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008 あっぱらぱーの花

 
「セックスって何ですか?」なんて、ほざきそうな面してたから犯してやった。
 
 
 甘ったるい笑顔で誤魔化して、表情一つ変えない男を家へと引き込んで、押し倒して縛り付けて舐めて勃たせて、ぐちゃぐちゃに突っ込んで中で吐き出してやった。
 
 
 その淡白な面から想像できないあえやかな声やら艶美な泣き顔に、昨日は確かに優越感を感じていたはずなのに、今日はどうだ! あいつは昨日あったことなんてそ知らぬ風采で、自分は綺麗ですとでも言いたげな面をしている。取り返しが付かないぐらい奥までガンガンに掘られて、内臓だって精液塗れになったくせに、吐き出す息は川底で洗われた石みたいに固くて清潔で、あんまりにも憎らしい。
 
 
 教室の片隅で、こともなげに論理やら定理やら倫理やら腹が立つぐらい意味不明な本を読んでるから、剥き出しの額に額を合わせて「淫売」と囁いてやった。それなのに、あいつといったら暫く黙り込んだ後に「御前は俺のことがすきなのか?」なんて検討外れにも程がある! そもそも、あいつが好きだとか嫌いだとか、そういう基準を持ってる事自体がお笑い種のように思えて俺には仕方がない。
 
 
「御前は俺のことすきなの?」
 
 
 嘲笑いに近く揶揄かってやれば、当のあいつは少しだけ悩むような表情を浮かべて押し黙った。嫌いという返事がすぐに出てこないことに、驚く前に呆れてしまう。こいつは、自分を犯した男に対して、嫌いだとか憎いだとかそういう感情が直ぐに出てこないほどに馬鹿なのか!? 馬鹿と綺麗は比率するのか、この頭には一体何が詰っているんだ。脳味噌か、それとも純白であっぱらぱーな花なのか。
 
 
 確かめるように短い黒髪をぐりぐりと撫でてやれば、あいつは少しだけ煩わしそうに目元を動かした。
 
 
「人が考えてる時に、そういう事をするのは感心しない」
 
 
 なんて随分と回りくどい言い方をする奴だ。正論を振り翳せば、他人が怯むとでも思ってるのか。正論なんて阿呆の種だ、正論でまんまが食えるなら苦労はしない。 核兵器も断絶され、世界中の子供が餓えず苦しまず正しく清らかに生活できる世の中できているはずだ。
 
 
「素直に、ムカつくからヤメやがれ糞野郎が、って言えよ」
 
 
 口の端で嗤ってやれば、あいつを笹の葉みたいに鋭い目を更に細めて、唇を引き締めた。キスをしてやれば、その唇がマシュマロみたいに柔らかくなるのを知っている。緩くほどけた唇に舌を根元まで突っ込んでやれば、あたたかく湿った唾液と粘膜が包んでくれるのを知っている。
 
 
 昼は淑女で夜は娼婦なんてもんじゃない。一瞬で、これだけ変貌できるのはいっそ脱皮するようなものだ。皮が一枚剥げれば柔らかい肉が剥き出しに、朝になれば固い殻を被り直す。 なんて淫乱だ! なんて詐欺だ!
 
 
 不愉快そうな面をしていても、何の迫力も威圧も恐ろしさもない。その肉の柔らかさに包まれたことを思い出すだけで、皮膚が粟立ち、穴という穴を犯してガバガバになるまで広げてやりたくなる。
 
 
 あいつといえば、そんな人の欲を知ってか知らずか、唇を薄く広げたまま、梅色をした舌先をちらりと覗かせている。果てもなく馬鹿な奴だ。やっぱりこの頭の中はあっぱらぱーの花が咲いている。
 
 
 と思っていれば、
 
 
「ハサミより、すきだ」
 
 
 なんて一言。
 
 
 はいぃ? 一体、こいつは何を言ってるんだ。誰かここにあっぱらぱー専門の翻訳家がいるなら、どうか是非こいつの言葉を人間用語に和訳してくれ。
 
 
「ハサミよりすきで、セロテープ程はすきではない」
 
 
 ぽかんとしている俺を気遣ってか、本人なりに和訳してくれたようではあるが、相変わらず意味はさっぱり不明のあっぱらぱーだ。
 
 
「ハサミは破壊するもので、セロテープは修復するものだ。俺は御前のことをセロテープほどはすきになれないが、ハサミほど嫌いにもなれない。御前のことはセロテープとハサミの中間点ぐらいに考えてる」
 
 
 意味はわかりかけたが、余りわかっても意味のない話だったように思えて仕方がない。「すきなの?」と問い掛けられたのに対して、こいつは一体今まで何を教育されてきたんだと問い返したくなるような答えだ。
 
 
 そのくせ、本人は冗談なんて欠片も言っていない真面目な面でこっちを見つめたりなんかしている。その真面目面に唐突に笑いが噴き出した。腹の底で小さな虫が踊っているようなくすぐったさと、骨の芯から溢れてくるような奇妙な楽しさだった。
 
 
 やっぱりこいつはあっぱらぱーだ。綺麗だとか淫乱だとか、固い石だとか、柔らかい肉だとか、そんなものを全てひっくるめてこいつは楽しいあっぱらぱーだ。
 
 
 あっぱらぱーが驚いた面でぱちくりぱちぱちと此方を見つめている。その面を見ていると、『セロテープよりかはすきになってもらいてぇなぁ』という気持ちが心の中から不意に湧き出して、胸を満たした。
 
 

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Published in 短編

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