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48 切れた唇 *R-18

 
 獣のようだと思った。
 
 実際、今の葛之宮は人間というよりも動物に近かった。体内で渦巻く衝動と本能に、脳髄まで支配されている。血管を這い回って全身を満たしていく情欲に、知らず息が上がる。指先は震えながらも、毟るように眼下の男の上着のボタンを外していた。
 
 
「おい、引き千切るなよ」
 
 
 小刻みに震える葛之宮の指先を眺めて、金田中尉が茶化すように呟く。その余裕が小憎たらしかった。微かに血走った目で睨み付けると、おや、というように金田中尉が薄く口角を吊り上げた。
 
 
「餓えた犬みてぇな目しやがって。普段の善人面は何処に行ったんだ」
 
 
 せせら笑う声が聞こえる。だが、軽口に付き合っているだけの余裕はなかった。
 
 上着をはだけさせると、物も言わずに露わになった胸へと葛之宮は吸い付いた。淡く色付いた、米粒のように小さな乳首を舐めしゃぶる。生まれたての赤ん坊のような滑稽な行為だとは思ったけれども、自分でも止められなかった。
 
 ぺちゃぺちゃと音を立てて乳首を舐めていると、小さな笑い声が聞こえてきた。見上げると、金田中尉が口元を手の甲で押さえて笑いを堪えているのが見えた。
 
 
「ふ、ふっ、くすぐったいな」
「擽ったいだけですか」
「女じゃないんだ。そんなところで感じられるか」
「でも、僕は今貴方を女として見てます」
 
 
 ともすれば侮辱とも取れる言葉を、葛之宮は平然と吐いた。金田中尉の顔が僅か怒りに歪んで、だが、即座に嘲笑の形を象る。金田中尉が腕を伸ばして、葛之宮の首へと両腕を回す。そうして、こう吐き捨てた。
 
 
「オンナにしてみせろ」
 
 
 挑発するように囁く言葉に、理性がまた音を立てて引き千切られる。眼下の男はにやにやと嗤いながら、当然のように葛之宮の精神を堕落させて行く。自らの身体を餌にして。
 
 もう一度、濡れた尖りへと唇を落とした。口に含んでいないもう片方の尖りへと指先を這わす。尖りを爪先で引っ掻くように弄ったり、指先でキツめに押し潰すと、ほんの少しだけ眼下の下腹がぴくりと跳ねた。
 
 
「痛い方が良いですか」
 
 
 尖りを口に含んだまま訊ねると、金田中尉は不機嫌そうに眉根を寄せた。
 
 
「巫山戯た事をほざくな。また脳味噌に蛆でも湧いてんのか」
 
 
 その暴言ですら今は愛らしく感じた。まるで反抗期の子供のようだ。
 
 咽喉の奥で笑いを噛み殺しながら、たっぷりと唾液をまぶした尖りに一気に噛み付く。途端、金田中尉の身体が痛みに反り返った。だが、悲鳴は漏らさない。奥歯を噛み締めたまま、赤く憤怒を孕んだ目で睨み付けてくる。
 
 その眼差しを見返したまま、葛之宮は歯にじわじわと力を込めていった。歯列に尖りが押し潰されて、形を歪ませていく。小さな尖りが切断される一歩手前に、金田中尉が右手で葛之宮の頭部を鷲掴んだ。
 
 
「痛ぇんだよ下手糞。噛み千切るつもりか」
「痛くして欲しくて、わざと悪態を吐いたんじゃないんですか」
 
 
 へしゃげた尖りから唇を離して言い返すと、金田中尉が一瞬唖然としたように目を丸くした。
 
 その表情から視線を逸らして、真っ赤に充血した尖りを見つめる。ぷっくりと膨らんだ尖りを人差し指で弄りながら、葛之宮は独り言のように呟いた。
 
 
「少し膨らんでる」
 
 
 米粒程度の大きさしかなかった乳首が小豆大に膨らんでいる様を見ると、自分でも馬鹿馬鹿しいほど興奮した。自分がこうしてやったのだ。この男の身体を力ずくで変えたのかと思うと、眩暈じみた高揚を覚えた。
 
