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033 Boys&Girl 2

 
 右手を、誰かに強く握り締められている。指の骨がパキンと折れてしまいそうなくらい、強い力だった。
 
 ギリギリと掌を圧迫してくる痛みに、大地は無意識に眉根を寄せた。意識はまだ暗い底に沈んだままだったが、その暗がりの奥から誰かの声が聞こえてくる。声は次第に大きくなり、そして唐突に目の前で巨大スピーカーがハウリングするようにぐわんと弾けた。
 
 
「ぃ、たぁああぁぃい! おねぇ、ちゃん、いたぃぃっ!!」
 
 
 直ぐ真横から聞こえてきた悲痛な叫び声に、大地は閉じていた目蓋を大きく見開いた。反射的に視線を右隣へと向けると、顔をぐちゃぐちゃにして泣き叫ぶ此花の姿が見えた。此花はその愛らしい顔を苦痛に歪めて、赤ん坊のように泣きじゃくっている。
 
 
「おねぇちゃん、いたぃよぉ…」
 
 
 此花が背筋を反らして、咽喉を震わせる。次の瞬間、大地は此花から勢いよく視線を逸らしていた。此花は、服を着ていなかった。眩しいくらい白い肌がベッドの黒いシーツに映えている。大地ですら見たことのない、此花の一糸纏わぬ姿だった。
 
 懇願するような此花の声の数秒後、うっとりとした女の声が聞こえてきた。
 
 
「うん、最初は痛いよね。此花ちゃん処女だったもんね。でも、大丈夫よ。慣れたら、少しずつ気持ち良くなっていくから」
 
 
 直後、ベッドが軋む音と共に、此花の引き絞るような悲鳴が聞こえてきた。繰り言のような女の声がねっとりと寝室に漂う。
 
 
「此花ちゃん、可愛い。大好きよ、大好き。私の可愛い此花ちゃん…」
 
 
 ぞっとするような粘着いた声だ。その声には聞き覚えがあった。視線を斜め上へと向けると、此花の身体に圧し掛かる佐百子の姿が見えた。
 
 
 佐百子は、十年来の付き合いがある近所のお姉さんだ。恋人である瞬と去年会社を興して忙しい日々を送っているらしいが、変わらず大地と此花とは仲良くしてくれていた。つい先日も、そろそろ此花と大地の誕生日だから一緒にお祝いしようね、と言っていたのにーーー嗚呼、そういえば今日は此花の誕生日だ。
 
 
 ノースリーブの黒いワンピースを身に纏った佐百子は、大きく開かれた此花の股の間に、何度も自身の腰を打ち付けていた。佐百子の腰が前後に動く度に、此花の股からぐちぐちと粘着質な水音が響く。此花はその度に、あぐ、とも、ひぐ、とも付かない呻き声を漏らしていた。
 
 その光景に目を白黒させながら、大地は掠れた声をあげた。
 
 
「…サユ、…な、なにしてんだ…」
 
 
 腰の動きを止めないまま、佐百子が視線を大地へと向けてくる。まるで興味のない置物でも見るかのような冷めた眼差しだ。
 
 
「あら、起きたの」
「何、してんだよ…」
 
 
 思考停止状態のまま同じ言葉を繰り返すと、佐百子は両頬を吊り上げるようにして嗤った。酷く残虐で、気味の悪い笑みだ。
 
 
「レイプ」
「は…?」
「レイプしてんの、あんたの彼女の此花ちゃんを」
 
 
 言いながら、佐百子は自身のワンピースの裾を下腹まで捲り上げた。途端、視界に入ってきた光景に大地は目を疑った。
 
 佐百子の股間には、何ともグロテスクな男性器が生えていた。その男性器は中程まで此花の体内に埋まっており、無惨にも血にまみれていた。
 
 よくよく見れば、それがディルドパンツと呼ばれる男性器の張型が付けられた下着だという事も気付いただろう。だが、目覚めたばかりで虚ろな大地の頭では、そこまで思考が回らなかった。まるで佐百子が突然男になってしまったような驚愕があった。
 
