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17 壊さないで *R-18

 
 好意を口に出した瞬間、もう歯止めが利かなくなっていた。目蓋の裏がチカチカするような興奮が皮膚の下から這い上がって、寒くもないのに鳥肌が立つ。
 
 橘の首に両腕を巻き付けて、息もつかせない勢いで口付けを繰り返す。咥内に舌先を潜り込ませて、生温かく柔らかい舌を探り当ててまさぐる。呑み込み切れない唾液が口角をだらしなく伝って行っても構わなかった。橘と一秒でも長く繋がっていたくて、喜一は殆ど貪るように橘の咥内を掻き回した。
 
 
「き、…ぃちさんっ…!」
 
 
 口付けの合間に、橘の途切れがちな声が聞こえて来る。その声は、微かな戸惑いと非難を帯びている。その理由はすぐ解った。いつの間にか、形勢逆転とばかりに橘の身体をベッドへと押し倒していた。伸びをする猫のように腰だけ高く上げたまま、橘の身体に馬乗りになっている。
 
 
「橘さん、したいです。したい」
 
 
 息を荒げながら、真下の小さな顔にキスの雨を降らせる。額も頬も目蓋もたくさんキスをして、それでも全然足りなかった。興奮に縺れそうになる指先で、橘のネクタイを引き抜いていく。その指先を、慌てたように掴まれた。
 
 
「喜一さん、ちょ、ちょっと待って下さい…!」
「どうして? 橘さん、もう俺としたくない? 俺がうじうじしてるからキライになった?」
 
 
 目を潤ませながら問い掛ける。橘はぐっと一瞬言葉に詰まって、それから首を左右に振った。
 
 
「嫌いになんてなるわけないじゃないですか」
「なら、して。俺に触って。橘さんに、抱いて欲しい、です」
 
 
 熱ぼったい息をふわりと吐き出して、浮かしていた尻を橘の下半身へとやらしく擦り付ける。それだけで、橘のモノが固くなっていくのが判った。橘の頬が見る見るうちに赤く染まっていく。その様子を眺めて、喜一は自身の口角を舐めた。まるで獲物を前にしたかのような舌舐めずり。はしたない、いやらしい、今の自分は丸っきり発情した雌猫のようだと思う。好きな男を早く咥え込みたいと身体が疼いている。
 
 そのまま、緩やかに腰を前後に動かす。尻の狭間で擦られて、徐々に存在感を示していく形が堪らない。布越しでもその熱さが感じられて、喜一はうっとりと頬を緩めた。
 
 
「橘さん、おっきい…」
「き、喜一さん、待って…! まず、貴方に言わなくちゃいけないことが…」
「した後に言って下さい。俺、今すぐ橘さんに抱かれたい。滅茶苦茶にして欲しい」
 
 
 ぐちゃぐちゃに、突っ込んで欲しくてたまんないんです…。そう耳元に囁いて、薄い耳朶に軽く歯を立てる。大きく跳ねた肩を宥めるように掌で擦りながら、ゆっくりと身体を橘の足元の方へと下げていく。固く締められたベルトを緩めて、ジッパーを下ろす。橘の非難ともつかない叫びを無視して、そのまま喜一は緩く勃ち上がった橘の性器の先端へと舌を這わせた。
 
 
「きっ、ちさん…、そんなの…!」
 
 
 押し止めるように橘の手が喜一の頭を掴む。喜一は透明な液体を滲ませる先端をぺちゃりと舐めながら、泣き出しそうに顔を歪めた橘を見上げた。そのまま、誘い込むように微笑む。
 
