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08 先生と化物のはじまり

 
 祖母と兄と妹の遺体は、庭に埋めた。真夜中、深く掘った穴底へとバラバラになった身体の破片をばら撒く。刺された肩はチカテルに治してもらい、今は痛みすらなかった。
 
 埋められた土の上に、チカテルは花の種を蒔いた。
 
 
『きれぇな花が、さきますよぉに』
 
 
 そう囁く彼の隣には、小さな子供が二人膝を揃えてしゃがみ込んでる。二人とも人の形をしており、子供の頃の私によく似た顔立ちをしていた。
 
 私の視線に気付くと、双子は立ち上がって、恥ずかしがるように膝をもぞつかせた。チカテルが双子へと言う。
 
 
『おなまえ、いいなさい』
 
 
 すっかり母親の声だ。促された双子が唇を開く。
 
 
『よるくも、です』
『ひるくも、です』
 
 
 照れ隠しのように少し尖らせた口元が可愛らしい。愛おしさに私が目を細めると、よるくもとひるくもは途端ほっとしたように顔を見合わせた。ちょこちょこと短い手足を動かして、私の足下へと纏わり付いてくる。
 
 
『父さま』
『ぼくらの父さま』
 
 
 無邪気に私を父と呼ぶ声に、じんわりと涙が滲んだ。
 
 
「私は、きみたちの家族になってもいいだろうか」
 
 
 目元を掌で覆って、掠れた声で呟く。すると、頬に触れる感触があった。目を開くと、チカテルが私の頬をそっと撫でていた。優しく、柔らかな手付きだ。
 
 
『せんせぇ、だいすき。ずっとずっと、だいすき。もどってきてくれて、うれしぃ』
 
 
 堪らず、目の前の身体を抱き締めていた。ぐちゃりと湿った肉塊を抱いたような感触に、反射的に嫌悪感が込み上げる。だが、その嫌悪感を上回る確かな愛情があった。
 
 チカテルの身体へと腕を回したまま、私は小さく呟いた。
 
 
「これからは、ずっと一緒だ」
 
 
 頭上では、月が輝いている。月明かりに照らされて、チカテルの何百何千もの瞳がキラキラと輝いていた。その光はどんな宝石よりも美しく、私の心を蕩けさせた。
 
 何万回生まれ変わろうとも、私はこの光に溺れるだろう。確信めいた思いを抱きながら、柔らかな彼の身体に唇を落とした。
 
 子供たちが庭を飛び跳ねながら、一際はしゃいだ声を上げた。
 
 

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Published in 先生と化物のものがたり

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