 わざといたぶるように肥大した乳首を指先で弄っていると、唸り声の合間から苦虫を噛み潰したような声が聞こえた。
 
 
「加虐趣味とは、随分愉しい趣味をお持ちじゃないか葛之宮お坊ちゃん。ようやく本性が出てきたか」
「本性? 僕に本性なんてものはありませんよ」
 
 
 誤魔化すように言い放つと、金田中尉が薄く含み笑いを漏らした。その笑い声が気に食わなくて、硬い下腹にキツく噛み付いた。跳ねる筋肉の下に、微かに甘く柔らかい肉の感触がする。その柔さが堪らない。まるで金田中尉の本質を表したかのようだ。頑なで硬質で、だが深くまで潜り込むと蕩けるように甘い。
 
 夢中になって、下腹から脇腹、腰骨まで這うように舌で舐めていく。金田中尉の身体には大量の傷痕が刻まれていた。銃が貫通したらしき陥没痕や銃剣で切り裂かれたらしき火傷状の引き攣れが縦横無尽に散らばっている。その皮膚は、まるで無惨に引き裂かれた画布のようにも見えた。
 
 普通の人間ならば一目見た瞬間に目を逸らすであろう醜悪な身体だが、どうしてだか葛之宮は眼下の身体を酷く美しいと思った。情欲を掻き立てられる、生々しい肉体だ。
 
 一つ一つの傷痕を辿るように舐めながら下腹部へと下がっていく。下半身の着衣へと手を掛けた瞬間、金田中尉の左膝頭がピクリと跳ねた。金田中尉の左足裏が葛之宮の右肩をやや強めに蹴り付けてくる。見上げると、何処か怒ったように眉間に皺を寄せた金田中尉の顔が見えた。
 
 
「どうかしましたか」
「何で手前だけが好き勝手にやろうとしてるんだ」
 
 
 露骨に不愉快そうな金田中尉の声音に、葛之宮は微かに眉尻を下げた。そのまま見上げていると、金田中尉がこちらに来いとでも言いたげに折り曲げた人差し指を動かした。葛之宮が顔を寄せると、今度は違うとばかりに首を左右に振る。
 
 
「下を出して、顔をまたげ」
「…は?」
「しゃぶってやるから、チンポ出して口に突っ込めって言ってんだよ」
 
 
 金田中尉が大きく開いた自身の口を指さす。咥内の暗がりの奥に、僅かに蠢く舌先が見えた瞬間、葛之宮は全身が燃えるように熱くなるのを感じた。右手を伸ばして、親指の腹で緩く金田中尉の下唇をなぞりながら呟く。
 
 
「…いいんですか?」
 
 
 葛之宮の戸惑った声音に、金田中尉がふっと嘲るように嗤う。
 
 
「犬に身体中に噛み付かれるよりかはマシだ。いいから、気が変わらない内にとっとと突っ込め」
 
 
 言い終わると同時に、金田中尉がまるで強請るように、下唇に触れる葛之宮の親指へと舌を這わせた。指の側面を柔らかい舌が舐める感触に、背筋が粟立つ。
 
 下衣の前をくつろげながら、枕に凭れ掛かった金田中尉の顔へと下腹部を寄せていく。下衣から取り出した性器は、既に完全に勃ち上がっていた。浅ましく濡れた先端を見た瞬間、葛之宮は今すぐこの場から逃げ出したいような衝動に駆られた。だが、それ以上に、目の前の傲慢な上官を汚したいという欲望の方が勝っていた。
 
 
「もう勃ってるのかよ」
 
 
 金田中尉が小さく笑いながら、柔く目を細める。雄の欲望の象徴を見ているというのに、その表情は妙に和やかだった。手の掛かる子供を見ている母親のような、微笑ましい眼差しだ。
 
