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08 男子高校生と化物の恋バナ

 
 想像以上の状況だ。
 
 いつも通りにざわつく休み明けの教室、肩を組んで騒ぐクラスメイト達、そんな中、ぽつんと俺の机の上に置かれた菊の花。一輪挿しにさされた菊を眺めながら、俺は『こんな古臭いイジメやる奴いるんだな』と他人事のように思った。
 
 ゆっくりと左右を見渡す。俺と目が合う者は誰一人としていない。意図的に目を逸らしているんだろうと思う。どうやら休日中か、もしくは朝一で『池田メグルを無視しろ』というお触れでも流されたようだ。
 
 小さく溜息が零れる。約束を破った罰か見せしめだろうか。高校生にもなって、やってることが小学生並みだ。知性の欠片もないことに、なぜだかショックを受けるよりもずっと呆れてしまう。
 
 面倒臭くなって一輪挿しをそのままに席に着いた時、タケルがひょっこりと教室入口から顔を覗かせた。俺の机の上を見たタケルが、ぶはっ、と大きく噴き出す。
 
 
「えー、何だよそれ! すげぇ、お前イジメられてんのっ!?」
 
 
 ぶひゃひゃと笑いながら言う事じゃない。タケルの無神経な大声に、途端クラス中が静まりかえる。
 
 
「わかんねぇけど、イジメっぽいな」
「ぽいぽい。なー、これ誰が置いたんだよ。マジうけるしー」
 
 
 タケルが阿呆みたいな口調で、クラスに響きわたる声で問い掛ける。それに対して、クラスは静けさに包まれたままだ。構わずタケルが俺へと近付いてくる。菊の花をじろじろと眺めて、タケルは楽しげな声で言った。
 
 
「センスやべぇー。これって、わざわざ菊の花買ったっつーことだよな。お前、めっちゃ愛されてんじゃーん」
「ひねくれた愛情だな。返品を希望したい」
 
 
 チャラけたタケルの言葉に、適当な返事を返す。タケルは、また声を上げて笑った。蛍光灯に反射して、舌に刺さったピアスが光る。笑いが収まった頃に、タケルは教室を見渡して、笑い声混じりに言い放った。
 
 
「なー、お前らみんな、コレ置いたやつ知ってんだろうがー。そいつに伝えておいて欲しいんだけど。黄色い菊の花言葉は『破れた恋』なんだぞ、って」
 
 
 タケルの朗々とした声に応える声はない。
 
 
「ついでに、俺の机には青いバラでも飾っといてよ」
 
 
 花言葉は神の祝福、とタケルがにやっと笑って続ける。俺の肩をバシバシと二度ほど強く叩くと、タケルが朝礼始まるからクラス戻るわ、と教室から出て行く。その背を慌てて追いかけて、声を掛けた。
 
 
「悪い、ありがとう」
 
 
 短い俺の言葉に、タケルは相変わらず掴めない笑顔を浮かべた。
 
 
「かまわへんよ」
 
 
 おどけるような関西弁に、思わず笑ってしまった。タケルが肩を竦めて続ける。
 
 
「メグさぁ、気をつけろよ」
「気をつける?」
「オウジに」
 
 
 意味深なタケルの言葉に、僅かに眉を顰める。
 
 
「やっぱ、あれ置かれたのってオウジ関連のせいなのか」
「そりゃオウジの命令に決まってんじゃん。あーんな解りやすい嫌がらせすんの」
 
 
 けたけたとタケルが笑い声を上げる。だから、ここは笑うところじゃない。
 
 
「一回約束破ったら、イジメられんのか…」
 
 
 原因はそれぐらいしか思いつかなかった。約束を破ったのは悪かったが、だからといってやることが極端過ぎる。溜息を漏らして、ガックリと肩を下げる。
 
 
「いや、約束破ったのお前だけじゃねぇし。俺もバーベキュー行かなかったし」
 
 
 タケルが自分自身を指さしながら、悪びれもなく言う。その言葉に目を剥いた。
 
 
「え、お前も行かなかったの?」
「行かねーよー。お前いねぇのに行くわけねぇじゃん」
 
 
 つまんねぇもん。とタケルがあっさりと言い放つ。
 
 
「じゃあ、何で俺だけ」
 
 
 イジメ対象になるんだ、と上擦った声で呟くと、タケルはニマーッと人の悪そうな笑みを浮かべた。
 
 
「だから、言っただろ。あいつ、しつこいんだよ」
「は?」
「気をつけろよ。殺されたくなかったら」
 
 
 随分と物騒なことを言う。そう言うなり、タケルは一度ひらっと手を振って、背を向けた。そのまま、自分の教室へと向かって走っていく。
 
 朝礼のチャイムが鳴るのを聞きながら、俺は呆然と呟いた。
 
 
「殺されるって…」
 
 

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Published in 先生と化物のものがたり

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