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49 椿の花 *R-18

 
 組み敷いた身体が時折大きく波打つ。
 
 物欲しげにパクパクと開閉を繰り返す鈴口に舌を這わせた時、金田中尉の身体はいたいけな少女のように震えた。同時に、香油で濡れた後孔に挿し込んだ二本の指がぎゅうっと締め付けられる。
 
 
「ふ、…ぐゥウ…」
 
 
 揃えた二本の指で粘膜を上下に擦り上げると、締められた犬のような唸り声を金田中尉が漏らした。その色気も素っ気もない喘ぎ声に、思わず忍び笑いが零れる。
 
 濡れた先端に唇を寄せたまま小さく笑い声を零していると、不意に後頭部の髪が乱暴に掴まれた。視線を上げると、目尻を真紅に染めた金田中尉の顔が見えた。険しい眼差しで葛之宮を睨み付けている。
 
 
「何ですか」
 
 
 平然と問い掛けると、金田中尉は一瞬だけ咽喉を上下に戦慄かせた。その震えが何とも愛らしく見える。
 
 
「いつまで人の尻穴弄くってるつもりだ。面倒臭ぇから、さっさとブチ込め」
「嫌です」
「あ゛ぁ?」
「無理な挿入は互いに負担を掛けるだけですし、僕は貴方に気持ち良くなって欲しいです。気持ちが良いと思って欲しいです。僕との行為が『痛くて最悪なもの』だったと後悔されるくらいなら、何時間だってココを弄くり続けますよ」
 
 
 淡々と言い返しながら、後孔へと挿していた二本に指をくっと折り曲げる。ぬめった肉壁がぐにゃりと指先を圧迫してくる。それと同時に、金田中尉が内腿をぶるぶると震わせた。
 
 金田中尉の唇が何か物言いたげに薄く開かれるが、直ぐに真一文字に引き結ばれてしまう。金田中尉は結局何も言わずに、両腕で自身の目元を覆い隠した。
 
 微かに震える内腿へと舌を這わせながら、葛之宮は未だ狭い後孔へともう一本指を捻り込んだ。三本目の指が中へと押し入ってきた瞬間、金田中尉の咽喉から唸り声が漏れ出る。
 
 
「ヴ、…ヴゥゥう…」
 
 
 相変わらず獣のような声だと思う。だが、どうしてだかその声に無性に煽られる。一度達したはずの自身の性器が触れてもいないのに硬度を取り戻しているのを感じる。頭の奥で、本能がガンガンと喚いている。とっとと目の前の男に突っ込んで、骨の髄まで犯し尽くしてやりたい、と。
 
 ギチギチと引き攣る後孔内を、重ねた三本の指でゆっくりと犯す。根本まで突き入れて、粘膜内側を擦るように引き抜いていくと、金田中尉の唇が震えた。
 
 
「ふぁ…、あぁ…ぁ」
 
 
 微かな快楽の声だった。声に煽られて、ずくんと下腹に熱が篭もる。もう一度同じ動作を繰り返すと、金田中尉が耐え切れないと訴えるように後頭部を枕へと打ち付けた。
 
 
「…それ、は、やめろ…」
 
 
 掠れた声で訴え掛けながら、顔を覆う腕の影から金田中尉が葛之宮へと視線を向けてくる。怒っているようにも泣き出しそうにも見える金田中尉の表情を見て、唇が勝手に笑みの形に歪んでいく。
 
 
「抜かれる時の方が気持ち良いんですか?」
 
 
 訊ねながら、ずるずると再び指を引き抜いていく。その途中で、僅かに指先に引っ掛かりを感じた。痼りのようなその場所を指先で擦った瞬間、金田中尉の背筋がビクンと大きく跳ねるのが見えた。固く噛み締めた唇の隙間から殺し切れなかった嬌声が漏れ出る。
 
 
「ッ…ァ!」
 
 
 鼓膜が振動した瞬間、葛之宮は思わず達しそうになった。麻薬のような声に、眼下の微かに震える身体に、脳味噌が侵されていく。
 
 痼りをコリコリと指先で弄くると、半勃ちだった金田中尉の陰茎が力を持って勃ち上がってきた。先端がピクピクと戦慄いているのが見える。
 
 同時に、指を咥え込んだ後孔がぎゅうぅうっと引き千切るような勢いで締め付けてきた。視線を落とすと、三本の指を咥えて赤く充血した後孔の縁が見える。その燃えるような真紅に、やけに咽喉が乾いた。椿の花のような鮮烈な色彩だ。
 
