Skip to content →

08 泣きわめく(4)

 
 熱に身体ごと食われているようだった。
 
 咥内を掻き乱されながら、舌を必死に絡み合わせる。粘膜同士が柔らかく擦れ合って、ねちねちと隠微な音を立てるのがたまらなく気持ちよかった。時折真樹夫が小山の上顎をぞろりと舐め上げると、鼻がかった声が無意識に小さく漏れた。閉ざされた空間の静寂の中、世界で二人ぼっちになってしまったかのようにきつく抱き合う。
 
 
 キスの合間に、冷たい指先に身体をまさぐられる。真樹夫の指は、細くてどこか華奢なイメージがある。女性的と言ってもいい。そのたおやかな指先が上着の裾から胸元へと這い上ると、悪寒にも似た痺れが背筋を走った。反射的に身体が打ち上げられた魚のように跳ねる。
 
 ありもしない胸をぐいと揉みしだかれる。筋肉が引き攣る痛みに、ぐっと咽喉が濁った音を鳴らす。女とは勝手が違うことを思い出したのか、真樹夫はすぐに胸の尖りへと指先を滑らせた。米粒のような尖りを爪先で微かにいじられると、むず痒さにも似た火照りが下腹部からぞわぞわと這い上がってくる。
 
 
 気付いたら、脱ぎ捨てられた服が辺りに散らばっていた。真樹夫の白い肌が闇にぼんやりと浮かび上がっている。真樹夫の鎖骨から背中にかけては、白百合に絡み付く蛇の刺青が彫られている。その蛇が真樹夫の肩口から小山を鋭く睨み付けていた。
 
 冷たい皮膚が全身に淡く擦り付けられる。小山は、真樹夫の冷え切った身体を緩く抱き締めた。まるで赤子を抱く母親のように、この人を温めてあげたかった。
 
 
「すきです」
 
 
 耳元に譫言のように囁く。真樹夫の皮膚が一瞬跳ねて、微かに震える。掌でそっと背中を撫ぜていると、肩口に水の感触が触れた。小山の肩に額を押しつけて、真樹夫は声も出さずに泣いていた。
 
 
「…俺が好きか」
「はい、すきです」
 
 
 震えた声の問い掛けに、迷いなく答える。少し癖っ毛な髪を指先で梳いていると、真樹夫はどこか達観したような諦念混じりの声で呟いた。
 
 
「…お前しかいないのかもしれない」
「何がですか?」
 
 
 真樹夫は答えなかった。涙に濡れた目をあげると、鼻先が触れ合うような距離で小山を見つめる。息が詰まりそうなぐらい真剣な眼差しだった。いつもにやにやと鷹揚に笑っている真樹夫とは違う。悲哀と情欲が滲んだ瞳。
 
 ひたりと頬に掌が触れる。何度か感触を確かめるように撫でられて、そのむず痒さに目を細めた。真樹夫さん、と声をあげようとすると、声ごと呑み込まれるようにキスをされる。まるで幼子を宥めるかのように、柔らかく何度も触れるだけのキスが落ちてくる。まるで子供の遊びのようなキスなのに、心が掻き乱される。悲しみと愛しさがマーブル状に絡み合って、心臓を静かに仄暗く浸していく。愛しているのに悲しい。それとも愛しているから悲しいのか。小山にはもう区別がつかなかった。
 
 
 胸元へと添えられていた指先が脇腹を辿って、腰骨へと下ろされる。性器に淡く絡み付く指先を感じた瞬間、小山はビクンと背骨を震わせた。小山の震えを感じたのか、真樹夫が唇をそっと離す。互いの舌先が唾液で繋がっているのが酷く卑猥に思えて、小山は直視を躊躇って顔を逸らした。
 
 
「…嫌か?」
 
 
 小山が顔を背けたことを拒絶と受け取ったのか、真樹夫が酷く心細そうな声で問い掛けてくる。小山はハッとして、首を左右に振った。
 
 
「いやじゃないです」
 
 
 はっきりと答える。それなのに、真樹夫は何処か苦しげな眼差しで小山を見つめたままだ。
 
 
「お前は、俺に同情してるのか?」
 
 
 真樹夫らしくない、酷く投げ遣りな言い方だった。真樹夫の唇は、自己嫌悪とも付かないもので微かに歪んでいる。
 
 
「俺、同情なんかしてないです」
「そうか」
「本当です」
 
 
 繰り返しても、真樹夫の憮然とした表情は変わらない。信じて貰えないのが辛い。でも、それも当然だ。抱かれたくないと、好きではないと、涙ながらに真樹夫に訴えたのは小山自身だった。今更発言を撤回したところで信じて貰えないのも当然だ。
 