 
「うれしい……橘さんの、舐めたかったんです…」
 
 
 たぶん、初めて会った時からこの人に惹かれていた。この人の雌になりたかった。
 
 ぺちゃぺちゃと舌先で何度も舐め上げてから、膨らんだ先端を潤んだ咥内へと含む。途端、橘の下腹がビクンと痙攣するのを感じた。その反応が嬉しくて、唇を窄めて咥内で上下に扱いていく。完全に勃ち上がった橘の性器は、可愛らしい顔立ちにそぐわないほど大きくて熱かった。竿にボコボコと浮かび上がった太く逞しい血管が、咥内の粘膜を凸凹と刺激する。固い先端で上顎や咽喉を擦られるともう堪らなかった。まるで自分が愛撫されているかのように酷く感じてしまう。
 
 
「…はっ、なして下さい…っ…」
 
 
 橘は緩く背を浮かせたまま、眉間に深く皺を寄せている。その手は未だ引き剥がそうと喜一の頭を掴んでいる。橘が力を込める度に髪の毛が引っ張られて、頭皮が引き攣るような痛みが走る。だが、喜一は橘の性器から唇を離さなかった。先走りを溢れさせる先端をきつく吸い上げると、橘の両膝が大きく跳ねた。
 
 
「…もっ…出…るから、やめてくださっ…」
「出して、欲しいんです」
 
 
 熱く火照った唇を戦慄く竿へと押し付けて、うっそりと囁く。それだけで顔をくちゃくちゃに歪める橘が可愛かった。こんな荒々しい性器を持ってるくせに、その表情はまるで先生に叱られた幼稚園児のようだ。
 
 逃げ腰な身体を押さえるように、両手で腰骨を掴んだまま口淫を続ける。えずきそうになるくらい咽喉の奥まで先端を招き入れる。頭を上下に振る度に性器と唇の間からぶぢゅぶぢゅと下劣な音が響く。唇の周りに、唾液と先走りが混じったものが小さく泡立つ。咥内に溢れる苦味ばしった液体を、喜一はうくうくと哺乳瓶に吸い付く赤ん坊のように夢中で呑み込んだ。今食道を通っているものが橘の体液だと思うと、それだけで鳥肌が立つくらい興奮した。
 
 橘は苦しげな表情で、固く歯を食い縛っている。その両手はまるで堪えるかのように、ベッドのシーツをしわくちゃに握り締めていた。我慢しなくていいのにと思うと、ふと悪戯心が湧いた。上下運動を止めて、雁の部分に淡く歯を立ててみる。やわやわと何度も先端を甘噛みしながら、尖らせた舌先で鈴口をぐりぐりと刺激すると、途端上擦った声が聞こえた。
 
 
「…ッ、…ぅぁ!」
 
 
 咥内で性器がビクビクと痙攣するのを感じる。上顎や舌に青臭く熱い液体が飛び散って、咥内の粘膜を汚していく。橘の精液は大量だった。狭い咥内だけでは収まり切らず、唇の端からこぽりと溢れ出す。下顎を伝っていく生温い液体を感じながら、喜一は最後の一滴まで絞り出すように細かく痙攣する性器を唇でゆるゆると扱いた。すべてを吐き出し終わると、ようやく唇を離す。
 
 橘は陶然とした顔付きで、ぼんやりと喜一を眺めている。橘と視線を合わせてから、喜一はゆっくりと舌を突き出した。途端、橘がぎょっと目を見開く。舌の上には、唾液と溶け掛けた白濁がねっとりとこびり付いている。舌に纏わり付く重みのある液体を、喜一は橘へと見せつけるように呑み込んだ。わざとらしく咽喉を鳴らすと、橘が泣き出しそうな表情を浮かべる。
 