 微笑む佐百子が此花の両足を押し開いて、まるで大地に見せつけるように抜き挿しを始める。その度に、無惨に裂かれた此花の性器から真新しい血が流れ出した。
 
 
「ぃ、ァあ、…だい、ち…っ!」
 
 
 此花が掠れた声で大地の名前を呼ぶ。その声を聞いた瞬間、目蓋の裏が真っ赤になるのを感じた。
 
 
「やめろ…ッ!」
 
 
 押し殺した怒声を上げて、大地はベッドから起き上がろうとした。だが、数センチ浮かび上がった身体は、何かに絡め取られるように再びベッドへと沈んでしまう。頭上を見上げると、両手がベッドの鉄柵に鎖で繋がれているのが見えた。右掌は、此花の左掌とキツく絡められている。
 
 拘束されている事実に気付いた瞬間、顔面から一気に血の気が抜けるのを感じた。色を無くした大地の顔を見下ろして、佐百子が吃驚するぐらい愉しそうに微笑む。
 
 
「瞬! 大地が起きたわよ!」
 
 
 佐百子が扉へと向かって声を上げる。すると、扉越しにこちらへと歩いてくる足音が聞こえてきた。開かれた扉の向こうから現れたのは、煙草を吸う瞬の姿だった。瞬は一瞬興味なさそうに此花を犯す佐百子の姿を一瞥した後、何とも優しげな表情で大地を見つめてきた。
 
 
「大地」
 
 
 いつも通りの甘やかすような声がどうしてだか今は酷く恐ろしい。爪先から脳天へと這い上がってきた悪寒にぶるりと背筋を震わせると、瞬は可笑しがるように笑い声を零した。
 
 
「吃驚した、って顔してるな」
「…なに、…なん、だよ、瞬、…何だよこれ…」
「決めてたんだ」
「ぁ…?」
「お前が十六歳になったら強姦するって」
 
 
 ベッドへと近付いてきた瞬がベッドサイドに置かれた灰皿へと煙草を押し付ける。淡く立ち上る白煙からは、苦い臭いがした。瞬は左腕に付けた腕時計へと視線を落としてから、次の瞬間、歪んだ笑みを浮かべた。
 
 
「ハッピーバースディ、大地」
 
 
 言葉だけ読めば祝福の台詞だというのに、その声音には薄気味悪い情念が宿っているように聞こえた。硬直する大地へと見せつけるように、瞬が左手首の腕時計を眼前に差し出してくる。時刻は、午前零時をちょうど五分過ぎた頃だった。此花と一日違いの、大地の誕生日だ。
 
 五分前に自分が十六歳になったのだと気付いた瞬間、大地は小さく悲鳴をあげていた。青醒めた顔で、信じられないものでも見るように瞬を見上げる。その唇から『冗談だよ』の一言が出てくるのを待ってる。それなのに、瞬はにやにやと意味ありげに嗤うばかりだ。
 
 
 だって、十年間あんなに優しくしてくれたじゃないか。瞬も佐百子も、実の兄姉のように大地と此花に接してくれた。親の帰りが遅い時は、寂しくないように夜遅くまで一緒に居てくれた。週末は、遊園地や水族館に連れて行ってくれた。大地と此花が付き合う時だって、ずっと微笑ましそうに見守ってくれて……家族のようにに優しくしてくれたのに、どうしてーーー
 
 
 ベッドの縁に腰を下ろして、瞬が強張った大地の顔をぐっと覗き込んでくる。情欲が泥のように渦巻く、暗い瞳が大地を見つめている。そうして、瞬は、この上ない裏切りの言葉を吐いた。
 
 
「十年間、ずっとこの日を待ってた」
 
 
 こんなのは、正気じゃない。
 
 
 
 
 
***
 
 
 
 
 
