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13 セーラー服は戦闘服だ。

 
 セーラー服は戦闘服だ。
 
 首もとの赤いリボンは、敵の首に巻き付けて絞め殺すため。ひらりと短い上着の裾からおへそをチラリと見せて、油断させたところを鉄板入りのローファーで必殺急所キック。スカートの裾には仕込みカミソリ、ひらりと揺らして敵の身体をみじん切りにする。
 
 とか、妄想でもしてなきゃやってらんねぇ。朝起きて袖を通す度に、そのままリボンで首を吊りたい衝動に駆られる。
 
 
「もーやだー。似合っちゃう自分がやだー。めっちゃ可愛いしー。ミスコン一位総ナメだしー」
 
 
 馬鹿な女子高生口調を真似しつつ、ボクサーパンツの上に紺色のスカートを引っ張り上げる。パチンと留め具をはめれば、ほら出来上がり。超ミラクルスーパー清楚系女子の出来上がりー。
 
 え、おせっくすって何ですかぁ?とか小首傾げたら、100人中99人の男には信じて貰えそうな勢いの美少女。自分で言うのもチョーきもいけど。
 
 
「てか、総ナメってめっちゃエロい響きー。何ナメるんですかー。マジやばば星人ー」
 
 
 あ、自分で言ってて悲しくなってきた。つか、舐めるより舐められたい。分厚い唇で、竿をじゅぼじゅぼ啜って欲しい。浮かび上がった裏筋を舌先で下から上へと辿って欲しい。出来ることなら、可愛いあの子に。
 
 ぼんやりと頭に浮かんでくるのは、昨晩見た空介の真っ赤になった顔だ。とろんと溶けた目が幼い精神に似つかわず色っぽくて、そのまま押し倒して突っ込んでもイケそうな感じだった。いや、実際はイケないけど。一応、いま俺女だし。女っていう設定だし。
 
 スカートの下でもっこりし始めた股間を見下ろして、はぁーっと長く溜息をつく。悲しい、妄想と欲望ばかりをたぎらせてモンモンとする男の象徴が。
 
 
「あー…マジでワンチャンねぇかなぁ。うっかり持ってたキュウリが入っちゃったぁ、テヘッ★ とかで誤魔化かせねぇかなぁ。……つか、キュウリみたいに細くねぇし! ナスだし! ゴリッゴリのゴーヤだし!」
 
 
 ひとりツッコミ、さえ渡る朝、ただただ虚し。
 
 やべ、いい俳句できちゃった! 俺天才かも、今から詩人目指しちゃえるかも! ……悲しくてちょっと涙が出てきた。
 
 
「ゴーヤ?」
 
 
 惨めさに打ちひしがれていると、不意に扉の外から声が聞こえてきた。ハッとして扉を開くと、そこには学ラン姿の空介が立っていた。ちょっと着崩された学ランがまた似合ってる。超美味そう。
 