 
「…くっ、ずの……や…ッ、…やめ、ろ…」
 
 
 微かに上擦った金田中尉の声が可愛い。戦場では悪鬼のように敵を殲滅していく男が今は葛之宮の指で生娘のように翻弄されている。その変貌が葛之宮の理性を打ち壊していく。
 
 次第に柔らかく綻んできた後孔にうっとりする。香油が粘膜に馴染んできたのか、指を動かすとちゅくちゅくと小さな水音が聞こえた。入口の開き具合を確かめるように、中で指を大きく広げる。途端、金田中尉の両足が痙攣するように暴れ出した。踵が寝具の敷布を蹴り飛ばすのを見て、葛之宮は慌てて金田中尉の右膝裏を掴んだ。
 
 
「暴れないで下さい。傷が開いたら大変ですから」
 
 
 宥めるように言いながら、押し上げた右脚の脛に緩く唇を落とす。真っ白だった包帯に淡く朱色が滲んでいる。じわじわと面積を広げる朱色へとちらりと横目を向けてから、葛之宮は素知らぬ様子で殊更和やかな笑顔を作った。
 
 葛之宮の笑みを見て、金田中尉が唇を歪める。
 
 
「悪党が…」
 
 
 声が微かに震えているように聞こえたのは、葛之宮の願望だろうか。仕置きをするように後孔の指を根本までぐちゅんと押し込むと、金田中尉の顎が跳ね上がった。反り返った咽喉がひゅうっと掠れた音を立てている。
 
 
「今の貴方は、女のようですよ」
 
 
 揶揄かうように囁くと、金田中尉の頬に朱色が走った。屈辱をありありと浮かべたその表情に興奮してしまう辺り、自分は相当性根が腐っているのだと思う。
 
 つい数ヶ月前まで聖人君子のようだった自分が懐かしいほどだ。目の前の男に溺れて、自分はどんどん堕ちていく。非道に、残虐に、卑しく、ただの下衆へと成り下がる。
 
 それが悲しいだとか虚しいとは今は思わない。むしろ、それは歪んだ悦びを葛之宮へと与えた。少なくとも、これは自分の選んだ結果だという自覚があるからだ。父や兄弟に無理矢理選択させられた事ではない。これは、この男を抱くのは、葛之宮の選択で、葛之宮の望みだ。
 
 どろどろに溶けた後孔から指を引き抜く。抜く瞬間、指先にねっとりと絡み付いた粘膜の感触に、舌なめずりしそうになった。
 
 両足を抱え上げると、金田中尉が一瞬だけ怪訝そうに視線を揺らした。まだ小さく口を開けている後孔にガチガチになった先端を押し当てると、宙に浮かんだ爪先が跳ねるのが見えた。
 
 
「貴方に、挿れていいですか」
 
 
 吐息と共に言葉を吐き出す。金田中尉は一瞬何とも言えない表情を浮かべた。眉根を寄せて、困ったような拗ねたような幼い表情。だが、それも直ぐに皮肉気な笑みに消されてしまう。
 
 
「お前の好きにしろ」
 
 
 両腕が伸ばされて、首へと回される。するりと絡められた腕を感じた瞬間、葛之宮は目の前の男の柔らかい体内へと潜り込んでいた。ぐっと腰に力を込めて、肉の抵抗を捻じ伏せるように陰茎を金田中尉の体内へと突き刺していく。
 
 
「ッグ…ぅぐヴ…ッ!」
 
 
 首裏に回った両腕がぎゅうっと背中を掻き抱いてくる。ギリギリと背中に食い込む指先が痛い。だが、金田中尉が感じている痛みはこの程度ではないだろう。
 
 半分ほど挿入したところで、締め付けのあまりのキツさに葛之宮も根を上げた。指の時は柔らかく包んでくれていたのに、陰茎になった途端、異物として拒絶してくる。締め付けてくる強さに萎えそうになるのを必死で堪える。
 
 
「中尉、少し…力を抜いて下さい」
 
 
 膝裏を抱え直しながら、緩く耳元へと囁く。だが、聞こえている様子はなく、金田中尉は奥歯を噛み締めたままキツく目蓋を閉じている。先ほどは朱色だった頬は、今は血の気が抜けて真っ白になっている。
 