 性器から離れていく指先を引き留めるように掴む。そのまま指先を緩く絡み合わせると、驚いたように真樹夫が目を見開いた。
 
 
「すきです、から…真樹夫さんがいやじゃなかったら……触って、欲しいです」
 
 
 一言吐き出すごとに咽喉がカラカラに干上がっていく。もう真樹夫の顔を見ていられなかった。俯いたまま、ぎこちなく唇を動かす。
 
 
「お願い、です。…おれに、触ってください」
 
 
 口に出した瞬間、全身が戦慄いた。皮膚の下が燃えるように熱くなって、耳まで赤く火照るのが判る。
 
 
 ――恥知らず、薄汚い犬如きが…。
 
 
 羞恥心に身悶えて、自分自身を罵る言葉で頭の中が溢れる。恥ずかしさに耐えきれず、小山は片腕で顔を覆い隠した。だが、直ぐにその腕を掴まれて、無理矢理引き剥がされる。驚きの声をあげる間もなく、それこそ犬のように唇に噛み付かれる。絡まった指先を振り解かれて、まだ柔らかい性器を無理矢理尖らせるように上下にしごかれた。
 
 
「ひ、ッ…!」
 
 
 あまりの衝撃に、咽喉から素っ頓狂な悲鳴が迸った。痛みとも快楽ともつかない感覚に、両足がガクガクと震える。
 
 
「まっ、真樹夫さっ…待って、くださッ…」
「小山、足を開け」
 
 
 小山の懇願に耳を貸すこともなく、冷淡に命じられる。ハッとして顔をあげる。そこに居たのは、先ほどまで妹の死に泣きわめいていた男ではなかった。真樹夫は、犬を躾ける飼い主の表情をしている。咄嗟縋り付くように涙目で真樹夫を見上げるが、冷めた眼差しが返ってくるだけだった。
 
 
「足を、開け」
 
 
 物覚えの悪い子供の相手をするように、厳しく繰り返される。小山は頬をひくりと引き攣らせてから、死にたいような羞恥の中、恐る恐る足を広げた。その様子を見て、真樹夫が微か頬に笑みを滲ませる。
 
 
「いい子」
 
 
 その一言に、頭の芯がぢんと痺れていくのを感じた。もっと良い子だと褒められたい。撫でられたい。良い子でいさえすれば、きっと真樹夫だって小山を長く傍に置いてくれるはずだ。
 
 
 左右に大きく開かれた足の間で、真樹夫の掌が性器を好き勝手に揉みしだく。始めは上下にすくだけの単純な動作だったが、性器が勃ち上がってからはその動作に微細な技巧が混じるようになった。指の腹で裏筋をなぞられ、爪の先でカリの部分を甘く弄られる。その度に腰が床から跳ね上がるような快楽が下腹から噴き出した。
 
 
「ぅ、ヴぅー…ん、ウぅ…」
 
 
 口元を掌で押さえて、小山は咽喉から溢れそうになる嬌声を必死で噛み殺していた。額から尋常じゃないほどの汗が滲み出してくる。体温が異常なほど上がっていた。
 
 先端から溢れ出す先走りは既に滴るほどに、真樹夫の手をしたたかに濡らしている。くちゅくちゅと聞こえてくる水音は、真樹夫の手によって先走りが塗り広げられている証拠だ。それが恥ずかしくて堪らない。
 
 
「声を殺すな」
 
 
 苛立った声に、固く閉じていた目蓋をゆっくりと開く。涙で濡れた視界に、声音よりもずっと優しげな真樹夫の顔が見えた。
 
 
「だ、…だって…、おれの、声、…気持ち悪ぃ、っすから…」
「気持ち悪いかどうかは俺が決める。お前は言われた通りにすりゃいいんだ」
 
 
 普段よりも男っぽい真樹夫の口調に、怖気とも高揚ともつかない感覚が込み上げてくる。口元を覆う掌を無理矢理剥がされて、代わりのように唇が落とされる。触れ合う唇が純粋に嬉しい。好きな人とキスができるのがこんなに嬉しいだなんて、小山は今まで知りもしなかった。
 