 固定するようにカリを人差し指と親指で摘んで、雫が滲む先端へと金田中尉の舌腹がぺちゃりと這わされる。生温かい粘膜が弾力のある先端の上を這う感触に、下腹部から痺れにもにたもどかしさが込み上げてきた。そのまま飴でも舐めるように何度も、ぺちゃぺちゃと先端へと舌が滑らされる。舌先が弱い鈴口を掠める度に、腰骨がぶるりと震えそうになった。
 
 
「…ふ」
 
 
 唇から無意識に吐息が漏れる。眼下の光景に眩暈がした。あの自尊心の強い男が今は娼婦のように葛之宮の陰茎を舐めしゃぶっているのだ。これほどに高揚する光景があるだろうか。
 
 先端から先走りが滴るほどになった頃、ようやく陰茎へも舌が伸ばされた。完全に勃起した陰茎に、裏筋が太く浮かび上がっている。尖った先端が裏筋を下から上へと辿るように這わされると、もう堪らなかった。下半身から電流が走って、脳髄がどろどろに溶けていく。
 
 金田中尉の口淫は執拗だった。陰茎に浮かんだ血管の凸凹を舐められ、唇でキツく吸い付かれる。だが、達するには足りなかった。
 
 葛之宮は、物言わず掌を金田中尉の頭部へと伸ばした。想像よりも柔らかい髪質を指先でといた後、後頭部へと掌を添える。葛之宮の望みに気付いたのか、金田中尉が伏せていた視線を持ち上げた。見上げた顔、その唇が先走りとも唾液ともつかない粘液でてらてらと濡れ光っている。
 
 陰茎から唇を離した金田中尉が口角を柔く上げて呟く。
 
 
「好きに動け」
 
 
 許容とも投げ遣りとも付かない言葉だった。その言葉を聞いた瞬間、葛之宮は片手で自身の陰茎を掴んで、先端を金田中尉の唇へと寄せた。先端がぷちゅと音を立てて濡れた唇へと触れる。そのまま腰を前へと進めると、唇の狭間の奥へと陰茎がつるりと呑み込まれていった。熱く吸い付くような咥内の感触に、膝立ちした太腿がぶるりと震えそうになる。
 
 ずるずると奥へと進めても、金田中尉は葛之宮の性器を従順に呑み込んだ。だが、三分の二ほど含ませたところで金田中尉の眉根が寄せられた。ぐ、と呻く声が咽喉の奥から聞こえる。
 
 
「苦しいですか?」
 
 
 前髪の付け根を撫でながら訊ねると、口いっぱいに性器を咥えたまま金田中尉が葛之宮を見上げてきた。咽喉が開かれて苦しいのか、不服そうに尖った目は淡く潤んでいた。その目を見た瞬間、残忍なまでの衝動が込み上げてくるのを感じた。
 
 
「歯を、立てないで下さいね…」
 
 
 優しい声とは裏腹に、両手で金田中尉の頭部を乱暴に鷲掴む。頭部が動かないように固定したまま、葛之宮は更に腰を前へと進めた。
 
 
「ヴ、ぐゥ…ぅヴッ」
 
 
 唸り声が大きくなる。それでも葛之宮は腰を止めることなく、根本まで無慈悲に呑み込ませた。金田中尉の咽喉の戦慄きを、直に先端に感じる。ピクピクと痙攣する咥内がピッタリと陰茎に貼り付いているのが堪らない。
 