「ぃ、あ゛ッ…! もぉ…おぐ、…やらッ…!」
 
 
 ビクビクと震える爪先を張り詰めさせて、大地は舌ったらずな悲鳴を漏らした。開かれた大地の両太股の付け根に腰をキツく押し付けたまま、瞬が高揚に上擦った声で言う。
 
 
「あぁ、奥擦られんのが嫌なのか? でも、さっき奥掻き回したら、大地すげぇよがってたじゃん」
 
 
 含み笑いの声と共に、最奥まで潜り込んでいた先端がぐちゃりと体内を掻き回す。円を描くように柔らかい粘膜を押し広げられる感触に、大地は目を見開いて悶えた。
 
 
「ヒぃ、ぁあ゛ァッ!」
 
 
 堪らず空中に浮かんだ両足がバタバタと暴れ狂う。それを煩わしく思ったのか、瞬の両手が大地の両足首を掴んで、これ以上ないほど左右に押し開いてきた。そのまま、ずるりと体内に埋まっていた陰茎を先端まで引き抜くと、次の瞬間、再び根本まで一気に突き入れてくる。奥まで先端が叩き付けられた瞬間、大地の体内でぐじゅんと湿った音が響いた。溢れるまで注がれたローションと瞬の大量の先走りが体内で攪拌される音だ。
 
 
「ッ、が…!」
 
 
 生きたまま腹部を切り開かれるような衝撃だった。ピクピクと打ち上がった魚のように痙攣する大地を見下ろして、瞬が窘めるような声をあげる。
 
 
「暴れんなよ大地。優しくしてやれないだろうが」
 
 
 物わかりの良い大人のような事を言うくせに、その顔には紛れもない愉悦の笑みが浮かんでいる。優しく、というくせに、瞬の抱き方は乱暴だった。十年分の情念すべてをぶつけてくるような荒々しさに、まだ子供を抜け切れていない大地の身体はいとも簡単に乱され、暴かれた。
 
 膝裏を掴まれたまま、律動が再開される。瞬の性器が熟れた肉壁をゴリゴリと擦っていく感触が怖いくらい生々しい。反射的に後孔をぎゅうっと締めると、陰茎に太く浮き上がった血管や裏筋を粘膜越しに感じた。
 
 
「…ぅグ、…ぁヴぅッ…」
 
 
 獣のように唸り声を漏らして、体内を異物で犯される感触に耐える。下唇を噛み締めていると、瞬が伸び上がるようにして大地の唇に舌を這わして来た。まるで下品な犬のようにぺちゃぺちゃと音を立てて、瞬は大地の唇を舐めしゃぶった。
 
 
「大地、口開けよ」
 
 
 甘く強請られる声に、唇が震える。反抗するように唇をキツく噤むと、仕置きのように前立腺を一際強く擦り上げられた。張り詰めた亀頭がゴリゴリと前立腺を揉みしだく感触に、電流のような快楽が全身を突き抜ける。
 
 
「ひ、ア゛ぁアアッ!!」
 
 
 堪らず悲鳴をあげた唇へと、次の瞬間むしゃぶり付かれた。拒む間もなく、瞬の舌が咥内へと潜り込んで、くちゃくちゃと咀嚼するように大地の舌をしゃぶってくる。舌を噛み千切られないためなのか、瞬の親指は大地の奥歯を固定するように噛まされていた。
 
 
「ふ…グヴぅ……」
 
 
 舌だけでなく、歯列も上顎も舌の裏までも執拗に舐められる。咥内に流れ込んでくる瞬の唾液が咽喉の奥に溜まって、窒息してしまいそうだ。息苦しさに耐え切れず、咽喉を鳴らして瞬の唾液を飲み下すと、唇を重ねたまま瞬が嬉しそうに笑った。
 
 
「大地、可愛いなァ。すげぇ可愛い」
 
 
 十年間も我慢するの大変だったんだぞ。そんな恨み言のような惚気のような台詞を大地の耳元に囁きながら、瞬が上半身を密着させて腰を蠢かせ始める。途端、ぢんぢんと疼くように痺れていた粘膜が体内の雄の動きを感じ取って、淫靡に収縮し始める。
 
 苦しいくらい全体重で圧し掛かられて、浅く素早く抜き挿しを繰り返される。その度に、互いの腹の間に挟まれた陰茎や陰嚢が揉みくちゃにされて、そこからも身悶えるような快楽が噴き出した。
 
 
「んッ…ぁ、あ゛ぅう…」
 
 
 犯されている場所から、熱いような冷たいような、酷く危うい快感が湧き上がっている。絶頂が近いのか、陰茎の芯がビクビクと時折痙攣するのを感じた。その感覚から逃れたくて、大地は両拳に力を込める。途端、隣から弱々しい悲鳴が聞こえてきた。
 