 その物慣れない様子に、不意に『まさか』という思いが込み上げた。
 
 
「まさか初めてなんですか?」
 
 
 口に出した瞬間、ぶわっと背筋が粟立つのを感じた。後悔や恐怖からではない。紛れもない興奮と高揚からだ。
 
 金田中尉が痛みに顔を引き攣らせながらも薄く片目を開く。強がりのつもりなのか、その口角がひくひくと震えていた。
 
 
「…だったら、…なん、だ…」
 
 
 その一言で、頭の奥にガツンと殴られたような衝撃が走った。自分の意志とは関係なく、唇が笑みの形に吊り上がりそうになる。
 
 初めて。初めてなんだ。この人の奥に入ったのは自分だけ。自分だけがこの人の体内の柔らかさや温もりを知っている。
 
 そう思うだけで、脳味噌が焼け焦げそうになる。唇が戦慄いて、勝手に言葉を零していた。
 
 
「…どうしよう」
「…いまさ、ら、…後悔して…やめたく、なったか…」
「どうしよう、うれしい」
 
 
 金田中尉の皮肉が耳に入らないくらい、全身に歓喜が満ちていた。
 
 今まで抱いてきた女達が処女だろうがなかろうがそんな事は気にも止めなかったのに、目の前の男が誰にも抱かれていない、ただそれだけの事が嬉しくて嬉しくて堪らない。
 
 嬉しい、と繰り言のように呟く葛之宮の様子に、金田中尉が怪訝そうに瞬く。その奇妙な物でも眺めているかのような金田中尉の顔を見下ろしながら、葛之宮は唇を震わせた。
 
 
「うれしくて…息が止まりそうです」
 
 
 息が止まりそう。何処かで聞いた言葉だと思った。だが、何処で聞いたのか熱に浮かされた頭では思い出せなかった。
 
 呆然と葛之宮を見上げる金田中尉へと顔を寄せて、葛之宮はそっと囁いた。
 
 
「口を、開いて」
 
 
 葛之宮の囁きに応じて、固く噛み締められていた金田中尉の唇がゆっくりと開かれる。その隙間に誘われるようにして、葛之宮は唇を重ねた。
 
 痛みに萎縮している舌を探り出して、優しく嬲っていく。唾液を絡めて、柔らかい舌腹をぬるぬると舐る。上顎をゴリゴリと扱くように擦ると、金田中尉の鼻から、ん、ん、と抜けるような声が聞こえた。
 
 飽きもせず咥内を犯している内に、後孔の締め付けが僅かに緩んだ。その隙にゆっくりと腰を進める。ずっずっ、と奥に押し込まれる感覚に気付いて、金田中尉が口付けの合間に掠れた声を漏らした。
 
 
「ン…ぐ、…んん…ぅ…っ」
 
 
 無意識に逃れようと悶える腰を掴んで、無慈悲に根本まで呑み込ませる。奥に進めば進むほど、ねっとりと引き絞るように肉壁が陰茎に絡み付いてきた。少しぐらい強引な方が金田中尉の身体は従順になるらしい。
 
 腰がピッタリと尻にくっ付くのと同時に、絡めていた舌を解放する。もう唾液を呑み込む余裕すらないのか、半開きになった金田中尉の口角からだらりと唾液が零れて行くのが見えた。まるで赤ん坊のようだと思うと愛おしさが募った。
 
 
「全部、入りました」
 
 
 教えるように囁くと、金田中尉は曖昧に視線を揺らした。何処か現実を把握出来ていないような眼差しで宙を見上げたまま、右手をするりと下腹の方へと下ろしていく。その指先は更に下へと下りていき、葛之宮を呑み込んでいる後孔まで伸ばされた。
 
 指先が確かめるように陰茎と後孔の境目へと触れる。その瞬間、金田中尉の指先が跳ね、限界まで開かれた後孔がきゅうっと締まるのを感じた。は、と息を吐きながら、その衝撃に耐える。
 
 それでも金田中尉の指先は、また何度も縁をゆるゆると撫でた。葛之宮の下生えを掌でざりと撫でて、金田中尉が深く長い息を零す。
 
 
「あぁ…ほんとに、全部、入ってるな…」
 
 
 現実を確かめるような静かな声音だった。投げ遣りとも諦めとも違う、すべてを受け容れてそっと包み込むような穏やかな声だ。
 
 虚ろだった目にも焦点が戻っている。ちらちらと燭台の光に照らされた艶やかに黒い瞳が葛之宮をじっと見上げていた。稚くも見える眼差しに、胸の奥に温かい何かが込み上げてくる。優しくしたい。この人に誰よりも優しくしたい。
 
 優しくしたいという願望と酷くしたいという欲求は、葛之宮の中で紙一重だった。この相反する感情を抑制する方法を葛之宮は知らず、知る必要もないと思っている。きっと目の前の男は、矛盾していない男などには興味を持たないだろう。
 