 だが、葛之宮が快感を感じているのに反比例して、金田中尉は苦痛を感じているようだった。葛之宮の太腿を掴んだ両手の指先がギリギリと肉に食い込んでいるのを感じる。
 
 
「最初は、ゆっくり動きますから」
 
 
 それは言い訳というよりも金田中尉への慰めに近かった。苦しげに歪められた金田中尉の顔を恍惚とした眼差しで見下ろしながら、葛之宮はゆっくりと腰を前後に振り始めた。
 
 
「ぐ、ぅッ…んヴ…ぅ」
 
 
 半分ほど抜き出して、また根本まで挿し込む。動きは緩慢に、だが咽喉の抵抗をねじ伏せるように強引に奥まで犯す。
 ギチギチに開かれた金田中尉の唇の縁を、凸凹とした陰茎が出入りしている様は酷く卑猥だった。次第に唾液と先走りが混ざり合ってきたのか、唇の挾間からぷちゅぷちゅと何とも滑稽な水音が鳴り始める。金田中尉の唇の隙間に泡立った粘液がまとわりついているのが見えた。
 
 
「中尉、こちらを見て下さい」
 
 
 腰を緩やかに動かしたまま、固く閉じられた金田中尉の目蓋へとそっと指先を這わせて呟く。すると、金田中尉が片目を眇めたまま葛之宮を見上げてきた。微かに赤く血走った目が葛之宮を睨み付けている。その目を見た瞬間、背筋がぶるりと震えた。唇が無意識に歪な笑みを刻む。
 
 
「そのまま、ちゃんと目を合わせてて下さいね」
 
 
 言い聞かせるように囁きながら、耳裏を優しく撫でてやる。すると、驚いた事に、その掌へと懐くように金田中尉がコメカミを擦り寄せてきた。獣が人間に甘えてくる動作に似ている。無意識でやったのか意識的にやったのかは判らないが、どちらにしても性質が悪い。
 
 
「ん、良い子ですね」
 
 
 上官に対してこんな言葉遣いは許されないと知りながらも、そう褒めずにはいられなかった。良い子と囁いた瞬間、金田中尉の目が微かに蕩けるのが見えた。潤んだ黒目の焦点がくらくらと揺らいだまま、まるで親でも見るように葛之宮を見上げている。淫猥な行為にそぐわぬ幼い眼差しに、また情欲が煽られた。
 
 後頭部を掴む両手に力を込めて、そのままずるりと先端近くまで陰茎を引き抜く。その次の瞬間には、咽喉奥まで一気に突き入れた。途端、金田中尉の目が大きく見開かれる。
 
 
「ッぐ、ぶ、グヴぅッー!」
 
 
 奥まで捻じ込んだ先端に、嘔吐する寸前のような咽喉の収縮を感じる。ぎゅうっと先端を絞り込んでくる締め付けに腰骨が震える。それでも止める事なく、葛之宮は繰り返し腰を乱暴に叩き付けた。
 
 金田中尉は激しく顔を歪めながらも、葛之宮から目を逸らそうとはしない。従順なまでに言い付けを守って、葛之宮の目を真っ直ぐ見上げている。その目には、生理的な涙がじんわりと滲んでいた。
 
 口周りは粘液と泡でぐちゃぐちゃに濡れそぼり、葛之宮が動く度にぶちゅぶちゅと聞くに耐えない下劣な音を奏でている。粘着質な水音に混じって、荒い息遣いが聞こえた。それが自分のものなのか、それとも金田中尉のものなのか既に判断が付かなかった。
 
 
「ふっ…ぅ…」
 
 
 腰を前後に動かす度に、陰茎に貼り付いた金田中尉の舌が裏筋をくちゅくちゅと擦ってくるのが堪らなかった。性器から紛れもない快楽が背筋を通って、脳味噌の奥まで突き抜けてくる。
 
 限界が近かった。後頭部を掴んでいた片手を滑らせて、陰茎の形に膨らんだ金田中尉の頬をそっと撫でる。
 
 その瞬間、葛之宮は驚きに目を見開いた。金田中尉の目から一筋の涙が溢れ出していた。目尻から頬へと伝って、葛之宮の掌の内側へと吸い込まれていく。掌に水滴の感触を感じるのと同時に、葛之宮は口から引き抜くことも忘れて、金田中尉の咽喉の奥へと精液を叩き付けていた。
 