 空介は少し首を傾げて、ふにゃんと笑った。
 
 
「月乃さん、ゴーヤ食べたいの?」
「え…う、うん! そうなの、久々にゴーヤチャンプルー食べたいなぁ、なんてねっ!」
 
 
 えへへ、と空笑いが響く。やべぇ、ここは敵地だって事を忘れてた。部屋の中だからって一瞬も気を緩めちゃいけないんだった。
 
 
「へー、じゃあ今日の夜ご飯ゴーヤチャンプルーにしてもらうように、にゃるたさんに頼んでおくよ」
「わー、超うれしい!」
 
 
 両手を組み合わせて、殊更可愛さアピールするように腰を左右に揺らす。陽太の仕草を見て、空介が小さく噴き出す。
 
 
「やっぱり月乃さんは面白いなぁ」
 
 
 ぽんぽんと頭を撫でられると、心臓の奥がぼぅっとするような、とろんとするような恍惚に包まれる。
 あぁ、やっぱりこの子可愛いなぁ。俺のものにしたいなぁ。
 
 だけど、そんな至福の時間は一瞬で叩き壊される。陽太の頭に乗せられていた空介の掌を遮って、細い指先がガッシリと陽太の頭蓋骨を鷲掴んだ。
 
 
「おはよう、くぅ。早く朝飯食わないと遅刻するぞ」
 
 
 空介へと向ける声は穏やかなくせに、陽太の頭を掴んだ指にはギリギリと万力が込められている。頭蓋骨を砕かんばかりの握力だ。
 
 
「痛い、痛い痛いっ、脳味噌潰れます、お兄さんッ!」
 
 
 足をバタバタさせて叫び声をあげると、浅海はチラと陽太を一瞥した。
 
 
「潰れるほどの脳味噌があるのか?」
 
 
 脳味噌空っぽのクソビッチに? と、予想通り鼻で笑われる。空介が不安そうな眼差しで、浅海と陽太とを交互に見やっていた。
 
 
「浅海兄ちゃん、月乃さん痛がってるから止めてあげてよ」
「俺なりの婚約者へのスキンシップだ」
「頭を握り潰すのがスキンシップなんですかぁ!?」
 
 
 そりゃランボーも驚きな、斬新かつバイオレンスなスキンシップだ。ギリギリと指先が頭部にめり込んでくる激痛に、思わずツッコミの声も大きくなる。
 
 
「兄ちゃん!」
 
 
 空介がいい加減怒ったように叫ぶと、ようやく頭に食い込んでいた浅海の指が外れた。空介が頬をリスのように膨らませて、浅海を睨みつけている。やべぇ、怒ってる顔も可愛いなぁ。その顔だけで、痛みも忘れてヒットポイント全回復した上にガン勃ちしちゃいそうだよ。
 
 
「もー、意地悪しねぇのっ! 朝飯のベーグル、兄ちゃんのは無しだかんねっ!」
 
 
 ぷりぷりと怒りながら空介が言い放つ。途端、浅海の顔色が一気に変わった。
 
 
「待て。そのベーグルは、くぅの手作りか?」
「せっかく早起きして、浅海兄ちゃんの好きなヨモギベーグル作ったけど、兄ちゃんには食べさせてやんない」
 
 
 ぶつくさと漏らしながら、空介が廊下を歩いていく。その後ろを浅海が慌てて追いかけていく。
 
 呆然とその光景を眺めていると、不意に廊下を駆けてくる足音が聞こえた。
 
 
「つっきぃ、マイスウィートムゥーン! おっはよーのチューゥしようぜぇー!」
 
 
 その間抜けな叫び声が聞こえた瞬間、陽太は背後も見ずに一気に駆けだした。
 
 
 
 
 
 
 地尋のチューコールを必死にかわし、ベーグルを食べ損ねた浅海からの無言の威圧に耐えながら、十分で朝食を胃に詰め込んだ。唯一、目の前でにこにこと微笑みながら「月乃さん、どのベーグルがいい? ミックスベリーのベーグルとか結構うまく焼けたんだよなー」と給仕をしてくれる空介だけが癒しだった。
 
 朝食を食べた後は、恐怖の館から必死で逃げ出す主人公のように屋敷から飛び出た。ひぃひぃと息を乱しながら歩いていると、背後から空介が追いかけてきた。
 
 
「月乃さーん、忘れものー」
 
 
 隣に並んだ空介が差し出したのは、これまた可愛らしい兎柄の弁当袋だった。
 
 
「弁当、俺が作ったからあんま美味しくないかもだけど。あ、でも、だし巻き卵は、ちゃんと味見したから美味いよ!」
 
 
 何この子、今すぐ嫁に来い。つか、往来なのも忘れて、今すぐプロポーズしそうになるぐらいベリーキュート。
 
 へにゃんと笑う空介に、だらしなく鼻の下が伸びてしまう。
 
 
「つか、月乃さんと同じ学校とかめっちゃ楽しみだ。絶対面白い気がする」
「え、空介くんと同じ学校なの?」
「そうだよ。学年も一緒だから、もしかしたら同じクラスになれるかもな」
 
 
 屈託なくピースサインを向けてくる空介の姿に、こっちまで顔が緩んでくる。こういう天真爛漫な子が傍にいてくれたら、それだけで幸せな気持ちになれるんだろうな。
 
 
「うん、私も空介くんと同じクラスになりたいな」
「なー、楽しみだよなー」
 
 
 顔を覗き込んで楽しげに笑う空介の表情に、また胸がキューッと絞られたみたいに苦しくなる。空介がにこにこと笑ったまま言葉を続ける。
 
 
「俺のクラスも面白い奴ばっかなんだよ。あ、小学校の時から友達の女子がいるんだけど、その子結構性格がサバサバしてるから月乃さんと気が合うかも」
「本当? 仲良くしてくれると嬉しいな」
 
 
 そう返すものの、本心は別だ。誰も仲良くしてくれなくていい。ただ、空介だけが味方で居てくれればいい。空介とだけ仲良くしたい、友達以上に。
 
 言葉に出来ない想いが積もっていく。口元は微笑みながらも、微かな寂しさが込み上げた。
 
 目の前の可愛い子に全部打ち明けたい。この恋心も、君を騙していることも。だが、それは出来ない。だから、ただ微笑む。
 
 空介が「楽しみだな」と繰り返して、ぴょんと小さく跳ねた。それを真似するように小さく跳ねると、空介が声をあげて笑った。
 
 

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Published in きみすき

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