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長男のスキップ(6) *R-18

 
 白衣のポケットから透明ピンクのパッケージを取り出す。昼に磯川から渡されたものが役に立つとは思ってはいなかった。二郎が珍しいものでも見たように目を瞬かせる。
 
 
「何やそれ」
「コンドーム。ここで御前ん中出すわけにもいかんやろう」
 
 
 言った瞬間、二郎の顔が真っ赤になった。唇をわなわなと震わせた後、二郎はぷいとそっぽを向いた。今時コンドームごときで恥ずかしがる奴も珍しいと思いながら、手早く勃ち上がった自身の性器に透明のゴムを被せる。ぐいと片足を押し広げて、先端を後孔へと押し付けると、二郎の身体が強張った。
 
 
「入れるで」
 
 
 耳元で囁くと、二郎の首筋にぞわりと鳥肌が浮かび上がる。その鳥肌に頬を寄せながら、腰を押し進めた。初めに感じたのは圧力だ。先端がぎゅうっと締め付けられ、押し返される感覚。二郎が咽喉の奥で鈍く唸り声をあげる。
 
 
「グ…っ…!」
 
 
 さっきまで随分と解れていたのに、今は頑なに窄まっている。肉の抵抗を捻じ伏せるように、更に腰に力を込めると三分の一までが内部へと突き刺さった。熱い肉が先端に絡まってくるのを感じながら、ふ、と短く息を吐き出す。
 
 二郎は声を出さないためなのか、口元に腕を押し当てたまま、目蓋を固く閉じている。その額に脂汗が滲んでいるのを見て、宥めるように萎みかけた性器へと掌を這わせた。性器をゆるゆると弄くってやると、次第に二郎の身体から強張りがほどけるのが解った。後孔から力が抜けたところで、じりじりと性器を奥へと進めていく。二郎の中は、奥に入れば入るほど熱く柔らかく絡み付いてきて、堪らなかった。初めてセックスした時は、ただ貪るだけだったが、こうやってじっくりと味わってみれば二郎の中は最高だった。繋がった下半身を中心にして、脳髄の奥まで快感が痺れるように広がっていく。
 
 
「ひィ、ンぅ…!」
 
 
 思わず最奥を軽く突き上げると、二郎が鼻に抜けるような嬌声を漏らした。その甘えるような声が堪らなくて、根元まで入ったまま先端で奥をこねくり回してやる。
 
 
「やッ、…ア゛、んあぁっ…」
 
 
 唾液を飲み込むことも出来ないのか、掠れた悲鳴をあげる唇の端から涎が流れ落ちる。それを舌先で舐め取りながら、ぎゅうぎゅうと締め付けてくる粘膜を愉しむ。
 
 二郎の呼吸が落ち着いたのを見計らって、腰を掴んでゆっくりと前後に抜き挿しを始めた。ほんの数センチの動きから、次第に先端から根元までの抜き挿しへと変えていく。無茶苦茶に突き上げたい衝動を抑えながら、あくまで粘膜に自身を馴染ませる。二郎の内部が自分の形を覚えればいいと思った。鞘に納まる刀みたいに、ハジメ以外収まらなくなってしまえばいいのに。だが、おそらくもう一人の弟も同じことを考えながら二郎を抱いているのだろうが。
 
 あらかじめ中に唾液を注ぎ込んでいたせいか、中を掻き回すとグチュグチュと卑猥な音が上がった。二郎はそれが耐えられないのか、嫌々するように頭を左右に打ち振った。
 
 
「音ッ……ヤあっ…」
 
 
 幼稚園児のように愚図る姿が可愛かった。わざと音を響かせるように、何度か強めに突き上げると、二郎が下腹をビクビクと痙攣させた。そのまま、いささか乱暴めなストロークを繰り返す。ベッドが小さく軋む音も気にならなかった。病院でセックスしているのがバレたところでどうだっていいとすら思えた。脳が快楽しか追えなくなる。
 
