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22 夫 *R-18

 
 その直後も、暫く騒然とした時間が続いた。
 
 ボラドに連れて来られたバハル叔父は、カヤを目の前にして土下座して謝罪した。村人達へと自分の嘘を正直に告白し、カヤの無実を証明した。
 
 村人達は入れ替わり立ち替わりカヤの元へと訪れては、頭を地面へと擦り付けながら「すまない、酷い事をしてしまい本当にすまなかった」と繰り返した。
 
 すべての謝罪を、カヤはただ穏やかな表情で受け入れた。
 
 
「イェフィムは怒りも恨みも水に流す。だから、俺にもそうさせて下さい」
 
 
 そう口にするカヤを見て、村人達は隣に立つユーティへと次々と羨望の眼差しを向けた。
 
 
「ユーティ、お前は本当にいい嫁を貰ってたんだなぁ…」
 
 
 一人の男が口に出した感嘆の言葉に、ユーティは普段通りの笑顔を返す事が出来なかった。
 
 挨拶もおざなりに、怪我の手当をするからカヤを連れて帰る事を伝える。半ば強引にカヤを引っ張って歩いていると、死体の埋葬をしていた父と兄二人が声を掛けてきた。
 
 
「私達はエマと母さんを迎えに行ってくる。自分達で怪我の手当てはできるな?」
 
 
 父の問い掛けに、あぁ、といい加減な返答を返す。再び歩き出すと、背後からイギーの声が聞こえた。
 
 
「あんまり酷いことしてやるなよ」
 
 
 そんな事は言われなくても解ってる、と怒鳴りそうになった。下唇を噛んで、衝動を必死で堪える。らしくもない乱暴なユーティの様子に、カヤが戸惑ったように視線を揺らしているのが解った。
 
 先ほどの喧噪が嘘のように、家の中は静まりかえっていた。カヤを部屋まで連れて行ってから、薬箱を取りに行く。
 
 怪我の手当をしている間も、カヤは黙り込んだままだった。切れた頬や目蓋に塗り薬を丹念に塗って、剥がれた爪の痕に静かに包帯を巻いていく。
 
 指先に包帯を巻き終わった時、カヤがそっと手を伸ばしてきた。
 
 
「…ユーティ、右腕の手当てをしないと…」
「掠り傷だ」
「でも…化膿したらいけないから…」
 
 
 まるで親の機嫌を窺う子供のようだった。弱々しい声で言うと、カヤはユーティの袖をまくって、傷口を丁寧に消毒し始めた。
 
 消毒が終わると、包帯を巻きながらカヤがか細い声で問い掛けてきた。
 
 
「…怒っているのか」
「あぁ」
 
 
 一言冷たく返す。すると、カヤの指先がぴくんと跳ねた。その指先を見下ろしたまま、言葉を続ける。
 
 
「俺は、君にとても怒っている」
 
 
 カヤの視線が怯えたように伏せられる。その震える目蓋を睨み付けたまま、ユーティははっきりとこう言った。
 
 
「君が嫌いだ」
 
 
 見開かれたカヤの目がユーティを見つめる。真顔で見返すと、途端カヤの瞳から涙が溢れ出した。ぼろぼろと大粒の涙が頬を伝って落ちていく。
 
 
「…す、すまな……」
 
 
 言葉が涙で途切れる。カヤは泣きやもうとするように何度も両目を瞬かせていた。だが、涙は溢れるばかりで止まる気配はない。
 
 
「…すまない、ユーティ、すまない……で、出て、いくから……今日中に、この家を出る、から…」
「出て、何処に行くって言うんだ」
「…わ、わからな、…でも、すぐ消えるから…お前の前から、いなくなるから…」
 
 
 まるで譫言のようだ。何処か呂律の回っていない口調で呟くと、カヤは夢遊病患者のような動きで立ち上がった。そのままふらふらと歩き出すのを止めるように腕を掴む。
 
 
「カヤ、座って」
「…ご、ごめ……出て、いくから…」
「座りなさい」
 
 
 繰り返すと、カヤは顔をくしゃくしゃに歪めて腰を下ろした。その両肩を掴んだまま、カヤの顔をじっと覗き込む。
 
 
「どうして俺が君に怒ってるのか、君を嫌いだと言うのか、理由が解っているのか?」
「…お…俺が厄介ごとばかり、起こすから…」
 
 
 ふぅと溜息を吐く。そんな小さな音にさえ、カヤは過敏に震えた。
 
 
「たとえ君が厄介ごとを起こそうが、そんな事はどうでもいい。君が誰かを殺してしまったとしても、俺は君を心底から嫌いになる事なんてできない」
「…な、なら、どうして…」
 