 
「んんグっ、ヴぅーッ!」
 
 
 金田中尉のくぐもった叫び声が聞こえる。葛之宮の太腿を、金田中尉の硬い拳がドンッと強く叩く。だが、解放するだけの余裕もなく、葛之宮は背筋を戦慄かせながら温かい咥内へとすべてを吐き出した。
 
 長い射精だった。陰茎の痙攣が収まって、ようやく呼吸が戻って来る。荒い息を吐き出しながら、葛之宮は金田中尉へと視線を落とした。途端、少し噴き出しそうになった。金田中尉の頬がリスのようにぷっくりと膨らんでいる。
 
 笑みを滲ませた葛之宮を見上げて、金田中尉が苛立ったように顔を歪める。太腿をもう一度強く叩かれて、葛之宮は小さく笑いながらゆっくりと腰を引いた。萎えた陰茎がずるずると金田中尉の咥内から引き抜かれていく。
 
 先端が唇からずるりと抜け出るのと同時に、金田中尉が盛大に噎せ返った。咥内に溜まっていた白濁を自身の胸元へと雑に吐き出しながら、ひゅうひゅうと掠れた呼吸を繰り返している。
 
 
「…ッざけん、な、クソがッ…口に出しやがって、窒息させる気か…!」
 
 
 胸を荒く上下させながら、金田中尉が悪態を喚き散らす。その口周りは涎と精液でねっとりと濡れていた。咥えている最中に切れたのか、口角からは薄っすらと血が滲んでいる。
 
 その淡い朱色を見た瞬間、収まり掛けていた熱がくらりと脳髄を揺らすのを感じた。切れた口角へと指を這わせながら、葛之宮は金田中尉の顔へと唇を寄せた。
 
 訝しげに眉根を寄せた金田中尉を見つめながら、べたべたに汚れた口角へと舌を這わせる。同時に、唾液と精液と血が混ざり合った味が舌先に広がった。美味しいとは気が狂っても言えないが、それでも汚いとは欠片も思えなかった。
 
 そのまま拒絶の声がないのを良い事に、汚れた口周りを丹念に舐めていく。咥内まで舌を差し込むと、金田中尉の咽喉が小さく上下に震えた。笑っているようだ。唇を緩く離して視線を合わせると、金田中尉が目を細めて笑っているのが見えた。
 
 
「どうして笑ってるんですか」
「自分のチンポ咥えてた口に、よく舌突っ込む気になれるな」
「あぁ、確かにそうですね」
 
 
 適当な相槌を返してから、また目の前の唇へと口付けた。咥内を探るように舌先を動かしていると、金田中尉の方から舌を絡めて来た。
 
 柔らかい舌を擦り合わせて、苦い唾液を当たり前のように呑み込む。舌の感覚が薄れて、どこからどこまでが自分で、どこからどこまでが金田中尉の舌なのかが解らなくなってくる。それがどうしてだか気が狂いそうな程に嬉しい。
 
 絡み付いた舌を解いて、金田中尉が笑い声混じりに呟く。
 
 
「お前は、潔癖性かと思っていたんだがな」
「どこからそんな想像が出てきたんですか。そもそも交接に潔癖も何もないでしょう」
「ふ、ふ、そうだな」
 
 
 また笑う。子供のような無邪気な笑顔を見つめながら、葛之宮は呟いた。
 
 
「今日は、よく笑いますね」
「麻酔のせいで躁になってんだろう」
 
 
 いい加減に言い放って、金田中尉が両腕をぱたりと頭上へと落とす。中途半端な万歳のような格好をしたまま、金田中尉は緩く葛之宮へと視線を流した。
 
 
「薬のせいで、おかしい」
 
 
 幼児のような舌ったらずな言い方なのに、その声には紛れもない色香が滲んでいた。誘っているようで、確かに誘われている。
 
 湿った掌を金田中尉の下腹へと這わせると、金田中尉の口角が微かに吊り上がった。その唇から甘えるような笑い声が聞こえた気がした。
 
 

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Published in 地平の戦争

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