 
「…だぃ、ち……手…いたぃよぉ…」
 
 
 その声に、冷水がぶちまけられたように熱していた脳味噌が醒める。壊れたロボットのようにギギッと右隣へと視線を向けると、人形のように生気を失った此花と目があった。此花の体内にも、まだ佐百子のグロテスクな張型が深々と突き刺さったままだ。
 
 
「…こ、この…か…」
 
 
 震える唇で名前を呼んで、此花の左手を握り潰していた右手から慌てて力を抜く。だが、次の言葉は出てこなかった。瞬の陰茎が前立腺を抉るような勢いで突き上げてきたからだ。
 
 
「ぎッ…ぁあ゛ッ!」
 
 
 咽喉から引き潰されたような絶叫が弾ける。あまりの衝撃に、唇がパクパクと無意味に開閉を繰り返す。痛みに硬直した大地の顔を、此花はまるで夢の中の出来事のようにぼんやりと眺めていた。
 
 
「…もう一回でも此花の名前呼んだら、一生誰にも会えないような身体にしてやるからな…」
 
 
 嫉妬と執着に狂った男の声が耳穴に呪いのように吹き込まれる。返事をする事も出来ず、はくはくと浅い呼吸を繰り返していると、下顎を掴まれてまた無理矢理口付けられた。くちゃくちゃと音を立てて、咥内を好き勝手に嬲られる。そうしていると、ふと斜め上から呆れたような声が聞こえてきた。
 
 
「ちょっと、隣でSM紛いのことするの止めてくれない? 此花ちゃんから怖がるじゃない」
 
 
 此花の肩まで伸びた髪の毛を優しく掻き上げながら、佐百子が何とも白々しい台詞を吐く。涙に濡れた此花の目元を舐め上げながら、佐百子が腰を前後に動かす。すると、電流でも走ったように此花の全身はビクンと跳ねた。
 
 
「ぉねぇ、ちゃん……」
「なぁに、此花ちゃん?」
「…なか…おかし、ぃよぉ…」
「何? もっと、ちゃんと言わないと解らないわよ?」
 
 
 わざとらしく困ったような声を上げる佐百子の仕草を見て、此花は泣き出しそうに顔をくしゃりと歪めた。暫く幼児のようにしゃくり上げた後、此花の両足が恐る恐る佐百子の細い腰に絡まっていく。
 
 
「サユ、おね、ぇちゃん、…も、っと、…おま●こ、かき混ぜて、よぉ…!」
 
 
 我慢の限界というように、此花が卑猥な言葉を搾り出す。そのまま羞恥のあまり泣きじゃくり出した此花に対して、佐百子は悦に浸るように唇を戦慄かせていた。
 
 
「うん、いいわ。此花ちゃんが好きなだけ、いっぱい掻き混ぜてあげるからね」
 
 
 そう囁き掛けると、佐百子はディルドパンツに付けられたスイッチへと手を伸ばした。スイッチを入れた途端、ヴヴヴと小動物の唸り声のような機械音が此花の体内から漏れ出した。此花が全身をくねらせて、気が狂ったような嬌声をあげ始める。
 
 
「ぁ、あぁぁっ! やら、やらぁああっ!!」 
 
 
 普段のしとやかさなど欠片もなく、発情期の雌犬のように此花は乱れ狂った。やだやだと喚くくせに、腰はもっとと強請るように佐百子へと押し付けている。佐百子が一瞬息を詰めて、それから此花を犯し始める。血にまみれていた此花の性器は、今では溢れ出る愛液のせいで、ぐちゃぐちゃに濡れそぼっていた。佐百子が突き上げる度に、ぬちゃぬちゃと粘着いた水音が響く。
 
 
「あっは、これ震動きて凄いわ」
 
 
 佐百子が笑い声混じりに呟く。それを聞いて、瞬が不愉快そうに鼻梁を寄せるのが見えた。
 
 
「バイブ入りの双頭ディルドかよ」
「ん、ふふ、特注したのよ。此花ちゃんのために」
「悪趣味な奴」
「はっ、同じ穴の狢がほざかないでよバァーカ」
 
 
 佐百子はそう吐き捨てると、次の瞬間には気持ちを切り替えたように愛しげな眼差しを此花へと向けた。此花はガクガクと身体を跳ねさせながら、愛液が泡立つほどに性器を掻き混ぜられている。いつの間にか、繋がれていた大地と此花の手はほどけていた。
 
