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026 ばいばい、またあした。

 
 カレェは、ハルを食べるのが好きだ。
 
 言葉のままに、むしゃむしゃと爪先から頭のてっぺんまで全部食べてしまう。ハルの腹を裂いて、内臓をひとつひとつ床に並べて、どれから食べようかと悩む時間がカレェは一番しあわせだ。
 
 ハルは、いつも言う。
 
 
「ちゃんと、丁寧に食べてね」
 
 
 言われなくたって、いつも大事に大事に食べている。ハルのやわらかい頬肉を齧りながら、カレェは血の滴る唇を不服そうに尖らせた。
 
 筋肉の繊維に沿って骨から肉を削ぎ取って、血のついた骨をしゃぶって、飴玉みたいな目玉を舌先で転がす。首から下が全部食べられて、頭だけになったハルが呟く。
 
 
「そろそろ、お別れだね」
 
 
 頭が半分に割れてしまって、ハルの脳味噌がどろりと床へと零れ落ちる。その脳味噌を舌先で掬い取りながら、カレェは小さく頷く。
 
 
「また、あえる」
「それでも、さよならには変わりないよ」
 
 
 ハルは、寂しそうに眉を歪めた。
 
 
「次に会えるボクは、もうボクじゃないかもしれない」
「むつかしいことは、わかんない」
「わかってよ。じゃないと、いつまでもボクばかりがさみしい」
「さみしいってなに?」
「もういいよ。ばいばい、カレェ」
 
 
 諦めたようにハルは目蓋を閉じた。カレェは、しずしずと丁寧にハルの最後のひとかけらまで食べた。奥歯で噛み締めて、ごくりと呑み込んだ。床に零れた血も一滴も残さないように舐め取る。
 
 ハルがすべて消えてしまう。お腹がいっぱいになったカレェは床に寝転んで、ふぅと満足げな息を吐き出す。目を閉じて眠って、明日になればハルがまた現れる。
 
 
「また会ったね」
 
 
 そう言って、はにかむような、少し泣き出しそうな顔で微笑む。延々と繰り返される遣り取りに、カレェは何の疑いも持たない。何度食べられても、また現れるハルを当たり前のように受け入れる。
 
 でも、カレェはひとつだけ嘘をついた。カレェは、さみしさを知っている。ハルを食べて、ひとりきりの、ぽかん、とした空間が広がる世界で、カレェは世界がぎゅうと凝縮されるような孤独を味わう。
 
 だけど、カレェは孤独がわからないふりをする。ハルを毎日食べたいから、それがカレェのしあわせだから、さみしいという気持ちから目をそらす。
 
 ぱんぱんになったお腹を抱えて、カレェは淡くささやく。
 
 
「ばいばい、またあした」
 
 
 早く明日になればいい、と思いながら、カレェはそっと目を閉じた。
 
 

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Published in その他

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