。それは健一の耳には届かない。
 
 吾妻が自嘲するように咽喉を震わせて、それから健一の性器の先端を一際強く擦り上げた。その瞬間、健一は甲高い嬌声をあげて達していた。
 
 
「あ、あっ、ンーーー!」
 
 
 全身の筋肉が一気に硬直して、脈動する性器がコンクリートへと白濁を撒き散らす。同時にキツく窄められた後孔の奥に、熱い液体が叩き付けられた。奥の奥まで濡らすように、もう根元まで入っているものを更に押し込むように腰を叩き付ける。達していて敏感な粘膜を抉られる感覚に、健一は内股を細かく痙攣させた。
 
 
「ヤッ…やぁアァ……」
 
 
 体内が他人の体液でどろどろに汚されていく。その事に嫌悪を感じることすら出来なくなっていた。頭の中が真っ白で、心は空っぽだった。
 
 吐き出した精液を健一の中へと塗り付けるように何度か抜き挿しを繰り返した後に、吾妻が弛緩した健一の身体から性器を抜く。途端、痺れて感覚のない後孔から生温い液体が溢れ出した。
 
 コンクリートの上に俯せになったまま、健一は浅い呼吸を繰り返した。自分がただの肉の塊になったかのように、全身にまったく力が入らない。
 
 ただ、どこからか泣き声が聞こえた。その泣き声を聞きながら、健一は他人事のように『可哀想だな』とぼんやりと考えた。
 
 

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