 佐百子と此花を鼻白んだように一瞥した後、瞬は息も絶え絶えな大地を見下ろして呟いた。
 
 
「大地は、どうして欲しいんだ」
「ふ、…ぁ?」
 
 
 一瞬質問の意味が解らず、大地は弱々しく目を瞬かせた。瞬が大地の顔を覗き込んで、問い掛けてくる。
 
 
「コレを抜いて欲しいか? 前の優しい兄ちゃんに戻って欲しい?」
 
 
 何て、馬鹿げた質問だ。自分でここまで壊しておきながら、この場所まで導いておきながら、今更戻れる選択肢なんてあるわけがないだろうが!
 
 唇が嗤いに捻れそうになるのを堪えながら、大地は息を吐くような弱々しさで声をあげた。
 
 
「…手ぇ、…ほどい、て…」
 
 
 そう訴えかけると、瞬の顔が一瞬だけ悲しげに歪んだ。だが、瞬は躊躇いながらも大地の手をベッドに縛り付けていた布をほどいた。
 
 長時間固定されていたせいで手首の感覚がない。確かめるように手首を数回左右に動かした後、大地は瞬の首筋へとするりと両腕を絡めた。驚いたように目を見開く瞬の顔を、そのまま口元へと引き寄せる。そうして、その耳に囁いた。
 
 
「…俺のからだ、…瞬の、女に、してよ…」
 
 
 裏切りの代償のように、堕落させる一言を吐く。瞬は一瞬息を詰めた直後、痛いくらいの強さで大地の内腿を掴んで来た。そのまま、狂ったような勢いで体内を掻き乱してくる。先端まで引き抜かれて、窄まる後孔を掻き分けるように根本までねじ込まれる。脳天まで串刺しにされるような感覚に、大地は瞬の背にキツく爪を立てた。
 
 
「ぁあ゛、ん、ぐぅ、ひィぁああァッ!!」
 
 
 キングサイズのベッドが四人分の体重を受けて、壊れそうなくらい撓んでいる。寝室は、嬌声と荒い息遣いと卑猥な水音で飽和していた。
 
 潤んだ粘膜を硬くて熱い陰茎で擦られる感触に、夢中になる。絶頂が近いのか、内腿を掴む瞬の指先は肉に食い込まんばかりだ。そうして、一際奥を突き上げられた瞬間、限界が訪れた。
 
 
「ゃ、ぅぁ、アアぁあァあぁッ!!」
 
 
 張り詰めていた陰茎の尿道から、壊れたような勢いで精液が飛び出していた。同時に瞬を咥え込んでいた後孔が痙攣してキツく窄まる。瞬はもう二三度ガツガツと大地の体内を荒らした後、亀頭を一番奥まで潜り込ませて射精した。体内の奥の奥まで、熱い液体で汚される感触に下腹がビクビクと震えた。
 
 
「ぁ…ぁ、な、なかァ……」
 
 
 戦慄く唇が譫言のような言葉を漏らす。瞬はその間も一滴残らず大地の中へと吐き出すように、ゆるゆると腰を前後させている。吐き出されたばかりの精液を、粘膜にぬちゃぬちゃと塗りたくられる感触に、内腿が戦慄く。
 
 
「いいなァ。私も此花ちゃんに中出ししたい…」
 
 
 隣から羨む佐百子の声が聞こえてきた。佐百子と此花もどうやら絶頂に達して、今は中休みの時間に入っているらしい。だが、佐百子も瞬も、組み敷いた子供の身体から性器を引き抜こうとはしない。
 
 瞬が汗に濡れた前髪を掻き上げながら、大地の顔を見下ろす。そうして、唇を歪めてこう呟いた。
 
 
「女になるまで、犯してやる」
 
 
 愉しげな瞬の笑い声に、咽喉がひくりと上下する。だが、大地の唇は引き攣りながらも、紛れもない笑みを浮かべていた。
 
 
 
 
 
***
 
 
 
 
 
