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23 純白のベールの下で

 
 アジムの襲撃から一月ほどは、騒動の後始末に追われた。
 
 死体の埋葬や毒によって汚された井戸を埋め立てて、新たな井戸を引き直すためにユーティもカヤも毎日汗水垂らして働いた。
 
 ようやく村が日々の安寧を取り戻してきた頃、父から離れを建てることを提案された。母屋から少し離れた場所に、ユーティとカヤの家が持てるのだ。その提案を、ユーティは喜んで受け入れた。
 
 それからは家族全員が協力して、二人の家を建ててくれた。母屋よりかは勿論小さいが、狭すぎず広すぎずな温かみのある家だ。
 
 数ヶ月後には家も殆ど完成して、後は荷物を運び入れるだけとなった。箱に入れた荷物を離れへと運んでいると、不意に背後から声が聞こえてきた。
 
 
「ユーティ! ユーティ、待て!」
 
 
 カヤが何かを手に持って、ユーティへと駆け寄ってくる。
 
 最初来た頃は引き摺られていたカヤの左足も、暫く前に村医者が作ってくれた補助具を付けるようになってから随分と回復した。全速力で走るまではいかないが、今は普通に歩いたり、小走りで駆けるぐらいは当たり前に出来るようになっている。それがユーティには嬉しくて仕方ない。
 
 
「カヤ、どうした?」
 
 
 ユーティの前で立ち止まって、カヤが手に持っていたものを差し出す。それは婚礼の時にカヤが頭から被っていた純白のベールだった。
 
 
「荷物を整理していたら懐かしいものが出てきた。お前にも見せてやろうと思って」
「あぁ、すごく懐かしいな。これを被っていた時の君はものすごく怖かった」
「怖かった?」
「猛獣みたいだった」
 
 
 言葉に絹着せず言い放つと、カヤは声を上げて笑った。はははは、と高らかな笑い声が突き抜けるような青空に吸い込まれていく。風がふぅっと吹き抜けて、草葉を柔らかく揺らす。
 
 
「そうだな。あの時は、隙あらばお前の喉笛を噛み千切ってやろうと思ってた」
「今も噛み千切ろうと思っているのか?」
「今は……ふ、ふ、どうだろうな」
 
 
 笑い声混じりに呟いて、戯れるようにカヤが純白のベールを頭から被る。
 
 そのまま、カヤは円を描くようにして踊り始めた。くるくると回ったり、ゆらゆらと揺れたり、子供のお遊戯のように朗らかで楽しげだ。
 
 
 ふと目蓋の裏に、婚礼の時のカヤの姿が蘇った。ベールの隙間から垣間見えた、硬く握り締められた拳、屈辱に震える唇、心臓ごと射抜くような琥珀色の瞳――
 
 
 踊るカヤへと、ユーティはそっと手を伸ばした。ベールの合わせ目へ、静かに指先を滑らせる。
 
 
 純白のベールの下で、彼は一体どんな表情を浮かべているのだろう。
 
 

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Published in 花嫁のカヤ

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