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01 凶暴三兄弟

 
 凶暴三兄弟なんて呼び名が付いたのが何時かなんて記憶には無い。俺が中学に上がる頃には、もうその呼び名は近隣近所には定着していたし、俺が高校三年生になっても変っていない。俺やハジメ兄貴やミツルの名前はとうに呼ばれなくなって、その呼び名だけが足の裏の米粒みたく鬱陶しくこびり付いて離れない。
 
 凶暴三兄弟という呼び名を言う時の住民の顔は、何時だって恐怖と嫌悪に強張っている。その表情を見る度に――兄貴やミツルがどう思うかは知らないが――俺はいきり立つ。コメカミにプッツリと血管が浮かび上がって、奥歯がギリギリと歯軋りを鳴らす。はぁはぁ、そんな風に俺を見る訳ね? なら、もっと酷ェ事をしてやろうか? となるわけだ。
 
 つい二日前、俺が通り過ぎた後ろで内緒話をした主婦二人を殴り倒したばかりだ。こしょこしょ話の隙間から聞こえた「凶暴三兄弟」という一言に、炸裂するように思考回路が弾けた。気付けば、主婦二人を地面に叩き伏せて、その丸い腹や不細工な面を蹴り飛ばしていた。ふくよかな肉を叩いて叩いて叩きのめして、傍らで三輪車に乗っていたガキを「おがぁさーん!」と泣き喚かせた。何が、おがぁさーん、だ。文句があるなら、俺を殴り返せば良いんだ。力で打ち勝てば良いんだ。泣くしか能の無い子供なんか大嫌いだ。だから、俺はそのガキの三輪車をへし曲げてゴミ捨て場に放り投げた。ガキを殴らなかっただけでも偉いものだと、今自分に拍手を送りたいぐらいだ。
 
 こんな風に暴力を奮っても警察沙汰にならず、俺の横暴が許されるのは、俺の親父がこの地方の大有力者だからだ。町の住民かその親族の大半が親父の会社で働いている。つまり、親父の指先一つでこの町の住人達は即座に無職になれるのだ。タラララッタラーン、リースートーラー(道具を出すドラえもんのリズムで)残された道は家族揃って心中さ、アッハッハ腹を抱えての大笑い。
 
 だが、そんな俺にも転機が訪れる。転機というものは、擦れ違い様の一目惚れのように唐突にやってくるものなのだ。しかも、その転機は俺だけでなく俺達兄弟の関係にも影響を及ぼしたりもした。これが後の世に言う、麻原兄弟の改革である、というのは冗談だけども。
 
 

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Published in 凶暴三兄弟

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