「なにが『女にしてよ』よ」
 
 
 情事後の気怠さにうとうととしていた時、ふと隣から揶揄かうような声が聞こえてきた。うざったそうに眉根を寄せながら、大地は仕方なく目蓋を開いた。視線の先には、大地と同じようにシーツにくるまった此花の姿がある。唯一違うのは、ベッドに繋がれた腕ぐらいだろうか。此花は左手を、大地は右手をベッドの鉄柵に繋がれていた。
 
 
 此花は口元をシーツで覆ったまま、小さく笑い声をあげていた。その笑い声に微か不快感を煽られながら、大地は吐き捨てるように答えた。
 
 
「お前こそ、『おま●こ、かき混ぜてぇ』なんて今時AV女優でも言わねぇぞ」
 
 
 意趣返しのつもりで言ったのに、此花はますます楽しげに笑うばかりだ。あまりにも笑うものだから、別室へと行ってしまった瞬と佐百子に気付かれてしまわないか不安になる。
 
 
「おい、瞬と佐百子に気付かれるから笑うの止めろ」
「あ、気付かれるのはまずいね」
 
 
 此花が自身の唇へとわざとらしく右掌を押し当てる。その仕草を眺めながら、大地は潜めるような声で呟いた。
 
 
「上手くいったな」
「うん、やったね。うれしいね。あたし、やっとお姉ちゃんのものになれたぁ」
 
 
 蕩けるような笑みを浮かべて、此花が囁く。ふふふ、と羽虫が羽ばたくような此花の笑い声を聞いて、思わず大地の口元も緩んだ。此花だけではない、大地の身体だって瞬に愛された喜びに満ちていた。
 
 
「ねぇ、あたしたち、ちゃんと出来てたかなぁ」
「出来てた、って?」
 
 
 問い掛けると、此花が大地へと顔を寄せてきた。耳元に小さく囁く。
 
 
「大好きなお兄ちゃんとお姉ちゃんに裏切られた、子供の演技」
 
 
 囁かれた言葉に、大地はゆっくりと瞬いた。先ほどの情事を思い返しながら、いい加減な口調で漏らす。
 
 
「さぁ、たぶん」
「たぶん、ってぇ」
「最後は調子に乗って、俺もお前も『処女』らしくない台詞吐いたからな。少し変に思われてるかもしんねぇし」
「『処女らしくない』って…処女だったのは本当だもん」
 
 
 此花が拗ねたように唇を尖らせる。その唇を悪戯半分に人差し指で押し返すと、此花が不貞腐れたようにそっぽを向いた。
 
 
「俺だって『初めて』だったよ。でも、十年間の欲求不満が爆発して、お互いにあの淫売みてぇな台詞言っちゃったわけだろ」
「そうよ。十年間も待たせるお姉ちゃんとお兄ちゃんが悪いんだわ」
 
 
 そう身勝手な責任転嫁をする。十年間ずっと我慢していたのは、瞬と佐百子だけじゃない。大地も此花も待っていた。兄姉代わりの二人がこうやって自分達を犯す日を。
 
 此花が身体を擦り寄せてきながら、何とも面白そうに声をあげる。
 
 
「ねぇ、お姉ちゃんもお兄ちゃんも、まだあたしと大地が付き合ってるって思ってるのかな」
「たぶん、思ってんだろうな」
 
 
 自分で言っておきながら、その言葉の滑稽さに笑いが零れた。此花と額を付き合わせるようにして、咽喉の奥で笑いを噛み殺す。
 
 確かに此花とは小学生の頃に付き合っていた。だが、その期間なんて一年か二年ちょっとぐらいだ。小さなカップルの恋人ごっこは、たぶん呆気ないくらい簡単に終わってしまった。別にお互いの事が嫌いだった訳ではない。ただ、それ以上に好きな人が出来ただけだ。
 
 
「はやく、お姉ちゃんに大好きって言いたいなぁ」
 
 
 熱っぽい息を漏らしながら、此花が夢心地に呟く。大地だって、本心を言えば此花と同じ気持ちだ。早く、今すぐにでも、瞬に好きだと言いたい。大好きだと。ずっとずっと前から、瞬の事だけを愛していたんだと。
 