 
「痛いですか…?」
 
 
 額同士をそっと重ねながら訊ねる。途端、金田中尉の唇から小さな笑い声が零れた。
 
 
「痛ぇ、に決まってるだろう」
 
 
 笑いながら痛いと答えてくる。表情と言葉は合っていないが、金田中尉の額に滲んだ脂汗を見ると、矢張り酷い痛苦は感じているのだろう。
 
 
「一旦、抜きましょうか」
「さっきは無理矢理根本まで食わせといて、今更抜くとか言うのかよ」
 
 
 精一杯の気遣いに呆れたような軽口を返される。
 
 では、どうすればいいのかと葛之宮が途方に暮れかけた時、金田中尉の両腕が葛之宮の背へと回された。背中をそっと抱き締められて、耳元に囁かれる。
 
 
「根元まで入れたまま、奥を突いてくれ…」
 
 
 甘い誘いに眩暈がした。視線を落とすと、惑わすように微笑む男の顔が見えた。眼下の男が望むとおりに葛之宮は溺れていく。
 
 腰骨を掴んで、根本まで埋まったままゆっくりと奥を小刻みに突いて行く。
 
 
「んっ、んん…ッ」
 
 
 鼻がかった喘ぎ声が耳の側で聞こえる。時折掻き混ぜるように腰を回すと、耐えられないと言いたげに指先が背中に食い込んだ。
 
 
「…は、ぁ、……んぅァ…」
 
 
 快楽に没頭していくような甘ったるい声に脳味噌が沸騰しそうになる。
 
 奥を何度もこね回していると、次第に肉筒全体が柔らかく陰茎に吸い付いてくるのを感じた。腰を動かす度に、ちゅくちゅくと嫌らしい水音が結合部から聞こえてくる。陰茎に浮かび上がった凸凹に火照った粘膜がくちゅくちゅとしゃぶり付いていた。
 
 陰茎に熱が巡って、頭の奥が快楽のことしか考えられなくなってくる。
 
 
「中尉、中尉…動きたい、です…。もっと、貴方のなかを、ぐちゃぐちゃに」
 
 
 譫言のような不明瞭さで懇願する。すると、金田中尉が閉じていた目蓋を開けて、葛之宮を見上げた。その口元に薄っすらと悪戯じみた笑みが滲んでいる。
 
 
「俺の、なかは、気持ちいいのか?」
「はい、とても。頭がおかしくなりそうなくらい」
 
 
 素直に答えると、金田中尉の笑みが深まった。わんぱく坊主でも眺めているような微笑ましい笑みを浮かべて、それから獣のような素早さで唇を貪られた。舌を滅茶苦茶に絡めて、飢えた犬のように唾液を嚥下していく。
 
 そうして、唇を離すと、金田中尉は挑戦的な口調でこう言った。
 
 
「――俺を、ぐちゃぐちゃにしろ」
 
 
 プツン、と何かが千切れた。背中に回っていた金田中尉の腕をふりほどいて、一気に上半身を起こす。腰骨を鷲掴むと、そのまま根本まで埋まっていた陰茎を一気に先端まで引き抜いた。
 
 
「ッぁ…!」
 
 
 殺し切れなかった悲鳴が金田中尉の唇から零れる。だが、それに構わず引き抜いた陰茎を、今度は一気に奥まで捻り込んだ。ずりゅりゅ、と音が鳴りそうなほど激しく中を擦って、奥をキツく突き上げる。
 
 
「ア、ぁアアぁッ!!」
 
 
 嬌声というよりももう悲鳴に近い。悲鳴をかき消すように、激しい律動を繰り返す。先端まで引き抜いては奥まで突っ込む。時折奥をゴツゴツと小刻みに突くと、金田中尉の背が寝台の上で踊った。
 
 視線を落とすと、陰茎を引き絞る後孔の縁が赤くぷっくりと腫れているのが見えた。その縁をキツく前後に擦り上げている肥大化した陰茎も。陰茎が出ていく度に、縁がめくれ上がって血のような真紅の粘膜が覗く。その真紅に心が奪われる。この紅は、自分しか知らない。
 
 次第に絶頂が近付いてくるのが判る。右手を伸ばして、金田中尉の陰茎を掴んで、上下にやや乱暴に扱いていく。途端、金田中尉が目を剥いて、背筋を跳ねさせた。扱く手の動きに合わせて、後孔がきゅうきゅうと収縮を繰り返す。まるで精液を強請るかのような淫靡な蠢きだ。
 