 
「ん、んっ」
 
 
 息継ぎのタイミングが解らずに、鼻から抜けるような声が零れる。ぬるぬると滑る舌に、いとも簡単に翻弄される。キスの合間に性器をくちゃくちゃといじられて目が眩む。特に先端をいじられると駄目だった。鈴口の辺りに指先が当たるだけで、内腿がビクリと跳ねてしまう。それを解っているのか、真樹夫は時々意図的に爪先で鈴口を引っ掻いた。
 
 
「ヒっ、ァ…!」
 
 
 鈴口をぐりぐりと爪先で抉られる。それは痛みと紙一重のキツイ快楽だった。
 
 
「や、あ゛ァアぅ…!」
 
 
 悲鳴に近い声が溢れる。助けを求めるように目の前の男にしがみ付いても、真樹夫は許してはくれない。
 
 
「ま、きおさっ…痛ぃっ、いだい゛、ぃ…!」
 
 
 眼球から涙がぼろぼろと溢れてくる。しゃくり上げながら訴えると、ようやく性器から真樹夫の指が離れた。痛々しいほどに張り詰めた性器は、先走りでてらてらと光っている。自身の性器の様子に、小山は酷く狼狽した。自慰をした時だって、こんな風になったことはない。こんな、真っ赤に血走って、いやらしい形になんか――
 
 
「卑猥だな」
「…ぇ?」
「食い物みてぇ」
 
 
 ぽつりと呟かれた真樹夫の言葉を、小山は理解する事が出来なかった。理解するよりも早く、濡れそぼった性器が真樹夫の唇へと呑み込まれていた。
 
 
「ひっ…!」
 
 
 肩を縮めて、息を呑んだ。小山にとってその光景は、殆ど恐怖に近かった。真樹夫が小山の性器を咥えている。飼い主が犬の性器をしゃぶるだなんて、そんな事はあり得ない。
 
 
「や、やめて下さっ…!」
 
 
 制止する言葉を遮るように性器が吸い上げられる。内臓から吸われるような感覚に、小山は下腹をぎゅっと凹ませて悲鳴を漏らした。そのまま、唇で上下に性器をすかれる。温かく性器を包み込む粘膜のぬるついた感触が生々しい。声を出そうにも、吐き出す息が震える。
 
 
「や…ヤぁ…」
 
 
 嫌だ、真樹夫さんはこんな事しちゃいけない。こんな薄汚い犬のものなんて咥えちゃいけない。奇妙な罪悪感がぼろぼろと涙を溢れさせる。嗚咽を零す小山を見て、真樹夫が苦々しく顔を歪める。唇から性器を抜き出すと、真樹夫は乱暴に小山の下唇を人差し指と親指で掴んだ。
 
 
「五月蠅ぇ。人が折角しゃぶってやってんのに、ぐずぐず鬱陶しく泣いててんじゃねぇよ」
「は、はって…まふぃおふぁんが、ふぉれのなんか…」
「勘違いするな。俺はお前に教えてやってるんだ」
「おふぃえ…?」
 
 
 首を傾げると、小山の下唇を掴んでいた真樹夫の指がゆっくりと動いた。親指の腹で下唇を緩く撫でてから、小山の歯列をゆるりと意味深げになぞっていく。
 
 
「お前は男のもんなんかしゃぶったことねぇんだろう? だから、教えてやる。俺好みのしゃぶり方を」
 
 
 真樹夫の目がやらしく歪んでいる。小山の飼い主、首輪のリードをその手に握る王様の暗く淫靡な眼差し。ぞくりと背筋が知らず震えた。
 
 咥内へと入れられた親指が柔らかく舌先をなぶっていく。まるで、咥内に模擬的に真樹夫の性器を入れられているかのようだった。そう思った瞬間、腰骨がぐずぐずに蕩けた。知らず、目がとろんと潤む。ぼんやりと真樹夫を見上げたまま、咥内で柔らかく蠢く親指に舌を這わせる。まるで赤ん坊のように親指の先に吸い付くと、真樹夫が微かに笑ったのを感じた。馬鹿な犬だと思われているのかもしれない。だけど、それでも構わない。
 
 
「お手って言われたら、チンポ舐めるように躾けてやる」
 
 
 まるで脅迫のような言葉。だが、小山はその一言に紛れもなく発情していた。いつか真樹夫の性器がこの口に突き入れられる。小山には、真樹夫の性器に嬉々としてしゃぶり付く自分の浅ましい姿まで想像できるようだった。
 