 
 動揺したようにカヤが唇を震わせる。その戦慄きをユーティは冷たく眺めた。
 
 
「俺は、君を愛している」
 
 
 事実だけを告げるように、淡々とした声で漏らす。カヤが唇を半開きにしたまま、目を丸くする。
 
 
「だからこそ、俺を遺して死のうとした君が憎くて堪らない」
 
 
 伏せていた視線の奥で、じんわりと眼底が湿るのを感じた。唇が惨めに歪んでいく。
 
 
「君が嫌いだ。でも、君を愛している」
「…ユーティ…」
「忘れてなんて…さようなら、なんて言うな…。二度と、言わないでくれ…」
 
 
 お願いだから…。情けなく呻いた瞬間、俯いた頭をぎゅっと抱き締められた。カヤがユーティの頭を両腕で抱き締めたまま、頭へと鼻先を埋めている。
 
 
「ユーティ、すまない。…俺が悪かった…」
「愛してる、カヤ。…本当に君を愛してるんだ」
「うん、俺も愛してるよ。俺には、お前だけだから…」
 
 
 カヤの両手がユーティの頬をそっと包み込む。そのまま、静かに口付けが落とされた。微かに涙の味がする。
 
 ぼんやりと口付けを受け入れていると、まるで雨のように何度も唇が降ってきた。目蓋や頬に唇が触れて、次第に熱を孕んだ吐息が皮膚に触れる。
 
 
「ユーティ…はしたないと思わないでくれ」
「…カヤ」
「今すぐ、お前と繋がりたい」
 
 
 切実な声音だった。熱情だけではない、何処か切迫した響きがあった。カヤが自身の服を脱ごうと手を動かす。だが、指が痛むのか、その動きはたどたどしい。
 
 
「カヤ、おいで」
 
 
 もどかしく指先を動かすカヤを呼ぶ。寝台へと横たわらせると、カヤの胸が大きく上下した。上着を開くと、カヤの小麦色の肌に赤黒い痣が幾つも散っているのが見えた。
 
 
「痛いだろう」
「…痛くてもいい」
 
 
 カヤの両腕が伸ばされる。ユーティのうなじに絡まると、そのまま引き寄せられた。直ぐに舌が絡まった。唾液がなじんだ舌をこね合わせていると、首筋からするりと外れたカヤの手がユーティの下腹へと伸ばされた。布の上からまだ萎えている陰茎を掌で撫でさすられて、その淫靡な動作に息が上がる。
 
 
「ユーティ、はやく、はやく硬くしてくれ」
 
 
 甘く強請る、カヤの即物的な言葉。カヤの目は、既に蜂蜜のようにどろどろに蕩けていた。まるっきり発情した獣のようだ。その様子は、死へと片足を突っ込んでいた人間が必死で生を享受し、骨の髄まで味わおうとしているように見えた。
 
 
「少し落ち着け。そんな乱暴にすると、指が痛むだろう」
 
 
 下衣へと強引に手を突っ込もうとするカヤを制しながら、そっとその両手首を掴む。すると、むずがる子供のようにカヤが身を捩らせた。
 
 
「ユーティ、じゃあ口で」
 
 
 代案のように出された言葉に、ユーティは目を丸くした。唇を半開きにしたまま硬直していると、カヤが口をゆっくりと開いた。その唇の隙間から薄梅色の舌が覗き見える。
 
 
「口で…してもいいか?」
 
 
 乞うように問われると、嫌だなどとは口が裂けても言えなかった。こくりと唾を飲み込むと、ユーティの様子を見たカヤが口角を吊りあげるようにして笑う。まるで暗闇へと誘い込むような蠱惑的な微笑みだ。
 
 カヤは犬のように四つん這いになると、そのままユーティの下肢へと顔を近付けてきた。下着をずり下げて、剥き出しになった性器へと唇を寄せる。カヤの舌が伸ばされて、先端へと触れた。濡れた生温かい感触に、内股が小さく戦慄く。
 