 
「中尉…なかに、出させて下さい…」
 
 
 荒い息混じりに吐き出した声が金田中尉に届いていたかは解らない。だが、金田中尉は何も答えずに葛之宮の胸倉を掴んで引き寄せてきた。唇に乱暴に噛み付かれて、咥内を滅茶苦茶に荒らされる。
 
 唇を重ねたまま、律動を激しくしていく。ゴリッと音がするほどに奥まで捻り込んだ時、金田中尉の身体が電流でも受けたかのように大きく震えた。
 
 
「ふ、ぁ、あぁ、っ…」
 
 
 扱いていた陰茎から白濁した液体が腹の上へと撒き散らされる。射精に合わせて後孔がきゅうぅうっと柔らかく陰茎を引き絞ってくるのを感じた。堪え切れず、葛之宮も金田中尉の奥深くへと熱を吐き出した。
 
 
「ッは、ぁ…」
 
 
 二回目だというのに大量の精液だった。中々射精が終わらず、その間葛之宮は痙攣する金田中尉の粘膜をぐぷぐぷと音を立てて擦り続けた。動く度に、吐き出したばかりの精液が結合部から溢れ出す。
 
 今、金田中尉を汚しているのだと思った。残虐で酷薄で皮肉屋で、そのくせ不安定で、時折子供のようにいたいけな目の前の男を、葛之宮の欲で犯している。
 
 ようやく射精が終わって、混ざり合った荒い息だけが聞こえてくる。見下ろすと、何処か朦朧とした金田中尉の顔が見えた。視線を宙で揺らした後、金田中尉はぼそりと譫言のように呟いた。
 
 
「…痛ぇ」
「ぁ…すいません」
 
 
 反射的に謝ると、金田中尉は気怠そうに首を左右に振った。
 
 
「違う。尻じゃなくて足の方だ」
 
 
 その言葉に、視線を金田中尉の右足へと向けると、包帯に滲み出した赤は更に面積を広げていた。葛之宮は小さく息を飲んで、まだ中に入ったままの自身を抜き出そうと咄嗟に腰を引こうとした。
 
 
「す、すいません、直ぐに手当を…っ」
「いい」
 
 
 言葉が途中で遮られる。と同時に、引き掛けていた腰を長い左足に絡め取られて引き戻された。ぼすんと金田中尉の身体の上へと逆戻りしてしまう。
 
 
「手当はいいから、もう少しこうしてろ」
 
 
 葛之宮の腰を左足で取り押さえたまま、金田中尉が上の空で呟く。その真意が解らず、葛之宮は困惑した。
 
 
「ですが…」
「なぁ、俺の身体は悪くなかったか?」
 
 
 唐突かつ率直過ぎる質問に、葛之宮は目を剥いた。だが、金田中尉は茶化す様子もなく、何処か真剣な眼差しで葛之宮を見てくる。その視線に押し切られるようにして、葛之宮はぎこちなく頷いた。
 
 
「…はい」
 
 
 悪くなかったどころか未だかつてないほど最高の身体でした、とは流石に言えなかった。そんなことを言ってしまえば羞恥のあまり舌を噛み千切りたくなってしまう。
 
 葛之宮の返答を聞くと、金田中尉は「ふぅん」と適当な相槌を漏らした。聞いておいて然程興味がなさそうな返答だ。
 
 それにしても、いい加減中から引き抜かないと、そろそろ熱が復活してしまいそうで怖かった。濡れた粘膜が未だちゅぷちゅぷと陰茎に絡み付いてくるから辛い。
 
 これも何かの嫌がらせなのだろうかと葛之宮が思い始めた時、金田中尉が小さく呟いた。
 
 
「抱かれるっていうのは、身体ごと心を委ねているようで、何だか堪らないな」
 
 
 その小さな声は独り言のようにも聞こえた。葛之宮が視線を向けようとすると、それを遮るように金田中尉が葛之宮の首へと両腕を回した。引き寄せた肩口に鼻先を擦り寄せて、また囁く。
 
 
「満たされた気分だ」
 
 
 さみしい独り言だった。その寂しさに胸が締め付けられる。
 
 もしかしたら、この人は空っぽなのかもしれないと思った。空っぽな自分の中を一瞬だけでも埋めようとして、葛之宮に抱かれたのかもしれない。あまりにも悲しくて虚しい理由だ。
 
 だけど、それでも構わないと思った。この人の空虚さを少しだけでも満たせれるのなら、何でもしたいと思う。どんなことでも出来る。
 
 両腕を伸ばして、金田中尉の身体をそっと抱き締める。伝わってくる心臓の音に、金田中尉がほっと溜息のような声を漏らした。
 
 
「あったかい…」
 
 

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Published in 地平の戦争

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