 お姉ちゃん好き好きと譫言のように繰り返す此花へと、大地は静かに釘を刺す。
 
 
「それ、絶対に言うなよ」
「わかってるわよぉ」
「言ったら、今までの計画が全部パァになるんだからな」
「わかってるってば」
 
 
 大地はうるさいなぁ、と此花が鬱陶しそうにぼやく。此花の膨れた頬を横目で睨み付けながら、大地は小さく息を吐き出した。
 
 
 まだこれからだ、と思う。まだ仕掛けた罠に掛かっただけだ。雁字搦めに絡め取って、二度と離れないようにしなくては安心出来ない。惚れた欲目を引いても、瞬も佐百子もこの上なく美しい顔立ちをしていた。言い寄る人間は幾らでもいる。並み入る他者を引きずり落として、瞬と佐百子の傍に居続けたいと願うのなら、それ相応の努力が必要だった。これまでの大地と此花の十年は、その努力で占められていたーー何も知らない、無邪気でいたいけな子供のフリをする、という努力。
 
 
「暫くは、無理矢理犯された可哀想な子供を演じるんだからな」
「うん。ふふ、あたし、ハンストでもしちゃおうかな。そしたら、お姉ちゃんがご飯食べさせてくれるかもしれないし」
 
 
 緊張感の欠片もなく、此花はまるでピクニックの予定でも語るように楽しげな様子だ。此花は、たぶん少し壊れてる。大地も、たぶん同じように壊れていた。二人の子供を壊したのは、甘く幼かった恋心だ。
 
 
 大地と此花が恋人ごっこをしていた時期は、ほんの一瞬だった。寂しい子供達は、直ぐに自分達をでろでろに甘やかしてくれる年上の人に夢中になった。
 
 最初は、ただの親切心で瞬と佐百子が優しくしてくれているだけかと思って落ち込んだりもした。だが、年が経つにつれて気付いた。自分達を見つめる瞬と佐百子の眼差しに、どろりと粘着いた欲情がちらついていることを。
 
 気付いた瞬間は、心臓が破裂しそうなくらい嬉しかった。だが、次の瞬間思ったのだ。この人達の気持ちを、一生自分達に留めておくことが出来るのだろうかと。
 
 好きだと言うのは簡単だ。抱かれるのだって簡単だ。だけど、気持ちを一生縛り付けるのには精密な計画が必要だった。
 
 
「十年も我慢したんだ。後何十年でも騙し続けれる」
 
 
 自分自身に言い聞かせるように呟く。此花が同意を示すように、口元を緩めて微笑む。
 
 
 二人が立てた計画は、簡単だった。『何も知らないフリをする』。ただ、それだけ。年上の男女に懐く子供を演じ続けていれば、いつか瞬と佐百子がキレるのは判っていた。大地と此花は、ただ『その時』を待てばいいだけ。その結果、一つの結論が出来上がる。
 
 
ーー瞬と佐百子は、いたいけな子供を無理矢理犯した鬼畜生だ。
 
 
 犯罪を犯した事実と、後はほんの少しの罪悪感があれば良かった。たったそれだけで瞬と佐百子を一生縛り付ける事が出来る。
 
 何も言わない。何も応えない。気付かないフリをする。たったそれだけで愛しい人を永遠に自分のものに出来るのだと思えば、十年の我慢だって大したことはなかった。今思えば、ある意味この十年は幸福な時間だったのかもしれない。おそらく、もう後何年かは、四人で笑い合う事が出来なくなるのだから。
 
 それでもーー
 
 シーツに顔を埋めていた此花がふと呻くように呟く。
 
 
「ねぇ、大地」
「何だよ?」
「あたし、今すっごく幸せ…」
 
 
 嗚呼、そうだ。それでも、好きな人に愛されている事実に、全身は震えるような幸福感に満ちていた。どれだけの罪を背負っても、その甘美な蜜を求めてしまう程に。
 
 
「…俺も」
 
 
 幸せを噛み締めながら、そっと答える。その時、扉が開く音が聞こえた。肩越しに振り返ると、淡く微笑む瞬と佐百子の姿が見えた。
 
 頬が緩みそうになるのを堪えながら、大地は顔を悲痛な色に歪めて呟いた。
 
 
「…瞬…家に帰して…」
 
 
 大人より子供の方がずっとしたたかで、目を背けたくなるくらいおぞましい事をするんだよ。でも、貴方達には教えてあーげない。
 
 

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Published in 短編

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