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長男のスキップ(5) *R-18

 
 情欲というのは、何処からやってくるものなのか。下半身からか、脳味噌からか、それとも心臓からなのか。
 
 狭いベッドの上で、膝裏を抱えて震えている弟を見下ろす。自分で足を開くという屈辱的なポーズを取らされているせいか、二郎の顔は茹でタコのように真っ赤に染まっていた。顰められた眉と悔しそうに戦慄く唇を見るだけで、臓腑からぞわりと情動が湧き上がってくるのを感じる。
 
 乾いた唇を舌先で湿らせながら、自分で足を抱えろと命じた時の二郎の表情を思い出す。一瞬唖然としたように唇を半開きにした後、猛烈な勢いで目尻を吊り上げた。数ヶ月前までの暴力狂いだった頃の狂熱を、眼球に宿らせた二郎は「ふざけんな」と鈍く唸るような声でハジメへと告げた。
 
 
「俺はAV女優やない」
「そんなん解っとる。やけど時間がないんや」
「時間?」
「あと二時間で手術に出にゃあかん。時間を掛けてナイフとフォークで上品に食うのもええが、そんな時間もない。やけぇ御前も協力せえ」
 
 
 率直過ぎていっそ卑怯とも思えるハジメの台詞に、二郎は怒りの表情に微かに戸惑いを滲ませた。それを見て、ハジメは零れそうになる笑いを必死で堪えた。別に時間なんて然程拘ってはいなかった。確かにリミットはあったが、二郎にそんな娼婦じみた真似をさせる必要はない。ただ、それを命じたのは、二郎が自分からハジメとの行為を望んで受け容れているように振舞わせたかったからだ。プライドの高い二郎だ。自分から足を開くなんて行為は、堪らなく情けないし悔しいだろう。それらの感情を押し殺してまで、ハジメの願いを聞いてくれるかを確かめたかった。
 
 二郎は暫く逡巡するように視線を伏せた後、閉じていた足へと両手を掛けた。そうして、ゆるゆると亀のような速度で両膝を開いた。伏せられた目蓋の上で、濡れた睫毛が微かに震えているのが酷くいやらしかった。開かれた足の間には、緩く勃ち上がった性器が哀れにひくついている。
 
 
「…はよ、せぇや」
 
 
 上目遣いで睨み付けてくる屈辱と羞恥が入り混じった眼差しに、背筋に電流が走る。それなりに優しくしてやるつもりだったのに、気付いた時には二郎の性器を根元まで咥えて、後孔に人差し指を突き入れていた。
 
 
「ふッ…んゥ…!」
 
 
 目を見開いた二郎がそれでも声をあげないように必死で口を噤んでいる。健気にハジメの言い付けを守っているのか、その両手はしっかりと自分の膝裏を抱えていた。震える内太腿の滑らかな皮膚を片手で撫でながら、まだ柔らかい竿へとぺちゃぺちゃと舌を這わせる。直ぐに芯が通った性器は、ぐんと反り返って二郎の腹へと濡れた先端を擦り付けた。浮き上がった裏筋を下から上へと這うように舐めてやると、二郎は大きく開かれた両脚の爪先を小刻みに痙攣させた。
 
 
「あ…ウ゛、ぅ…!」
 
 
 亀頭をじゅぷじゅぷと唇の間で挟んでしごきながら、乾いた後孔を人差し指で抉ってやる。すると、二郎が目を白黒させて、首を左右に打ち振った。
 
 
「あ゛っ、にき、それ、痛ィ…!」
 
 
 涙声で訴えられると、少しだけ良心が痛んだ。性器から口を離して、人差し指が中ほどまで突き入れられた後孔へと舌先を寄せると、二郎が素っ頓狂な悲鳴をあげた。
 
 
「ヤっ…そこ、舐めんなッ…!」
 
 
 非難を右から左へと流して、固く窄まった後孔へと濡れた舌を這わす。驚愕に二郎の背が反り返って、それから人差し指を咥えたまま後孔がぎゅうと収縮した。ひくひくと怯えた動物のように震える後孔へと丁寧に唾液をまぶす。人差し指を支柱にして、その周りを唾液で濡らして、少し潤ったところで唾液を馴染ませるように人差し指を前後に動かした。それを何度も繰り返すと、次第に抜き差しがスムーズになっていく。先ほどまでは半分しか入っていなかった人差し指が根元まで埋まり、もう一本中指を増やしても、先ほどのようなキツさは感じなかった。
 
 二本入れられて広がった後孔の、今度はその内部へと唾液を注ぎ込む。ねとりと粘着いた唾液が赤く蠢く粘膜へと呑み込まれていく様は、堪らなく淫靡だった。二本の指をやや乱暴に抜き差しすると、くちゅくちゅと中で攪拌された唾液が音を立てる。それが恥ずかしいのか、二郎は目を固く閉じたまま、顔を必死で背けている。噛み締められた唇の隙間から、荒い息遣いと、掠れた嬌声が時折零れる。それがハジメを煽る。三本目の指を入れると、途端内壁がぎゅうと絡み付いてきた。驚くほどの強さで締め付けながら、奥へとぐいぐいと引っ張られる。まるで誘い込むような粘膜の蠢きに、微かに嗤いが込み上げる。悪戯に粘膜の腹側にあるしこりを指先で引っ掻いてやると、二郎がひゃうと子供のしゃっくりみたいな声をあげた。
 