 いたいけな弟はそれでも必死で声を殺そうと、両手で唇を押さえている。その手を無理矢理剥がして、跳ねる両脚の膝裏へと持っていく。一番初めにハジメが命じたように、二郎は素直に自分の膝裏を抱えた。まるで赤ん坊が尿をたしているような格好をしたまま、内臓を男の性器で思うがままに抉られている。
 
 
「ひ、グッ、…んゥ、んあ゛っー…!」
 
 
 決して女のようには細くはない腰を鷲掴んで、思うがままに突き上げ、掻き回す。溶けた肉壁が性器にねっとりと絡み付いてくる。それを振り切るように引き抜いて、内臓を突き破る勢いで突き上げた。繋がった部分から、グチャグチャと脳味噌の神経を侵すような音が響いている。
 
 中のしこりの部分をカリの部分で引っ掛けるようにして弄くると、二郎が声をあげて泣いた。やめて、やめて、と子供のように繰り返す弟をそれ以上に泣かせてやりたくて、先端で滅茶苦茶にそこを抉る。すると、二郎は掠れた悲鳴をあげて、性器を弾けさせた。白濁した粘液を腹の上へとぶちまけながら、ぎゅうぎゅうと後孔を締め上げる。締め付けに耐え切れずに、ハジメも二郎の中で達した。肉壁に包まれた性器がびくびくと痙攣しながら、ゴムへと精液が吐き出されるのを感じる。
 
 自分でも驚くほど、射精は長く続いた。二ヶ月の欲求をすべて吐き出さんばかりに溢れてくる。ゴムが破けるんじゃないかと阿呆な心配をしたところで、ようやく射精が終わる。それでも、二郎の中から出るのが勿体無くて、根元まで差し込んだまま未練がましく二郎の顔にキスを落とす。二郎は呆けた顔をしたまま、荒い呼吸に胸を上下させている。
 
 
「……あにき、手術いかんの…?」
 
 
 掠れた声で、二郎が不安そうに漏らす。
 
 
「大丈夫や」
 
 
 短く返すと、二郎は体内の異物がどうにもバツが悪いのか二三度身体を捩った。仕方なく性器は引き抜いて、手早く後始末をする。それでも、二郎から離れるのは嫌で、身体を抱き締めたままいると、二郎は諦めたようにハジメの背へとそっと手を回した。
 
 
「兄貴、瞳さんの作ったオムライス美味かったやろ?」
 
 
 不意に、二郎が問い掛けてくる。状況にそぐわぬ質問に一瞬眉を顰めて、それからハジメはしぶしぶ頷いた。
 
 
「あぁ、そうやな」
「兄貴、もうええよ」
 
 
 二郎がそう言って笑う。何かが洗い流されたような妙に穏やかな表情だった。その表情に、思いがけず心臓が跳ねる。
 
 
「兄貴はたくさん俺のこと考えてくれた。俺のことで悲しんで、俺のためにたくさんのもん憎んできてくれた。でも、もうええんよ」
 
 
 二郎をまじまじと見詰めたまま、ハジメは自分の呼吸が止まっていることに暫く気付かなかった。唇が小さく戦慄く。何かを言おうと思ったが、言葉が思い浮かばなかった。
 
 
「兄貴、俺のこと好きか?」
 
 
 首を傾げて問い掛けてくる。その質問に、頷きを返した。
 
 
「当たり前や」
「俺も兄貴のこと好きや。すげーとてつもなく好きや」
「何を言うとる」
「やけぇ、兄貴はもう自分のことも許してええんよ」
 
 
 堪らず、呻き声を上げそうになった。どうして、そんな事を言うんだこいつは。どうして、街の人間よりも父親よりも、ずっとずっとハジメが自分自身を憎んでいることを、何故二郎が知っている。そうして、どうしてそんなにも容易く許しを与えてしまうのだ。この十数年、ハジメがどうしても、どう足掻いても許せなかったものを、もうええよ、の一言で洗い流してしまえるのか。
 