 口を閉じることが出来ず、だらだらと涎が垂れていく。下顎を伝う涎を、真樹夫が舌で舐め取る。
 
 
「物欲しげな面だな」
「…すいま、ふぇん…」
「想像したのか?」
「ふぁ…」
「俺のチンポ舐めるの想像したのか?」
 
 
 問い掛けに、殆ど無意識に頷いた。真樹夫が口角に酷薄な笑みを滲ませる。そうして、小山の耳元へと唇を寄せると一息に吐き捨てた。
 
 
「間違って歯でも立ててみろ。手前の歯、ペンチで全部ブチ折ってやる」
 
 
 凄惨な台詞に鳥肌が立つ。恐怖ではなく興奮から。濡れそぼった小山の性器は勃ち上がったまま、萎える気配はない。真樹夫が視線を落として、嘲るように軽く鼻を鳴らす。
 
 
「歯ァ全部引っこ抜かれないように、覚えろ」
 
 
 従順に頷きを返す。それと同時に真樹夫の頭が小山の足の間へと埋められた。その光景に、先ほどのような抵抗は抱かない。それ以上に学習しなくてはという使命感の方が大きくなっていた。
 
 
「ふっ…ぁ…」
 
 
 先端をぺちゃりと舌先で舐められる。丁寧な舌使い。カリの部分を唇で包み込まれて、そのままずるずると咽喉の奥まで飲み込まれていく。温かい粘膜に柔らかく包み込まれる感触が頭が真っ白になるくらい気持ちがいい。竿へとぴたりと舌を貼り付けたまま、真樹夫の頭がゆっくりと上下し始める。性器を締め付ける唇はきついくらいで、それなのに腰骨が痺れるくらい快楽は深かった。唇の間で先走りがぷちゅぷちゅと卑猥な音を立てる。それすらも真樹夫の好みなんだと思って、小山は必死で覚えようとした。
 
 
「あ゛、ァッ…ヤ、ぅう…っ!」
 
 
 全部覚えなくちゃいけないにのに快楽が脳髄を掻き乱す。全身の血液が真樹夫の唇が触れる部分へと集まっていくようだ。破裂しそうなくらいドクドクと強く脈打っている、心臓が、それとも性器が。
 
 
「ヴ、ぁア゛っ…!」
 
 
 浮かび上がった筋に真樹夫の唇が吸い付く。膨れ上がった血管が刺激される感触に、小山は素っ頓狂な叫び声をあげた。凹んだ下腹がビクビクと痙攣して、限界を訴え始める。震える手で真樹夫の頭に触れて、小山は掠れた声をあげた。
 
 
「…ま、きおっ、さ…んッ…もっ、離し…ッ……出ちゃ…」
 
 
 切れ切れの声で訴えても、真樹夫の頭は動きを止めない。どろどろに溶けた性器を吸い上げて、舌先で先端を散々いたぶってくる。
 
 
「もっ、でっ、るから…離してッ…おねが…ぁ…おねが、…ですからっ……」
 
 
 切ない懇願は悉く無視される。鈴口に舌を突き入れられる感触に、小山は声をあげて咽び泣いた。嫌々するように首を左右に振りつつ、何とか絶頂を堪えようと両足の爪先がぎゅっと丸まる。
 
 
「や、ですッ…! ヤだ、ぁ! もっ出る……離し…ッーー!」
 
 
 悲鳴は最後で途切れた。根本深くまで咥えられるのと同時に、目の奥で火花が散った。炸裂、という感覚だった。墜落感にも似た深い絶頂に、意識が一瞬途切れる。下腹と内腿が大きく痙攣して、開脚した両足踵が畳の上を滑る。尿道を通って、精液が真樹夫の咥内へと弾け出す。真樹夫は噎せもせず、青臭いそれを咽喉の奥で受け止めた。ビクビクといたいけに震える性器の最後の一滴まで搾り出すように先端を何度も吸い上げてから、ようやく唇を離す。途端、小山の身体は人形のように畳の上へとガックリと倒れ込んだ。
 
 咥内を満たす生ぬるい液体を掌へと吐き出して、真樹夫は小さく吐き捨てた。
 
 
「畜生、苦げぇな」
 
 
 その声は小山には届いていなかった。荒い呼吸に胸を上下させて、虚ろな眼差しを宙へと浮かべている。その無防備な姿を眺めて、真樹夫がうっそりと微笑む。屠殺場にいる家畜を見るような残虐な眼差しだった。
 
 

backtopnext

Published in touch'ボコ題

Top