 
「ヒぅッ…あ、ア゛ッ、そ、そこ、イヤやぁ…」
 
 
 懇願するような涙声に、もっと酷い事をしてやりたくなる。性器の張り出した部分を咥内に含んで前歯で先端をやわやわと甘噛みしながら、三本の指でまとめて前立腺を突き上げてやった。二郎の身体が空気を急激に入れられた風船のように跳ねる。
 
 
「イ゛、ひぃ、ぁア゛ー…!」
 
 
 咥内で二郎の性器がビクビクと大きく痙攣する。舌の上に吐き出される精液の味に、少しだけ眉を顰めて、それから咽喉を逸らしてゆっくりと嚥下した。眼下では、虚ろな目をした二郎がひゅうひゅうと掠れた呼吸音を零している。両手で押し広げていた筈のその膝裏は、もう手の支えなんか必要もないぐらい大きく開かれていた。四肢を投げ出してぐったりと横たわる二郎の姿に、飽きもせず欲情する。ズボンの前を広げて先走りが滲んだ性器を取り出すと、二郎の唇へと近付けた。
 
 
「二郎、出来るか?」
 
 
 柔らかい下唇を、親指の腹で撫でながら問い掛ける。二郎はぼんやりと視線を宙へと浮かべた後、小さな頷きを返した。その頷きを見て、唇へと先端を押し付ける。柔らかい感触が先端に広がって、腰に痺れるような快感が走った。二郎はそろりと舌を出すと、ぺちゃりぺちゃりと竿の部分へと舌を這わせた。まるで子供がアイスキャンディーでも舐めているような動きだった。技巧も何もない、たどたどしくて稚拙な遣り方だったのにコメカミの血管が切れるかと思うほど興奮した。優しく頭を撫でてやると、くすぐったがるように二郎が鼻から息を抜く。
 
 
「ええ子や」
 
 
 そう褒めてやると、ハジメを見上げる二郎の顔がふにゃりと緩んだ。丸っきりテストで百点を取った子供みたいに嬉しそうに笑う。
 
 
「兄貴、気持ちえぇ…?」
「あぁ」
「ふはっ、うれしいなぁ」
 
 
 二郎の目から、ぽろりと涙が落ちる。それが嬉し泣きだと思った瞬間、心臓に鋭い痛みが走った。二郎は、自分を禁忌へと引き摺り込む兄を許して、あげくはその兄に快楽を与えられることを泣くほど嬉しがっているのだ。何て、馬鹿で哀れな弟だ。御前がやってるのは、男の性器をしゃぶってるだけのことなのに。
 
 二郎が無性に可哀想だった。根は素直で純真な弟だ。真っ当な道を進ませてやれば、気性の良い女と家庭を作って、子供や孫に囲まれて幸せに生きていけるはずだ。こんな未来も何もない、兄弟での不毛な絡み合いから離してやることさえ出来れば。
 
 その事実を思い当たった瞬間、寒気が走った。二郎を手放す。普通の兄弟に戻る。畜生、ふざけるな。ようやく手に入れた宝を、何故逃がさなくてはならない。十年以上も、二郎が此処まで堕ちてくるのを待っていたんだ。引き摺り込む機会を、ずっと息を潜めて窺っていたんだ。今手の中にある二郎を、手放す気には死んでもなれなかった。これで二郎が不幸になるというのなら、ハジメもミツルも一蓮托生で地獄に落ちる。その覚悟は、とっくの昔に出来ていた。
 
 
「ごめんな」
 
 
 可哀想な二郎のつむじへと向かって、小さく囁く。二郎が性器を口に含んだまま、不思議そうにハジメを見上げる。ちゅうと先端を緩く吸ってから性器から口を離すと、二郎は舌ったらずに尋ねてきた。
 
 
「なんで、あやまる?」
「何でやろうな」
「なんでもないのにあやまるのは俺に失礼や。俺は、なんも悪いことされとらんし、なんも後悔しとらん。それなのに、あやまられたら悲しくなる」
 
 
 ぐず、と二郎が鼻を鳴らす。その目からぽろぽろと悲しみの涙が零れ出す。それを指先でぬぐうと、二郎が人差し指を掴んできた。ハジメの指を握ったまま、二郎が丸っきり懇願するように囁く。
 
 
「兄貴、キスして」
 
 
 子供がお菓子を買ってと親に強請るような口調だった。だが、それ以上に切実だった。二郎の顔を凝視する。独りぼっちが怖くて、兄弟に身体を開いた弟。酷いことをしている自覚がありながら、それでも二郎を解放してやれない自分は、間違いなく犬畜生以下の外道だ。そう思いながら、泣く弟にそっとキスをした。唇が柔らかく触れて、離れる。二郎の唇からは淡い涙の味がした。
 
 
「兄貴、泣かんで」
「泣いとるのは御前やろうが。俺は泣いとらん」
「うん、やけど泣かんで」
 
 
 支離滅裂な訴えを零して、二郎がひっくと咽喉を鳴らす。もう二三度額や目蓋に唇を落としてやると、二郎は安心したようにハジメの首筋へと頬を摺り寄せた。
 
 

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Published in 凶暴三兄弟

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