 カヤは、先端を執拗に舐めた。ぺちゃぺちゃと音を立てて先端を舐めしゃぶって、時々浮き上がった裏筋を辿るように舌を這わせる。
 
 陰茎が完全に勃起して、鈴口から先走りが溢れ出すと、カヤはうっとりとしたように目を細めた。
 
 
「ん…ユーティ、おれの、気持ちいい、か…?」
 
 
 うっそりと笑いながら問い掛けてくる。その欲に溶けた眼差しに、ますます下腹部に熱が溜まって行く。
 
 膨らんだ先端が咥内へとぱくりと含まれる。そのまま、ずるずると咽喉の奥まで飲み込まれた。裏筋にピッタリと舌を貼り付かせたまま、カヤの頭が上下に揺れ始める。短い赤毛がリズミカルに揺れる様を、ユーティは食い入るように見つめた。
 
 
「…ぅ、グ…んぶ…んっ…!」
 
 
 先端で咽喉を突かれるのが苦しいのか、時折眼下から唸り声が聞こえて来る。それでもカヤは口淫を止めようとはしない。じわじわと腹の底から込みあげてくる快感に、目が霞む。
 
 指を唾液で湿らせて、口淫に必死になっているカヤの下半身へと伸ばす。下衣をズラして、その尻の狭間に指先を滑らすと、カヤが咽喉を震わせた。
 
 陰茎を咥えたまま、カヤが驚いたようにユーティを見上げる。その視線を受けながら、ユーティは欲情し切った表情で微笑んだ。
 
 
「一緒に」
 
 
 囁きながら、濡れた指先で窄まった後孔の縁を撫でる。そのまま一本目の指を内部へと挿し込むと、カヤの背が大きく跳ねた。口に含んでいた陰茎からプハッと唇を離して、掠れた声をあげる。
 
 
「ゆ…ユーティっ…!」
「カヤ、口が留守になってるぞ」
 
 
 そう指摘すると、カヤは少しだけ悔しそうな表情をして再び奉仕に戻った。だが、後孔に突き刺さった指が気になるのか、その愛撫は何処か大人しくなっている。
 
 まるでミルクを舐める猫のように、ぺちゃぺちゃと先端だけを舐めているカヤを見下ろしながら、後孔へと突き入れた指をゆっくりと動かす。
 
 
「…ぁ、あ、…ッ…」
 
 
 苦しげだった息遣いが次第に甘く溶けていく。一本目に添わせるようにして二本目の指を潜り込ませると、カヤは耐えられないと言いたげにユーティの陰茎へと頬擦りをした。カヤの滑らかな肌に、半透明に濁った先走りがこびり付く。
 
 二本の指が滑らかに動くようになった頃、三本目を捻り込んだ。三本の指で狭い肉筒を押し広げて、イイところを指の腹で擦り上げる。すると、カヤが首を左右に打ち振って叫んだ。
 
 
「もうっ…もう、いっ…から…!」
 
 
 もう挿れてくれ…。懇願するような小声に、飽きることなく熱が煽られる。
 
 後孔から指を引き抜いて、カヤの身体を膝の上へと抱き寄せる。カヤの服を脱がせて、向かい合うように抱き合ったまま、綻んだ後孔へと先端を押し当てた。カヤの首筋がぶるりと震える。その脈動にも似た震えを感じながら、掴んだカヤの腰をそっと下ろしていった。
 
 
「ふ、あぁあァアァ…ッ」
 
 
 ずぶずぶと肉と肉の隙間に埋没して行く感覚が堪らない。きゅうきゅうと火照った肉筒がユーティの陰茎を柔らかく食みながら、奥まで呑み込んでいった。
 
 
「ゆ、…てぃ……ふかっ…深いぃ…」
 
 
 自身の体重で下腹までユーティの陰茎を呑み込んだカヤが譫言のように呟く。その舌ったらずな声音が可愛い。
 
 
「ん、痛くないか」
「…ぁ、ん……いたく、ない…ぃ」
 
 
 繋がりが解けてしまうのを恐れるように、カヤは痛くないと繰り返して首を小さく左右に振った。その両腕がぎゅうぅっとユーティの首裏へと絡み付いてくる。まるで子供が必死で親を繋ぎ止めようとしているかのような仕草だ。そんなカヤが可愛そうで、可愛かった。
 