 
「な、何で、飲んじゃうんですかっ…」
 
 
 まるで喜一が毒でも飲んだかのような言い草だ。沈痛な面持ちで俯く橘をぐいと覗き込んで、喜一はこの上なく嬉しげに笑った。
 
 
「橘さんのだから、好きな人のだから飲みたかったんです。橘さんは気持ちよくなかった?」
 
 
 緩く首を傾げて問い掛けると、橘はバツが悪そうに俯いてから「気持ちよかったです」と拗ねた口調で答えた。
 
 
「気持ちよかったんなら、嬉しい。誰かにしゃぶられたの初めて?」
「…童貞だって言ったじゃないですか」
 
 
 恨みがましそうな声に少しだけ笑いが零れる。くすくすと咽喉を鳴らすと、橘が「喜一さんっ」と非難の声をあげた。
 
 
「ごめんごめん。だって、橘さん時々すっごく怖い顔するから」
「怖い顔、ですか?」
「俺のこと喰いそうな顔…」
 
 
 誘うつもりで誘っている。安っぽい誘惑に乗って欲しい。指先を伸ばして、橘の下唇へと触れる。柔らかい唇を淡くなぞって、そのまま首筋から鎖骨、胸元まで這わせていく。左胸の上で掌を止めて、喜一はふにゃりと頬を崩した。
 
 
「橘さん、ドキドキしてる」
 
 
 重たい鼓動が掌をどくんどくんと打つ。自分なんかに少しでも興奮してくれているんだと思うと、堪らなく嬉しかった。橘は唇を閉ざしたまま、真剣な表情で喜一を見詰めている。嗚呼、喰いたそうな顔してる、と思うと背筋が期待にぞくりと震えた。
 
 橘が手を伸ばして、喜一の左胸に触れる。途端、電流でも走ったかのような皮膚が痺れた。
 
 
「喜一さんも、ドキドキしてるじゃないですか」
 
 
 窘めるような含み笑いの声。先ほどまでの狼狽の声とは違う、情欲を含んだ男の声音に、膝頭が震えそうになる。橘の掌はゆるゆると喜一の胸元を撫でて、それから不意に小さな尖りを爪先で軽く引っ掻いた。急な刺激に、咽喉から素っ頓狂な声が零れる。
 
 
「ひっ、ぅ」
「しゃっくりみたい」
 
 
 ふふ、と調子づいて笑う男をなじりたくなる。橘は物珍しいものでも触るかのように、両手で喜一の胸を撫で回した。胸筋を確かめるような色気のない触り方かと思ったら、不意に胸の尖りを無造作に押し潰してくる。痛みに小さく呻くと、宥めるように指先で優しく撫でられる。母乳を強請る動物の子供のような邪気のない弄り方に、喜一はぐっと奥歯を噛んだ。
 
 
「おっぱいでも、搾るつもりですか」
「おっぱい出るんですか?」
 
 
 喜一の皮肉に対して、揚げ足でも取るみたいな質問を返してくる。いい加減叱りつけてやろうかと思った時、橘が喜一の胸に唇を寄せた。あ、と声をあげる間もなく、尖りが橘の口に含まれる。生温かい唾液がじわりと心臓の上に広がって、鼓動が僅かに早まった。
 
 ぎこちない愛撫だった。たどたどしく尖りを舐められて、時折ちゅうと吸い付かれる。腰に腕を回された格好で、胸に空気のような淡い刺激を受ける。今の自分は、まるでコアラに抱き着かれた木のようだと思うと、少しだけ笑いが零れた。
 
 
「橘さん」
「はい」
「噛んで、ください」
 
 
 耳元にそっと囁く。喜一のお強請りを聞くと、橘は不思議そうに目を瞬かせた。
 
 
「痛いの、好きだから…」
 
 
 痛くして欲しい。そう続けると、橘は口角を僅かに吊り上げた。何処か酷薄な印象の笑みだ。そうして、次の瞬間、左胸に鋭い痛苦が走った。針で刺されたかのような疼痛に、喜一は背筋を引き攣らせた。
 
 
「イっ…ぁ!」
 
 
 左胸の尖りを橘が前歯で噛み締めている。ギリギリと喰い千切るような強さに、喜一は眼球を生理的な涙に潤ませた。
 
 
「いっ、だ、…ァあ…っ!」
 
 
 途中から殆ど悲鳴に変わった。左胸の尖りから完全に感覚がなくなった頃に、ようやく強烈な噛み付きから解放された。哀れなほど腫れ上がった左乳首には、くっきりと橘の歯形が残っている。初めは米粒大ぐらいだった乳首が小豆大ほどに膨張している。真っ赤に染まった尖りを見詰めて、橘がうっそりと微笑む。
 
