Skip to content →

00 我等が黒旗の下

 
 天地が焼けていた。
 
 赤い空の下、漆黒の軍旗が熱風を孕んで翻る。軍旗を片手に握り締め、肩に長剣銃を担いで、その男は敵兵の死体を踏み締めていた。男の口元に浮かんでいるのは、紛れもない笑みだ。見開かれ、血走った眼球は、炎と血に焦がされていく天地を見つめている。迫り来る炎がちりちりと皮膚を焼く。
 
 赤く焼けた大地では、これから命が尽きる者達が互いに殺し合っている。長剣銃の先端で腹を突き刺された白服の兵士がごぼりと血反吐を吐きながら、地面に倒れ伏す。痙攣する身体を、二三の剣先が追い打ちをかけるように貫く。身体に空いた穴から、まるで間欠泉のように血が噴き出して、兵士達の身体をしとどに濡らす。臭いを嗅ぎ付けた蠅が血にまみれた皮膚を舐めに来る。それを払う余裕なんて有りはしない。大地が血で溢れかえり、地面が粘つくようにぬめり、噎せ返るような臭気を放つ。
 
 誰一人として正常な思考の者は居ない。そんな者は、とっくの昔に殺されてしまった。人間を殺す事に悩んだりするような人間は、生き残れない。しかし、同時に人間を殺す事を喜ぶような人間も、長くは生きれない。戦場に必要なのは、懊悩でもなく歓喜でもなく、凝縮された無心だ。目の前にいる者を刺す、倒す、もう一度刺す、次に目の前にいる者を刺す。その作業に疑問を持たず、それのみをひたすら継続し続ける無心だ。それを繰り返して行くと、次第に自分と他人の区別が付かなくなっていく。刺しているのが自分なのか、刺されているのが自分なのか。それにようやく気付く事ができるのは自身が死に逝くときだけだ。
 
 
「我等が黒旗の下!」
 
 
 軍旗を持った男が咆哮した。まるで慟哭のようにも聞こえる掠れたがなり声だった。周囲の兵士達が咽喉を嗄して、声に続く。大地が揺れるような咆哮に、内蔵が震える。
 
 燃え盛る業火に、男の血まみれの顔が照らされる。死を踏み躙って君臨する男の姿は、まるで魔王のようだった。
 
 

< back ┃ topnext

Published in 地平の戦争

Top