 息を押し殺して、ハジメは込み上げてくる感情の波を堪えようとした。喜びと躊躇いと希望がごちゃまぜになって心臓を押し潰す。十数年、心臓の奥で凍り付いていた何かが溶け出して、溢れ出そうとする。下唇を噛み締めて、プールから零れ出る何かを留めようとする。それが一度溢れ出てしまえば、自分の中で何かが変わってしまう気がした。それが恐ろしかった。
 
 その時、頭に触れる感触があった。二郎がハジメの頭を撫でている。
 
 
「泣いてええよ」
 
 
 二郎の声が心臓の隙間に潜り込んで、必死で積み上げていた防波堤を壊していく。気付いたら、眼球からぽとりと一筋の液体が頬を伝っていた。二郎が埋められた日から一度たりとも流したことのない涙だった。心臓の中心で凍り付いていた何かが静かに溶けて、零れていく。悲しいとも嬉しいとも違う感情だった。この感情を何と言い表したらいいか解らず、どんな言い訳をすれば涙を誤魔化せるかも解らず、ハジメはただ目の前の弟を見詰めた。
 
 頭を撫でる二郎の手からは、淡く台所用洗剤の匂いがした。皿洗いのように、真っ白な泡が心を覆って、こびり付いた汚れを落としていく。今までハジメの中枢を成していた自分自身への憎悪や、罪悪感を。
 
 それが消えた後に、残るのは一体何なのか。
 
 
「兄貴、だいすき」
 
 
 おそらく単純な愛おしさだけだった。
 
 
 
 
 
 
 
 手術まで一時間前。暫くしてから帰るように二郎に言って仮眠室から出ると、扉のすぐ横に磯川がしゃがみ込んでいた。ハジメと目が合うと、磯川はスキンヘッドを真っ赤にして、呂律の回っていない声を発した。
 
 
「…さ、さーせん…! そっ、外まで、ちょっと、こっ、声っつうか、…音っつうか、もろもろが聞こえてたっすから、ひっ、人が近付かねぇように…見張ってたっつうか、人払いっつうか…あのっ、ほんとサーセン! も、もう自分抜く毛ねぇですから勘弁してやってください!」
 
 
 つるつるな頭を両手で庇ったまま、磯川が弁解するように叫ぶ。その萎縮した姿に、溜息が零れる。確かに二郎の声が聞かれたのは腹立たしいが、どう考えてもこんな所でヤりまくったハジメの方に非があるだろうに。以前のように叩きのめされるのではないかと恐れている磯川が何とも気の毒だった。
 
 磯川はビクビクと怯えたような眼差しで、ハジメを見遣っている。その姿を見ていると、妙に意地の悪い気持ちになった。
 
 
「下の毛があるやろ」
「へっ、は、いっ、いやいやいやいや、男がパイパンとか洒落んなんねぇっすよ!」
「洒落やと思うか?」
 
 
 真っ赤になっていた磯川の顔が一気に青褪める。その解り易い反応に笑いが込み上げた。小さく声をあげて笑うと、途端磯川が仰天したように目を見開いた。そういえば、こんな風に声を出して笑うのも久しぶりだ。今まで磯川の前で笑ったことなんか一度もない。
 
 
「は、ハジメさん、ひょっとして笑いダケとか、食ったんっすかぁ…?」
 
 
 馬鹿げた問い掛けに、磯川の頭を張っ倒しそうになった。そのスキンヘッドを指先で軽く弾いて、歩き出す。
 
 重たい荷物を下ろしたように、酷く足取りが軽かった。スキップでもしてやりたい気分だ。足をスキップの形に跳ねさせようとして、柄でもないなと思って直ぐにやめた。スキップの楽しみは、老後にでも取っておこう。二人の弟と年を取って、爺になった頃に目の前でスキップを見せてやるのだ。今から弟達の唖然とした表情が脳裏に浮かぶようで、矢張り笑いが込み上げて止まらなかった。
 
 

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Published in 凶暴三兄弟

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