 
「震えてる…可愛いですね」
 
 
 この人、本当は羊の皮を被った狼なんじゃないか。そう思えるほど、今の橘は肉食獣じみたオーラを放っていた。腫れ上がった尖りへと再び唇を押し付けると、今度は優しくしゃぶってくる。舌先で舐めねぶられると、途端痛みの奥から快楽が細波のように押し寄せてくる。
 
 
「ん、んっ…」
 
 
 鼻がかった声が漏れ出す。腕を絡められた腰が無意識に揺らめく。胸へと舌を這わされながら、喜一はベッドサイドに置かれているボトルへと手を伸ばした。半透明ピンクのボトルから掌へとローションを垂らして、指先にローションがしっかりと絡まっているのを確認してから自身の尻へと後ろ手を伸ばす。ボクサーパンツの中へと手を差し込んで、そのまま狭間へと指先をゆっくりと這わせる。これが二、三人目の客であればわざわざ解したりする必要もないが、橘は今日初めての相手だ。男を受け容れられるほど、まだ身体はほぐれていなかった。
 
 
「…ぁあ、…んゥッ…!」
 
 
 窄まりへとぬるつきを広げていると、不意に下半身に刺激が走った。橘が喜一の腰骨を掴んで、勃ち上がった性器同士をゆるゆると擦り合わせていた。布越しに擦れる感触は激しい快感はもたらさなかったが、奇妙に胸を昂らせた。橘の性器はまた固くなっている。喜一も同じようなものだ。まるで靴の上から足を掻くような、もどかしさにも似た淡い快楽に溺れていく。気付いたら、自分から腰を揺らしていた。ゴリゴリと性器同士が擦れる感触に、荒い呼吸が零れる。
 
 
「た、ちばなさん……きもちぃ…ッ…」
 
 
 見下ろせば、間近に橘の顔があった。赤く上気した頬に、喜一を見上げる情欲の瞳。性器を擦り付けながら、自身の後ろの窄まりへと一本目の指を挿し込んでいく。異物を拒もうときつく窄まる粘膜を無理矢理広げて、二本目もすぐに挿入する。収縮する肉壁がローションと絡んで、くちくちと淫猥な水音を響かせる。熱く指を絞め付けるソコを感じると、あまりの興奮に目蓋の裏がチカチカと瞬いた。ここに橘が入る。早く欲しい。一秒でも早く橘と繋がりたい。
 
 
「喜一さん、何してるんですか?」
 
 
 後孔を解している喜一の腕を、そっと橘が掴む。不思議そうな表情をしながらも、下から性器を擦り付けてくる動きは止まらない。布越しでも橘の性器が凶暴に脈打っているのが解って、喜一は息を殺して身悶えた。
 
 
「ほぐさないと、…入んないからっ…」
「入らない?」
「橘さんっ、の…」
 
 
 息も絶え絶えになりながら必死で答える。途端、橘の目が鈍く光った気がした。獰猛な輝き。
 
 次の瞬間、目の前の光景がぐるりと逆転した。橘を押し倒していたはずなのに、反対に押し倒されている。唐突な体勢移動のせいで、後孔に入れていた指が抜けてしまった。橘は、半ば脱げかけていた喜一のボクサーパンツを剥ぎ取ると、乱暴な仕草で両膝を割り開いた。下半身を剥き出しにされる格好に、喜一は顔面をカッと赤らめた。
 