 
「カヤ、動くぞ」
 
 
 カヤの膝裏を両手で掴む。そのまま上下に全身を揺さぶるようにして動いた。下から突き上げると、押し出されるようにカヤの唇から矯正が溢れる。
 
 
「お、奥ッ…そ、…なっ…ゴツ、ゴツっ、されたら…!」
 
 
 矯正混じりのカヤの声は酷く不明瞭だった。奥を先端でこね回すと、カヤがイヤイヤするように首を左右に打ち振る。そのまま律動を更に激しくして行った。寝台が割れそうなぐらい激しく、体重に任せて奥の奥までねじ込んで犯していく。
 
 
「やッ…! ゆーてぃ、ゆ…てぃ! もっ、だめ、だめ…っ!」
 
 
 そう叫ぶのと同時に、カヤの背が仰け反った。全身を硬直させて、ぱっくりと開いた鈴口から白濁を迸らせる。ビクビクと全身を痙攣させながら絶頂を味わうカヤの姿に、瞬間、頭の奥が真っ赤になるような興奮を覚えた。
 
 
「ッ、いや…やだ、ユーティ…っ! でて……出てっ…のに…っ!」
 
 
 泣き叫ぶカヤの声が聞こえる。気が付いたら、寝台にカヤの身体を押し倒して、絶頂にキツく窄まる後孔を夢中で突き上げていた。ユーティの激しい律動によって射精が強制的に引き延ばされているのか、カヤの陰茎から精液がピュッ、ピュッと断続的に噴き出ているのが見えた。その光景に余計に高ぶる。
 
 
「…ぁうぅ、…あー…ぁ…」
 
 
 もうカヤは放心状態で、ガクガクと揺さぶられるがままだ。それでも唇を重ねれば、無意識に舌を絡めてくる。その従順な様子が堪らない。
 
 真上からズンズンと奥まで突き上げながら、小さく囁く。
 
 
「…ん、カヤ…愛してるよ」
 
 
 そう漏らすと、カヤの瞳から一筋の涙が伝い落ちるのが見えた。その光景を見た瞬間、弾けた。腰を引こうとすると、カヤの両手がユーティの腰を掴んだ。
 
 
「ぁ、あ…ゆーてぃ、いちばんおく…奥に…」
 
 
 強請る声に抗うこともせず、カヤの一番深い場所に熱情を吐き出した。まるでユーティの精液を味わうかのようにカヤの内部が蠕動している。その感触に、熱い息が漏れた。
 
 
「…腹が壊れないかな」
 
 
 独りごちるように漏らすと、荒い息混じりに小さな笑い声が聞こえた。
 
 
「ふ、ふふ…最初のときから、思いっきり中に出したくせに」
 
 
 カヤの口調は、まるで愛犬とじゃれているかのように和やかだった。ユーティを見上げる視線は、酷く優しい。
 
 
「こういうことをするのは…初めてだったんだ。そこまで余裕がなかった」
「うん、そうだな」
 
 
 忍び笑いを漏らしたまま、カヤが呟く。カヤは両腕をユーティの背へと回すと、はぁと短い吐息を漏らした。
 
 
「なぁ、俺、おかしいのかな」
「おかしいって?」
「お前のことが好きすぎておかしい。おかしくなった」
 
 
 ユーティの肩口へと顔を埋めたまま、カヤが囁く。その言葉の切実さに、不意に胸を突かれた。
 
 
「男なのに、お前に抱かれて嬉しくて堪らない。お前の妻になれて涙が出そうなくらい幸せだ。ユーティ、愛してるよ。きっとずっと死ぬまでお前だけを愛してる」
 
 
 微睡むような、たゆたうような、そんな柔らかな声音でカヤは言った。瞬間、涙が出そうになった。涙を堪えるようにカヤの頭をキツく抱き締める。
 
 ふふっ、とカヤが小さく笑う声が聞こえてきた。
 
 
「俺の夫だ」
 
 
 幼く誇らしげな声が苦しいぐらい愛おしかった。
 
 

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Published in 花嫁のカヤ

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