 
「なっ、に、するんですか…!」
「僕もしたいです」
「は…ぁ?」
「ここをほぐしたいです」
 
 
 そう言って、潤んだ後孔へと指先を滑らす。その感触に、喜一は内股を引き攣らせた。
 
 
「だ、ダメです」
「どうしてですか? 僕だって、好きな人に触りたい」
「ダメですってば…」
 
 
 拒絶しているのに、橘の指先はまるで強請るように後孔の縁をゆるゆると撫でてくる。その刺激に、ひくひくと窄まりが収縮を繰り返すのが解って、喜一は羞恥のあまり死にたくなった。他の客には、尻の穴を晒そうが、眼前で広げようが羞恥心なんて感じたこともないのに、好きな男相手だと息が止まりそうなくらい恥ずかしい。
 
 意地悪な男は、喜一の言う事も聞かず、物欲しげにひくつく穴に指先を挿し込んでくる。入口に固い爪の感触を感じて、喜一は「んっ」と短く声をあげた。
 
 
「だめ、って言ってるのに……何で、言うこと聞いてくんないんですかぁ…」
 
 
 涙声で橘をなじる。眼球を潤ませる喜一を見ると、橘は一瞬困ったように首を傾げた。
 
 
「じゃあ、一本だけ。一本だけならいいですか?」
 
 
 譲歩したかのように橘が提案する。文句を言うよりも早く、後孔へと橘の指が潜り込んできた。粘膜を擦っていく指の感触に、ぞわりと背筋が震える。
 
 
「いい、って言ってなっ…」
「ほら、喜一さんも入れて下さい。僕の指一本だけじゃほぐれないですよ」
「なっ…!」
「早く」
 
 
 完全に主導権を奪われている。無邪気に笑う男の横っ面を張り飛ばしてやりたくなる衝動を抑えながら、喜一は指先を後孔へと伸ばした。そこにはすでに橘の指が一本突き刺さっている。その指に沿うように、ゆっくりと人差し指と中指を窄まりへと潜り込ませていく。後孔がじわりと広げられていく感触に、内股がピクピクと小さく痙攣する。
 
 
「ふァ、ぁッ…」
「喜一さん、これからどうしたらいいですか?」
「ん……少しずつ動かしたり…なか、広げて…」
 
 
 言葉も途中で、橘が指の抜き挿しをゆっくりと始める。指の腹で肉壁を擦るように動かされて、喜一はヒッと咽喉を逸らした。中に塗り込んだローションの手伝いを借りて、挿し込まれた喜一の二本の指の隙間を縫うように、橘の指が滑らかに内部を掻き乱す。
 
 
「た、ちばなさっ……ま、待って…」
「こんな感じですか?」
 
 
 喜一はそれどころではないというのに、まるで生真面目な生徒のように訊ねて来る。そうして、橘の指先がとある一点を掠めた瞬間、喜一は胃がひっくり返るような衝撃に悲鳴をあげた。
 
 
「ひゃっ、…ぁッ!」
 
 
 まるで女のような悲鳴に、喜一は咄嗟に口元を片手で抑えた。橘は目を見開いて、喜一を凝視している。似つかわしくない声をあげたことが恥ずかしくて、全身が真っ赤に染まっていく。
 
 
「どうしたんですか…? 今すごく可愛い声が…」
「い、いまのは無し、です!」
 
 
 橘の感極まった声を遮って、叫び声をあげる。だが、それを不服に思ったのか、不貞腐れた橘がまたその部分を指先で擦ってきた。
 
 
「ヒぃ…ぁ、アー…!」
 
 
 再び嬌声が咽喉から迸る。両足が空中で突っ張るように跳ねて、後孔に入った指をぎゅうと締め付けた。触られてもいないのに性器から先走りがたらたらと溢れ出す。普段の演技とは違う、紛れもない本物の声だった。だからこそ、泣き出しそうなくらい羞恥心が込み上げて来た。開かれた膝を閉じようとすると、橘にそれ以上の力を持って押し開かれる。
 
 
「ココ、気持ちいいんですか?」
 
 
 真剣な表情で問い掛けられる。片手で唇を押さえたまま、首を左右に振る。すると、まるで嘘をついたお仕置きのようにその部分をコリコリと爪先で嬲られた。
 
 
「ん、ん゛―!」
 
 
 そこを触られるともう駄目だった。中が自分の意志とは反して、きゅうきゅうと収縮しているのが判る。皮膚から勝手に汗が滲み出て、内股は攣りそうなくらいパンパンに張っていた。性器は物欲しげに鈴口をひくつかせて涎を垂らしている。
 
 腕に力が入らなくなって、後孔へと入れていた二本の指がずるりと抜け落ちる。微かな空洞をあけてヒク付く窄まりを見て、橘が咽喉を鳴らすのが聞こえた。
 
 
「喜一さん、…入れていいですか?」
 
 
 肉壁を擦りながら、橘の指が引き抜かれていく。薄らと目を開くと、苦しげに眉を歪めた橘の顔が見えた。涙で霞んだ視界でも、完全に勃ち上がった橘の性器がビクンと脈打っているのが見える。その光景に、飽きずに発情する。犯されるのを待つようにしどけなく両足を開いたまま、喜一はこくんと子供のように頷いた。
 
 
「入れて、ください」
「あの…でも、アレつけなくてもいいんですか?」
「アレ?」
「コンドームです」
 
 
 たかがゴムの名称を口にしたぐらいで処女のように顔を赤らめる。
 
 
「なくても妊娠しませんよ」
「そういう事じゃなくて……あの、もし我慢できずに喜一さんの中で出しちゃったら、お腹壊すんじゃないかって、思って…」
 
 
 歯切れの悪いもごもごとした声音に、喜一は口角を緩めた。橘の性器へと手を伸ばして、戯れるように竿を上下にゆるゆると扱いてやる。
 
 
「生で、して欲しいです」
「でも…」
「俺、他のお客さんとする時はちゃんとゴムつけてしてるよ。今まで性病にかかったことないし、ちゃんと病院で定期検診もして貰ってるから大丈夫」
 
 
 他のお客さんという言葉を出した瞬間、目に見えて橘の表情が強張った。辛そうな、そのくせ怒ったような複雑な表情。嗚呼、この人本当に俺のことが好きなんだ、と思うと、背骨が歓喜にビリビリと震えた。溢れる先走りを橘の性器へと掌で塗り付けながら、喜一は甘えるように訊ねた。
 
 
「俺が他の人に抱かれるのイヤ?」
「嫌です」
 
 
 憮然とした声で即答されて、思わず笑みが深まった。笑う喜一を見て、橘が眉間に皺を寄せる。不機嫌そうな男を宥めたくて、組み敷かれたまま唇へとキスをした。触れ合うだけの拙いキスひとつ。それだけで橘の表情が緩んでいくのが見える。
 
 
「今まで誰にも中に出されたことないよ。橘さんだから、して欲しい。俺の中、橘さんのでいっぱいにして…」
 
 
 まるで色狂いのように卑猥で下品な言葉を並べ立てる。女のように色目を使っている自分を想像すると堪らない嫌悪を覚える。だが、それでも目の前の男が欲しかった。くだらない誘惑に乗って欲しくて、橘の腰へと両足を緩く絡ませる。
 
 だが、その両足は直ぐに空中へと剥がされた。橘の手で、胸に付きそうなほど両膝を折り曲げられる。息苦しさに呻く暇もなかった。潤んだ後孔に熱い感触を感じた瞬間、内側を熱いもので押し広げられた。
 
 
「ん、グッ…!」
 
 
 張り出したエラがじわじわと肉の輪をくぐって、湿った粘膜の奥へと進んでいく。下腹部に広がる圧迫感と異物感を、喜一は奥歯を噛み締めて堪えた。毎晩受けている行為のはずなのに、相手が橘だと思うだけで皮膚がビリビリと感電したように気持ちよかった。
 
 
「んぅ…、ん…ぁァ……」
 
 
 両足を大きく開いて、少しでも受け容れ易いように身体の力を抜く。体内を熱く太いものがじりじりと突き進んで、粘膜を火照らせる。まだ全部受け容れたわけじゃないのに、湿った粘膜が肉棒を味わうかのようにヒクヒクと締め付けながら纏わり付いているのを感じた
 
 
「ふぁ……奥…っ…」
 
 
 湿った草生えが尻に触れる感触があった。視線を落とすと、自分の尻が橘の性器を根元までずっぽりと呑み込んでいるのが見えた。限界まで広げられた後孔がキチキチと引き攣っている。橘は息を荒げたまま、喜一の腰を両手で鷲掴んでいる。その目尻は高揚を示すように鮮やかな赤に染まっていた。
 
 
「全部、入った」
 
 
 まるで譫言のように橘が呟く。上気した橘の顔は、壮絶なくらい色っぽかった。根元まで嵌め込んだまま半ば呆然としている橘に焦れて、喜一は組み敷かれたまま腰を淡く揺らめかせた。途端、繋がった部分がくちゃりと淫猥な音を漏らすのが聞こえた。
 
 
「俺の、なか、気持ちいい…?」
 
 
 円を描くように腰を動かしながら、口角を吊り上げて問い掛ける。中でビクビクと橘が震えているのを感じる。
 
 
「き、もちいぃです…」
 
 
 喜一の動きに翻弄されつつ、上擦った声で橘が答える。そのセックス慣れしていない声が可愛くて、もっとやらしい事を教えてやりたくなった。橘の腰を掴んで、誘導するようにゆっくりと抜き挿しを繰り返させる。中のイイところに亀頭を擦り付けるように動かすと、肉壁が強請るように橘自身をきゅうきゅうと締め付けるのが自分でも解った。
 
 
「俺も…橘さんの……熱くて、でこぼこしてて気持ちい…」
 
 
 丸っきり淫乱女のような台詞を呟く。唇の端を舐めて、耳まで赤くした橘へと微笑みかける。
 
 
「俺のなか、橘さんのでめちゃくちゃに掻き回して…」
 
 
 橘と繋がった部分へと人差し指を這わしながら、純粋な男を堕落させる言葉を吐く。わざと卑猥な言葉を使って、男の気を惹こうとする。初心な身体を、快楽に溺れさせようとする。小賢しいことをしている自覚はある。自己嫌悪も有り余るぐらいたっぷり。それでも、橘が欲しかった。せめて身体だけでも自分のものにしてしまいたかった。
 
 囁いて、橘の首筋へと両腕を絡める。途端、内臓にずしんと重たい衝撃を受けた。獰猛な表情をした橘が喜一の膝裏を抱えて、律動を開始していた。喜一の願い通り、粘膜を掻き乱し、思う存分蹂躙するような荒々しい動きだった。
 
 
「ッあ、…や、ゥぁあッ!」
 
 
 熱い切っ先に奥をきつく抉られて、チカチカと目が眩む。肉壁が捲れ上がりそうな勢いで引き抜かれて根元まで一気にぶち込まれる度に、体内でローションと先走りが混じったものがぶちゅぶちゅと卑しい音を響かせる。だが、今はそれすらも快楽のスパイスにしかならなかった。
 
 
「ヒッ、ぃ……ぁヴぅゥ…!」
 
 
 膝裏に橘の指先が痛いくらい食い込んでいる。女のように大きく足を開かれたまま、喜一は願い通り恋しい男に陵辱された。喜一の性器からも、だらだらと先走りが溢れて止まらない。
 
 
「もっ、…と、奥ッ……奥に、欲しッ……!」
 
 
 内股を痙攣させながら、腰をじりじりと左右に動かす。すると、背中をベッドへとつけたまま、腰だけをぐいと高く持ち上げられた。身体をより深く折り曲げられて、息が詰まる。そうして、次の瞬間、真上から垂直に突き落とすように奥へと切っ先が叩き付けられた。そのあまりの衝撃に、喜一は目を見開いて悲鳴をあげた。
 
 
「ヤッ、ああぁアアァあッ!」
 
 
 空中に浮いた爪先がビクビクと打ち上げられた魚のように跳ねる。不自由な体勢のまま、奥の奥まで抉られ、掻き回されて、喜一は言葉にならない悲鳴をあげ続けた。ずちゅっずちゅっと粘着いた音を立てながら、橘の性器が何度も出入りを繰り返す。その度に、橘の性器にしゃぶり付く自分の後孔すら見えて、あまりの居たたまれなさに喜一は両腕で顔を覆った。
 
 
「顔、隠さないで下さい」
 
 
 諌めるような言葉と共に、顔を隠していた腕を無理矢理引き剥がされる。その乱暴な橘の動作に、喜一は堪らず涙を零した。獣のように唸り声をあげながら、ぼろぼろと涙を流す。
 
 
「どうして、泣くんです?」
 
 
 不思議そうな声に、喜一は何も答えなかった。泣き顔を見られたくなくて、橘の背中に抱き着く。汗の臭いがする橘の首筋へと鼻先を擦り付けながら、激しい律動をただ受け容れる。
 
 一度溢れ出すと、もう涙は止まらなかった。幸せなのに、幸せだから、涙が止まらない。
 
 この男が好きだった。昔の彼女を一瞬忘れてしまうくらい夢中になった。不器用で鈍くて、優しいのに時々強引で、橘のすべてが今では狂おしいほどに愛しい。
 
 手放したくなかった。橘と一緒に生きていきたかった。それなのに、何故だか喜一にはそれが叶わないことだと解っていた。幸せのコップはいつか溢れてしまう。だから、橘からも離れるしかない。みーちゃんから逃げ出した時と同じように、いつか必ず終わりはやって来る。そう確信していた。
 
 
「喜一さん、好きです」
 
 
 耳元で囁かれる甘い言葉。もう二度と聞けないかもしれないと思うと、涙が更に溢れた。嗚咽が咽喉から零れる。途端、驚いたように橘に顔を覗き込まれた。
 
 
「…俺を…壊さないで…」
 
 
 優しい言葉をかけないで、いつか失ってしまうと解っているから。これ以上好きにさせないで、心が壊れてしまうから。
 
 掠れた声で懇願すると、橘は少し怒ったような表情でキスをしてきた。噛み付くような荒々しいキス。咥内を掻き回される感触に、鼻がかった声が漏れる。
 
 唇を重ねたまま、律動が次第に速度を増していく。荒い息遣いが聞こえて、橘の限界が近いことを悟る。大きく脈動する肉棒に、熱せられた粘膜が連動するように戦慄く。左右に割り開いていた両足を、橘の腰へと絡めて引き寄せる。一番深いところまで橘を感じて、ぞくぞくと内臓が震えるのを感じた。
 
 
「きぃ、ちさん…っ」
 
 
 切羽詰まった橘の声。自分の身体でこんなに感じてくれていると思うと、心臓が止まりそうなくらい嬉しかった。
 
 
「なか…中にっ…!」
 
 
 震える声で懇願する。ずるぅっと性器が一際深く引き抜かれて、そうして一気に根元まで叩き付けられた。その衝撃に堪えていたものがとうとう弾けた。
 
 
「あっ、アアぁあああ…ッ!」
 
 
 背骨が反り返って、充血した性器から白濁が飛び散る。殆ど同時に、体内に注ぎ込まれる熱い飛沫を感じた。喜一に続くようにして、橘も身体を細かく痙攣させながら、喜一の奥へと大量の精液を吐き出していた。熱ぼったい最奥に、更に熱い液体が叩き付けられる。内臓がどろどろに汚されていく感触に、喜一は身を震わせた。体内では、まだ橘の性器がビクビクと痙攣を繰り返している。すべてを喜一の中へと吐き出しても、橘の性器はまだ熱い芯を持っているように感じた。
 
 喜一は橘の腰に絡めた両足を引き寄せながら、涙に濡れた目を細めてうっそりと微笑んだ。
 
 
「橘さん、もっと…」
 
 

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